ー特別編ー池袋@亀有エクスプレス
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おれたちは秋風の吹く西口公園に向かった。白黒の石が同心円を描いて張られた円形広場のケヤキの枯れ葉が競争していく。
「同じ公園でも、亀有公園とは大違いだな」
やつは周囲を取り巻くビルの壁を見上げていった。東武デパートのハーフミラーの城、東京芸術劇場のガラスの三角屋根、マルイ‣フィールドは赤土のようなタイル張り。金属パイプのベンチに座り、奴はコート内ポケットを探った。取りだしたのはなぜか真っ赤なスマホだった。
「こいつを見てくれ」
ごつい親指で画像フォルダを開く。結構使いこなしてるじゃないか。表示された画像には、やつと三十くらいのエプロンをした女が映ってい。背景はカウンターと壁にベタベタと張られたメニュー。どこかの安い定食屋だろうか。
「うちの派出所の近くにある飯屋で「志なの」という。そのひとはそこのお運びさんで、鹿島静江さんだ。」
お運びさんだなんて、古い言葉だ。もっともめし屋にウエイトレスは似合わない。かすかだが、やつの頬が赤くなっているようだった。液晶画面の方にはカチコチになっている制服姿の巡査長がいる。静江は柔らかに笑っているだけだった。
「あんた、このひとに片思いしてるの?」
慌てて携帯の画面をおれからそむけて、やつは真っ赤になった。なんてわかりやすいオヤジ。恋愛偏差値は、イケてないおれよりさらにちょっとしたというところか。
「バカを言うな。わしは静江ちゃんとは妹の用にお付き合いしているだけだ。彼女には好きな相手がいる。」
スイングアウトの三振。万年予選敗退の高校球児がヤンキースのランディ・ジョンソンに挑むようなものだ。はなから勝ち目のない勝負である。おれは秋風の公園で肩をすくめた。奴に投げる言葉などない。独り身の秋は寂しいよな。あんただって、嫌って程経験あるだろ。両津勘吉は新たな画面を呼び出していった。
「その相手というのが問題なんだ。コイツを見てくれ。」
今度映っているのは、やはり三十代半ばのあっさり醤油顔の男。カフェオレ色のなんでもないステンカラーのコートを着ている。背景はこの公園で、右手後方に芸術劇場が見えた。点々と屋根にハトが止まっている。
「その男は金持ちだな」
「なんで、わかるんだ」
「おれが名探偵ホームズだから」
奴は目と歯をむき出した。猿山のボスか。種明かしをしてやる。
「おれの友人で、そのコートを着ている奴がいた。池袋のストリートギャングのキングなんだけどな。そいつはペラペラだが、一枚何十万もするエルメスのコートなんだ。」
「むむ、エルメスか、あなどれんな。わしは「電車男」か「ガンダム」しか、知らんが。」
電車男とはまた古い。いや、年代的にはガンダムの方が古いのか……。おれは奴の右肩についた肩章に手を伸ばした。トレンチコートの生地の具合を確かめたのだ。
「アンタのコートはどこの?」
巡査長は胸を張った。
「イトーヨーカドーだ。こっちもあなどれんぞ」
「はいはい」
「同じ公園でも、亀有公園とは大違いだな」
やつは周囲を取り巻くビルの壁を見上げていった。東武デパートのハーフミラーの城、東京芸術劇場のガラスの三角屋根、マルイ‣フィールドは赤土のようなタイル張り。金属パイプのベンチに座り、奴はコート内ポケットを探った。取りだしたのはなぜか真っ赤なスマホだった。
「こいつを見てくれ」
ごつい親指で画像フォルダを開く。結構使いこなしてるじゃないか。表示された画像には、やつと三十くらいのエプロンをした女が映ってい。背景はカウンターと壁にベタベタと張られたメニュー。どこかの安い定食屋だろうか。
「うちの派出所の近くにある飯屋で「志なの」という。そのひとはそこのお運びさんで、鹿島静江さんだ。」
お運びさんだなんて、古い言葉だ。もっともめし屋にウエイトレスは似合わない。かすかだが、やつの頬が赤くなっているようだった。液晶画面の方にはカチコチになっている制服姿の巡査長がいる。静江は柔らかに笑っているだけだった。
「あんた、このひとに片思いしてるの?」
慌てて携帯の画面をおれからそむけて、やつは真っ赤になった。なんてわかりやすいオヤジ。恋愛偏差値は、イケてないおれよりさらにちょっとしたというところか。
「バカを言うな。わしは静江ちゃんとは妹の用にお付き合いしているだけだ。彼女には好きな相手がいる。」
スイングアウトの三振。万年予選敗退の高校球児がヤンキースのランディ・ジョンソンに挑むようなものだ。はなから勝ち目のない勝負である。おれは秋風の公園で肩をすくめた。奴に投げる言葉などない。独り身の秋は寂しいよな。あんただって、嫌って程経験あるだろ。両津勘吉は新たな画面を呼び出していった。
「その相手というのが問題なんだ。コイツを見てくれ。」
今度映っているのは、やはり三十代半ばのあっさり醤油顔の男。カフェオレ色のなんでもないステンカラーのコートを着ている。背景はこの公園で、右手後方に芸術劇場が見えた。点々と屋根にハトが止まっている。
「その男は金持ちだな」
「なんで、わかるんだ」
「おれが名探偵ホームズだから」
奴は目と歯をむき出した。猿山のボスか。種明かしをしてやる。
「おれの友人で、そのコートを着ている奴がいた。池袋のストリートギャングのキングなんだけどな。そいつはペラペラだが、一枚何十万もするエルメスのコートなんだ。」
「むむ、エルメスか、あなどれんな。わしは「電車男」か「ガンダム」しか、知らんが。」
電車男とはまた古い。いや、年代的にはガンダムの方が古いのか……。おれは奴の右肩についた肩章に手を伸ばした。トレンチコートの生地の具合を確かめたのだ。
「アンタのコートはどこの?」
巡査長は胸を張った。
「イトーヨーカドーだ。こっちもあなどれんぞ」
「はいはい」