ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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またもおかしな夏だった。
地球温暖化以降、まともな夏はもう期待薄なのだろうか。日本列島は西でも東でも連日三十五度を越える猛暑が続き、なぜか九州、中国、中部では一時間百ミリの猛烈な豪雨が止まらない。反対に東京はぜんぜん雨のない夏で、打ち水をした店の前の歩道も数分で元通りカラカラに乾いてしまう。池袋では誰もが幽霊のようにふらふらになって、午後の陽ざしのなか汗を絞って歩いていた。濡れたゾンビみたい。
そういうおれも店番では汗をかき放題。
うちの店にもいちおうエアコンはあるが、客の座る席のあたりだけなので、わずかに涼しいというくらいのもの。足元に扇風機を置いても熱気をかき混ぜているだけだった。
この夏、おれを困らせていたのは、地元のギャングの出入りでも、誘拐身代金事件でも、新型ドラッグの流行でもなかった。もの書きにとって最悪の敵。締め切りだ。なにせデッドラインの直前になっても、まったく題材が決まらない。おれが書いてるようなノンフィクションのコラムの場合、ネタがないほど困ることはない。東京がからからに乾いてるように、おれもネタ切れに徹底的に追い詰められていた。熱帯夜で眠れなくくらいの切迫感。
ほんとに困ったとき、アンタならどうする?
おれの場合、その答えはいつだって同じだ。
あてどなく、果てしなく街をうろつきまくる。ほんとのノマドは、おれの方なのかもしれない。
締め切りまであと五日という夕方、おれは西池袋をぶらついていた。デシカメとレコーダーと手帳かわりになるスマホはポケットのなか。このところ西池袋は再開発がすすみ、高層マンションがレゴブロックの遊園地のように乱立している。
遊園地の一角に見たことのない店を見つけた。カフェのようでも、オフィスのようでもある。「ザ・ストリーム」。店名のロゴの横にはコワーキング・スペースと英文で入っている。頭の悪さに定評のあるおれの英語力でも読める英単語。っか、一緒に働く空間てなんだろう。
ネタに困っていたおれは、重いガラスの扉を押した。
仮に変わり種のカフェでも、コーヒー一杯の損失なら軽いもの。
地球温暖化以降、まともな夏はもう期待薄なのだろうか。日本列島は西でも東でも連日三十五度を越える猛暑が続き、なぜか九州、中国、中部では一時間百ミリの猛烈な豪雨が止まらない。反対に東京はぜんぜん雨のない夏で、打ち水をした店の前の歩道も数分で元通りカラカラに乾いてしまう。池袋では誰もが幽霊のようにふらふらになって、午後の陽ざしのなか汗を絞って歩いていた。濡れたゾンビみたい。
そういうおれも店番では汗をかき放題。
うちの店にもいちおうエアコンはあるが、客の座る席のあたりだけなので、わずかに涼しいというくらいのもの。足元に扇風機を置いても熱気をかき混ぜているだけだった。
この夏、おれを困らせていたのは、地元のギャングの出入りでも、誘拐身代金事件でも、新型ドラッグの流行でもなかった。もの書きにとって最悪の敵。締め切りだ。なにせデッドラインの直前になっても、まったく題材が決まらない。おれが書いてるようなノンフィクションのコラムの場合、ネタがないほど困ることはない。東京がからからに乾いてるように、おれもネタ切れに徹底的に追い詰められていた。熱帯夜で眠れなくくらいの切迫感。
ほんとに困ったとき、アンタならどうする?
おれの場合、その答えはいつだって同じだ。
あてどなく、果てしなく街をうろつきまくる。ほんとのノマドは、おれの方なのかもしれない。
締め切りまであと五日という夕方、おれは西池袋をぶらついていた。デシカメとレコーダーと手帳かわりになるスマホはポケットのなか。このところ西池袋は再開発がすすみ、高層マンションがレゴブロックの遊園地のように乱立している。
遊園地の一角に見たことのない店を見つけた。カフェのようでも、オフィスのようでもある。「ザ・ストリーム」。店名のロゴの横にはコワーキング・スペースと英文で入っている。頭の悪さに定評のあるおれの英語力でも読める英単語。っか、一緒に働く空間てなんだろう。
ネタに困っていたおれは、重いガラスの扉を押した。
仮に変わり種のカフェでも、コーヒー一杯の損失なら軽いもの。