ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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「うちに登録してる?」
店の若い男は最初からため口だった。白いシャツに整えられたあごひげ、下はロールアップしたジーンズだ。素足にローファーが涼しげ。
「えっ、会員制なのか、この店?」
「おたくここが何するとこだか、分かってる?」
「初めてだから、全然わからない」
奴はおれの手元をちらりと見た。いつもの通り、当然おれは手ぶらだ。
「ここはコーヒー出す店じゃなくて、働くところ。おたくはパソコンも持ってないよね。うちに来てもしょうがないんじゃないの。」
大テーブルがふたつと、壁際には幅の広いカウンターがついている。椅子の数は二十近くあるだろうか。二組ほどなにか話をしていた。男のいるカウンターには、ピカピカのエスプレッソマシーンも置いてある。どう見ても普通のカフェだった。おれはなぜかインテリには見えないらしい。とっておきの手を出した。おれが連載しているストリートファッションの雑誌の名刺だ。信じられないかもしれないが、おれの肩書は「コラムニスト」。茶屋の店主じゃない。
やつはおれの名刺を受け取り、目をやると顔色を変えた。水都さんの印籠みたいだ。
「あの雑誌はならうちもとってますよ。小鳥遊さんて「THE・street」のライターだったんだ。ぼくも読んでますけど、もっと年上の人かと思ってました。」
いきなり丁寧語に変わっている。おれは最大限の笑顔を固定した。
「コラムに書くネタを探していて、ここを見つけたんだ。先月にはなかったよね。ちょっと取材させてもらっていいかな」
「大歓迎です。ここは開いて三週間もたってないです。うちはノマドワーカーのためのスペースなんですよ」
ノマドワーカー。遊牧民のような働き手?
「貸事務所みたいなものかな?」
「ちょっと違うんですよね。店の中を案内しますよ。まず、ここが人と人のつながりを広めたるためのフリースペース。ノマドはみんなフリーランスですから、ここで横のつながりを作って、仕事の幅を広げてもらいます。」
おれ達が居るのはカフェみたいなところだった。あご髭はカウンターを抜けて、奥の壁に向かう。その向こうは図書館の閲覧室みたいに細かく区切られた机でいっぱい。広さはフリースペースと同じだった。おしゃべりは聞こえない。キーボードを叩くパチパチ音だけ。
「で、こっちが電源と電波を用意したワーキングスペースです。うちの会員になるには、入会金が千円。後は一時間百円で、使い放題です。冷蔵庫や自動販売機もありますよ。」
なるほど、フリーの人間が自分の家ではなく、こうした場所で働いて、何人かマンパワーを集めて仕事を請けたりするのか。おもしろいものだ。
「みんな、パチパチしてるけど、IT関係が多いのかな」
オモチャの箱詰めや金具の加工といった内職をしている奴はひとりもいなかった。
「悪いんだけど誰かノマドの人を紹介してもらえないかな」
やつは親指をたてて喜んだ。
「やったー、うちの店のことをコラムに書いてもらえるんですか。ちゃんと店の名も乗りますよね?」
「ああ、のるよ」
たいして売れてない雑誌だが、それでも喜んでもらえるようだった。どれほどの訴求力があるん分からないのに、メディアのマジックだよな。
奴は少し考えるといった。
「じゃあ、うちの常連さんでいい人が居ます。あと二十分もしたら、くると思いますんで」
「わかった、ちょっと待たせてもらうよ。」
おれはフリースペースに戻り、メモを取り始めた。コワーキング・スペースの特徴、店のマスターのフレンドリーさ、机や椅子の造りなどなど。
会社くさくも、ビジネスらしくもないところに、おれは好感を持った。
店の若い男は最初からため口だった。白いシャツに整えられたあごひげ、下はロールアップしたジーンズだ。素足にローファーが涼しげ。
「えっ、会員制なのか、この店?」
「おたくここが何するとこだか、分かってる?」
「初めてだから、全然わからない」
奴はおれの手元をちらりと見た。いつもの通り、当然おれは手ぶらだ。
「ここはコーヒー出す店じゃなくて、働くところ。おたくはパソコンも持ってないよね。うちに来てもしょうがないんじゃないの。」
大テーブルがふたつと、壁際には幅の広いカウンターがついている。椅子の数は二十近くあるだろうか。二組ほどなにか話をしていた。男のいるカウンターには、ピカピカのエスプレッソマシーンも置いてある。どう見ても普通のカフェだった。おれはなぜかインテリには見えないらしい。とっておきの手を出した。おれが連載しているストリートファッションの雑誌の名刺だ。信じられないかもしれないが、おれの肩書は「コラムニスト」。茶屋の店主じゃない。
やつはおれの名刺を受け取り、目をやると顔色を変えた。水都さんの印籠みたいだ。
「あの雑誌はならうちもとってますよ。小鳥遊さんて「THE・street」のライターだったんだ。ぼくも読んでますけど、もっと年上の人かと思ってました。」
いきなり丁寧語に変わっている。おれは最大限の笑顔を固定した。
「コラムに書くネタを探していて、ここを見つけたんだ。先月にはなかったよね。ちょっと取材させてもらっていいかな」
「大歓迎です。ここは開いて三週間もたってないです。うちはノマドワーカーのためのスペースなんですよ」
ノマドワーカー。遊牧民のような働き手?
「貸事務所みたいなものかな?」
「ちょっと違うんですよね。店の中を案内しますよ。まず、ここが人と人のつながりを広めたるためのフリースペース。ノマドはみんなフリーランスですから、ここで横のつながりを作って、仕事の幅を広げてもらいます。」
おれ達が居るのはカフェみたいなところだった。あご髭はカウンターを抜けて、奥の壁に向かう。その向こうは図書館の閲覧室みたいに細かく区切られた机でいっぱい。広さはフリースペースと同じだった。おしゃべりは聞こえない。キーボードを叩くパチパチ音だけ。
「で、こっちが電源と電波を用意したワーキングスペースです。うちの会員になるには、入会金が千円。後は一時間百円で、使い放題です。冷蔵庫や自動販売機もありますよ。」
なるほど、フリーの人間が自分の家ではなく、こうした場所で働いて、何人かマンパワーを集めて仕事を請けたりするのか。おもしろいものだ。
「みんな、パチパチしてるけど、IT関係が多いのかな」
オモチャの箱詰めや金具の加工といった内職をしている奴はひとりもいなかった。
「悪いんだけど誰かノマドの人を紹介してもらえないかな」
やつは親指をたてて喜んだ。
「やったー、うちの店のことをコラムに書いてもらえるんですか。ちゃんと店の名も乗りますよね?」
「ああ、のるよ」
たいして売れてない雑誌だが、それでも喜んでもらえるようだった。どれほどの訴求力があるん分からないのに、メディアのマジックだよな。
奴は少し考えるといった。
「じゃあ、うちの常連さんでいい人が居ます。あと二十分もしたら、くると思いますんで」
「わかった、ちょっと待たせてもらうよ。」
おれはフリースペースに戻り、メモを取り始めた。コワーキング・スペースの特徴、店のマスターのフレンドリーさ、机や椅子の造りなどなど。
会社くさくも、ビジネスらしくもないところに、おれは好感を持った。