ー特別編ー池袋@亀有エクスプレス
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「大目にみるかわりといっては何だが、コートを交換しよう。」
「「えー」」
おれと中川の声がそろった。本気なのか、このオヤジ。家族持ちのナンパ師はぶつぶつ口の中でつぶやいた。
「これが女を口説く切り札だったのに。中古ブランドショップでも十万以上したのに。」
「うるさい。はやくせんか。」
脱いだコートを丸めて、正座したままの中川の膝に投げた。差し出されたエルメスのコートを着て、嬉しそうにおれに見せる。
「どうだ、悠、似合うだろう」
こいつの精神年齢はクロマニヨンより低いかもしれない。
「悪くないよ」
「あの、わたしはもういっていいでしょうか?」
中川が恐る恐るいった。
「まだいたのか。さっさといって、銀行で金を降ろして来い。」
中川はトレンチコートを手に丸めたまま、駐車場の暗がりに消えた。両津はごそごそと尻ポケットから百万円の束を抜く。
「この事件は全然金がかからんかったな。どうする、悠。おまえにひとつやろうか?」
借りた金だと気持ちがでかくなるようだった。おれは思わず笑ってしまった。この男は金なんかより実際ずっとデカい人間なんだ。ホントならおれやアンタだって、いや世の中全部が、コイツのようになれるはずなんだが。だって、あんなものただの紙切れじゃないか。
「おれはいつも金はもらわないの。あとが面倒だから」
奴はエルメスのコートを着て、歯をむき出した。いい餌を見つけたマウンテンゴリラ。右手をおれに差し出す。分厚い手のひらを握った。握手。
「金の代わりに今回は思いっきり贅沢していいぞ。悠、池袋で一番美人の多いキャバクラにわしを案内しろ。」
自分が行きたいだけだろうといいかかったが、おれは気分がいいので、ツッコまないでおいた。少々の皮肉が、このオヤジに効くとは思えないからな。
「それとな今度亀有に遊びに来い、儂のシマなら、何でも好き放題だから。秋元麗子という婦警もいて、まあわしの好みのレベルには及ばないが、なかなかの美人だ。紹介してやる。」
「はいはい、わかったよ」
そこでおれ達は夜の駐車場を出た。池袋駅の裏にはネオンの花が満開だ。秋の夜の空気は澄んで、毒々しいはずの赤や青やピンクが妙に綺麗だった。たまにはこんなオヤジとのむのいいだろう。そう思って奴に目をやると、歩道の真ん中で奴は立ち止まっていた。周囲を取り巻くのはアジア系のお姉さん方。みな、マイクロミニをはいて生足を晒している。両津は店のチラシを集めているのだった。目じりを下げて、おれにいう。
「悠、池袋は亀有や錦糸町とレベルが違うんだろ。締めはそっちの方面で……」
おれは返事もせずに歩きだした。
「おい、悠、待て!」
どたどたと品のない足音を聞きながら、始まったばかりの若いネオン街をゆく。そんな夜が年に何度かあっても悪くないよな。でも、いくら俺が物好きでも、毎月はちょっと勘弁。
なあ、両さん。
ー池袋@亀有エクスプレス・完ー
「「えー」」
おれと中川の声がそろった。本気なのか、このオヤジ。家族持ちのナンパ師はぶつぶつ口の中でつぶやいた。
「これが女を口説く切り札だったのに。中古ブランドショップでも十万以上したのに。」
「うるさい。はやくせんか。」
脱いだコートを丸めて、正座したままの中川の膝に投げた。差し出されたエルメスのコートを着て、嬉しそうにおれに見せる。
「どうだ、悠、似合うだろう」
こいつの精神年齢はクロマニヨンより低いかもしれない。
「悪くないよ」
「あの、わたしはもういっていいでしょうか?」
中川が恐る恐るいった。
「まだいたのか。さっさといって、銀行で金を降ろして来い。」
中川はトレンチコートを手に丸めたまま、駐車場の暗がりに消えた。両津はごそごそと尻ポケットから百万円の束を抜く。
「この事件は全然金がかからんかったな。どうする、悠。おまえにひとつやろうか?」
借りた金だと気持ちがでかくなるようだった。おれは思わず笑ってしまった。この男は金なんかより実際ずっとデカい人間なんだ。ホントならおれやアンタだって、いや世の中全部が、コイツのようになれるはずなんだが。だって、あんなものただの紙切れじゃないか。
「おれはいつも金はもらわないの。あとが面倒だから」
奴はエルメスのコートを着て、歯をむき出した。いい餌を見つけたマウンテンゴリラ。右手をおれに差し出す。分厚い手のひらを握った。握手。
「金の代わりに今回は思いっきり贅沢していいぞ。悠、池袋で一番美人の多いキャバクラにわしを案内しろ。」
自分が行きたいだけだろうといいかかったが、おれは気分がいいので、ツッコまないでおいた。少々の皮肉が、このオヤジに効くとは思えないからな。
「それとな今度亀有に遊びに来い、儂のシマなら、何でも好き放題だから。秋元麗子という婦警もいて、まあわしの好みのレベルには及ばないが、なかなかの美人だ。紹介してやる。」
「はいはい、わかったよ」
そこでおれ達は夜の駐車場を出た。池袋駅の裏にはネオンの花が満開だ。秋の夜の空気は澄んで、毒々しいはずの赤や青やピンクが妙に綺麗だった。たまにはこんなオヤジとのむのいいだろう。そう思って奴に目をやると、歩道の真ん中で奴は立ち止まっていた。周囲を取り巻くのはアジア系のお姉さん方。みな、マイクロミニをはいて生足を晒している。両津は店のチラシを集めているのだった。目じりを下げて、おれにいう。
「悠、池袋は亀有や錦糸町とレベルが違うんだろ。締めはそっちの方面で……」
おれは返事もせずに歩きだした。
「おい、悠、待て!」
どたどたと品のない足音を聞きながら、始まったばかりの若いネオン街をゆく。そんな夜が年に何度かあっても悪くないよな。でも、いくら俺が物好きでも、毎月はちょっと勘弁。
なあ、両さん。
ー池袋@亀有エクスプレス・完ー