街でノマドは暮らせるのだろうか？

遊牧民(ノマド)といえば、羊をつれて広大な草原を旅する非定住生活で有名だ。時に連合して大帝国(チンギス・ハーン！)をつくったが、ほとんどはお天気まかせ、草まかせの流浪の旅をゆるーく続ける。そんな生活で欠かせないのは、馬と羊とゲルくらいのもの。キャッシュカードも、携帯電話も、テレビもいらないのだ。まあ、確かに満天の星のもとでの天幕暮らしには、誰だってすこしはあこがれるよな。もっともお決まりのグローバル化(新興国では富裕化)が進行して、いまや本格的な遊牧生活は風前の灯(ともしび)なんだとか。つぎにやってくるのは来月の家賃と来年の年収を心配しなければならない文明化されたつまらない安住生活。

世のなかよくしたもので、どこかでなにかが滅ぶなら、別などこかで新しく似たものが生まれてくる。だいたいはフェイクで、少し本家より安っぽくなるんだけどね。モンゴルの平原で消えそうなノマドライフが、二十一世紀の東京では花盛り。

東京のノマドたちのあいだで、羊やゲルの代わりになる生活必需品は、アップル。

マックブックにアイフォーン、モバイルのWi-Fiルーター、そして非純正品だか使い勝手がいい外部バッテリーHyprjiceなんか。栗毛のアラブ馬と比べると、ぜんぜんロマンチックじゃないし、イケてないよな。

やつらは緑豊かな草原の代わりに、電源豊かなカフェや図書館をさまよい、こまごまとしたITビジネスを黙々と片付けていく。オフィスはない、会社に籍をおかない、自由なデジタル労働者だ。本場モンゴルと同じように、生活は決して豊かじゃない。このごろのニッポンでは自由と豊かさは反比例するのだ。

地獄のように暑かったこの夏、おれがであったノマドワーカーは、それでも夢と希望をたっぷり持っていた。自由な働き方を自分で作りだし、いつか年収一億円なんてね。

まあ、その夢の実現の過程で少々違法なビジネスに荷担していたのは、ご愛嬌。正しいことをやろうとして、ときどきグレーゾーンに落っこちる。そいつはおれの住む池袋じゃあたりまえの話。

さあ、デジタルノマドの奮闘記を始めよう。その辺に転がっている自己開発本なんかよりはずっと血も肉もあるストーリーだ。なんたって北東京一凶悪な魔獣の兄弟も登場するし書いてるライター(おれのこと)の腕も、少しはまともだ。

もっともあの手のビジネス書もどきの内容の薄さは最新型ポリウレタン製コンドーム(0.02m!)も真っ青で、はなから勝負にならない。おれの圧勝だ。





ｰ西池袋ノマドトラップｰ