ー特別編ー池袋@亀有エクスプレス
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あれは十月の晴れた午後、そろそろ街にでも繰り出そうと玄関を出たところいきなり声をかけられた。荒い紙やすりで仕上げたようなざらざらのオヤジ声だ。
「おい、兄ちゃん、ここに小鳥遊悠っていうのはいるか」
おれは顔をあげて驚くことになった。やつはキャメルのトレンチコートに、グレイフラノのボルサリーノ。目には何十年か前に流行ったティアドロップ型のレイバンのサングラスをかけている。なにより目立つのは、人間のものとは思えない肩幅と顔のデカさだった。こいつはハードボイルド好きのヤクザだとおれは断定した。
「今はいないけど、悠に何の用なんだ?」
「ちっ、わざわざ池袋くんだりまで足を伸ばしたのに、ついてねぇな」
やつはそういって、時代物のサングラスを外した。ぱっちりしたたれ目。とたんにヤクザには見えなくなる。ハードボイルド好きのコメディアンか、このオヤジ。やつは家の前のガードレールに腰かけた。腕を組んで言う。
「今日は帰るわけにいかん。ここで待たしてもらうから、兄ちゃん、連絡を取ってくれ。」
おれは首を振った。
「あんたみたいなのが家の前に張ってたんじゃ近所迷惑だ。だから、何の用なんだよ。だいたい誰にここの住所を聞いてきた。」
トレンチのポケットから、何か取りだした。紙の小袋に入ったたい焼きだった。二つに割って尻尾の方をこっちに差し出す。普通はお頭の方をひとにやるだろうが、このオヤジ。
「池袋署の生活安全課に柏という男がいてな。わしの後輩なんだが、そいつから池袋でなにかあったら、悠ってガキに相談してみろといわれてな。」
あれれ、このクロマニヨンは警察官だったのか。困ったことになった、おれはヤクザと同じくらい警察が嫌いだ。どうこの場を誤魔化すか。そのとき、後ろのドアが開いて真桜が出てきた。
「悠、またどっかいくのかなの。夕飯までには帰ってこないと承知しないなの。」
やつは座ったまま、やけに丈夫そうな歯をむき出した。真桜にいう。
「かわいらしいお嬢さん。わたくしは葛飾区亀有公園前派出所に勤務する両津勘吉巡査長であります。悠君とちょっとお話をしたいのですが、よろしいでありましょうか」
両津は右斜め四十五度の角度を崩さずに、真桜に話しかけた。この男、子供相手にもここまで遜れるのか。真桜はまんざらでもなさそうにいった。
「仕方ないなの、ひと様のためになるなら、いくらでもこき使ってやってくれなの。悠いってこいなの。」
なんてこった。おれには味方がいないのだろうか。
「おい、兄ちゃん、ここに小鳥遊悠っていうのはいるか」
おれは顔をあげて驚くことになった。やつはキャメルのトレンチコートに、グレイフラノのボルサリーノ。目には何十年か前に流行ったティアドロップ型のレイバンのサングラスをかけている。なにより目立つのは、人間のものとは思えない肩幅と顔のデカさだった。こいつはハードボイルド好きのヤクザだとおれは断定した。
「今はいないけど、悠に何の用なんだ?」
「ちっ、わざわざ池袋くんだりまで足を伸ばしたのに、ついてねぇな」
やつはそういって、時代物のサングラスを外した。ぱっちりしたたれ目。とたんにヤクザには見えなくなる。ハードボイルド好きのコメディアンか、このオヤジ。やつは家の前のガードレールに腰かけた。腕を組んで言う。
「今日は帰るわけにいかん。ここで待たしてもらうから、兄ちゃん、連絡を取ってくれ。」
おれは首を振った。
「あんたみたいなのが家の前に張ってたんじゃ近所迷惑だ。だから、何の用なんだよ。だいたい誰にここの住所を聞いてきた。」
トレンチのポケットから、何か取りだした。紙の小袋に入ったたい焼きだった。二つに割って尻尾の方をこっちに差し出す。普通はお頭の方をひとにやるだろうが、このオヤジ。
「池袋署の生活安全課に柏という男がいてな。わしの後輩なんだが、そいつから池袋でなにかあったら、悠ってガキに相談してみろといわれてな。」
あれれ、このクロマニヨンは警察官だったのか。困ったことになった、おれはヤクザと同じくらい警察が嫌いだ。どうこの場を誤魔化すか。そのとき、後ろのドアが開いて真桜が出てきた。
「悠、またどっかいくのかなの。夕飯までには帰ってこないと承知しないなの。」
やつは座ったまま、やけに丈夫そうな歯をむき出した。真桜にいう。
「かわいらしいお嬢さん。わたくしは葛飾区亀有公園前派出所に勤務する両津勘吉巡査長であります。悠君とちょっとお話をしたいのですが、よろしいでありましょうか」
両津は右斜め四十五度の角度を崩さずに、真桜に話しかけた。この男、子供相手にもここまで遜れるのか。真桜はまんざらでもなさそうにいった。
「仕方ないなの、ひと様のためになるなら、いくらでもこき使ってやってくれなの。悠いってこいなの。」
なんてこった。おれには味方がいないのだろうか。