ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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堂上が売っているのは、情報商材と呼ばれるものだ。
正直なところ、おれにはこの単語の意味がよく分からない。やつが売りだしたのは「一年以内に結婚できる絶対恋愛成就法」という、やっぱりよく分からない商材。ちなみに堂上本人はまだ独身の三十代だ。
奴はあちこちの恋愛マニュアル本から、こいつは使えるというアイディアを集め、自分なりのマニュアルを作った。おれが本を読んだ限りでは、堂上は恋愛にも結婚にも興味はなさそうだが、それでも平気だった。金になりそうなら、題材など何でもいいのだから。
それからネットで徹底的な宣伝活動を開始する。ツィッターやフェイスブックなどを使い、アフィエイトを使い、メールアドレス生成ソフトを使ってでたらめにメールを送る。三か月後のある日、十二時間限りで絶対恋愛成就を売りだすと宣伝したのだ。夏までまだ少し間がある五月のある日の休日の午後、やつは情報商材を
売りに出した。
深夜十二時までに申し込んだ買い手の数は、十万人と少し。一部三千円だから、売り上げは三億を超えた。
それが堂上が本にして自らたたえるネットビジネスの偉業だ。
金が動いたということ以外で、ここになにか人間の仕事があるのだろうか。おれは思うけれど、ネットに限らずおれ達のビジネスはだんだんとレベルが低くなっていないだろうか。
自分よりも程度の低い奴なら、いくらだましてもかまわない。だまされるほうが馬鹿なのだ。仕事の内容がいくら薄くて浅くとも、売り上げがすべてを決定する。この方法に一番近いのは、オレオレ詐欺だと思うのは、おれだけだろうか。
嫌な気分になったので、おれはボロディンをききながら、ふて寝した。
次の日の朝も引き続き、憂鬱だった。
しかも、朝十時の時点であっさりと三十三度を記録している。おれはトラックに轢かれた空き缶みたいにへばって、茶屋で店番をしていた。不幸の電話はいつだって最低の気分の時にやってくる。
『悠、聞いたか』
ブルーハワイのフラッペみたいに耳に冷たい崇の声だった。
「なにもきいてない。おれ達の世の中は最低だ。」
ふんっと池袋のガキの王が鼻で笑った。
『お前に教えてもらわなくとも、ずっとこの世界は最低だ。襲撃事件があった。店の名前は「ザ・ストリーム」。西池袋にある、何だっけな』
おれは記憶力にかけた王を助けてやった。
「コワーキング・スペースだろ」
『ああ、そうだ。なんで、悠が知ってるんだ?』
「おれが生まれついての都市のノマドだからだよ」
反応が何もない。きっと崇はスマホから耳を離しているのだろう。庶民の冗談は汚らわしいのかもしれない。
『すこし黙れ。いいか「ザ・ストリーム」が襲撃されて、店のガラスが割られた。店内に投げ込まれたビニール袋はアンモニアでいっぱいだったらしい。出入口の扉には「次は火だ」と殴り書きされていた。ここまで、いいか』
「ああ。」
頭のなかにメモしていく。こちらのほうがスマホよりもぜんぜん安心だ。
正直なところ、おれにはこの単語の意味がよく分からない。やつが売りだしたのは「一年以内に結婚できる絶対恋愛成就法」という、やっぱりよく分からない商材。ちなみに堂上本人はまだ独身の三十代だ。
奴はあちこちの恋愛マニュアル本から、こいつは使えるというアイディアを集め、自分なりのマニュアルを作った。おれが本を読んだ限りでは、堂上は恋愛にも結婚にも興味はなさそうだが、それでも平気だった。金になりそうなら、題材など何でもいいのだから。
それからネットで徹底的な宣伝活動を開始する。ツィッターやフェイスブックなどを使い、アフィエイトを使い、メールアドレス生成ソフトを使ってでたらめにメールを送る。三か月後のある日、十二時間限りで絶対恋愛成就を売りだすと宣伝したのだ。夏までまだ少し間がある五月のある日の休日の午後、やつは情報商材を
売りに出した。
深夜十二時までに申し込んだ買い手の数は、十万人と少し。一部三千円だから、売り上げは三億を超えた。
それが堂上が本にして自らたたえるネットビジネスの偉業だ。
金が動いたということ以外で、ここになにか人間の仕事があるのだろうか。おれは思うけれど、ネットに限らずおれ達のビジネスはだんだんとレベルが低くなっていないだろうか。
自分よりも程度の低い奴なら、いくらだましてもかまわない。だまされるほうが馬鹿なのだ。仕事の内容がいくら薄くて浅くとも、売り上げがすべてを決定する。この方法に一番近いのは、オレオレ詐欺だと思うのは、おれだけだろうか。
嫌な気分になったので、おれはボロディンをききながら、ふて寝した。
次の日の朝も引き続き、憂鬱だった。
しかも、朝十時の時点であっさりと三十三度を記録している。おれはトラックに轢かれた空き缶みたいにへばって、茶屋で店番をしていた。不幸の電話はいつだって最低の気分の時にやってくる。
『悠、聞いたか』
ブルーハワイのフラッペみたいに耳に冷たい崇の声だった。
「なにもきいてない。おれ達の世の中は最低だ。」
ふんっと池袋のガキの王が鼻で笑った。
『お前に教えてもらわなくとも、ずっとこの世界は最低だ。襲撃事件があった。店の名前は「ザ・ストリーム」。西池袋にある、何だっけな』
おれは記憶力にかけた王を助けてやった。
「コワーキング・スペースだろ」
『ああ、そうだ。なんで、悠が知ってるんだ?』
「おれが生まれついての都市のノマドだからだよ」
反応が何もない。きっと崇はスマホから耳を離しているのだろう。庶民の冗談は汚らわしいのかもしれない。
『すこし黙れ。いいか「ザ・ストリーム」が襲撃されて、店のガラスが割られた。店内に投げ込まれたビニール袋はアンモニアでいっぱいだったらしい。出入口の扉には「次は火だ」と殴り書きされていた。ここまで、いいか』
「ああ。」
頭のなかにメモしていく。こちらのほうがスマホよりもぜんぜん安心だ。