ー特別編ー北口スモークタワー
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DMオオコシ、本名・大越英嗣(おおこしえいじ)38歳の逮捕劇は、数日後の社会面に三センチ×四センチほどの記事として掲載された。池袋生活安全課は江古田のマンションとアパートに早朝同時に踏み込んだ。乾燥大麻三百五十グラムと水耕栽培装置三台を押収。さらにスモークタワーの五階にある全脱法ハーブを持っていったそうだ。こんなことなら四階にあったフォトトロンのなかにも銀の爆弾をひとつ投げ込んでおけばよかった。まあ、オオコシが逮捕されて、即座に各フロアの店長は逃亡し、一日でスモークタワーは倒壊したんだけどな。
しばらくして、柏から電話があった。店を開き終えて、うちのまえの歩道で日向ぼっこをしているとき。東京は真冬でも太陽さえ昇っていればあたたかい。
『おい、ボケ』
「誰がボケだボケ」
『悠、このまえスモークタワーがどうのっていってたよな』
倒れてしまった塔のことなど、もう関心はなかった。
「そうだっけ。忘れた」
『まだ若いのに健忘症か』
生活安全課の刑事に冗談をいってやる。
「脱法ハーブを吸い過ぎたのかもしれない。おれ、アンタのことも忘れそうだ。」
柏は笑っていた。教授の話を聞いていないのに、なぜ健忘症で笑えるのだろうか。ボケ刑事がいった。
『俺も告発の手紙については忘れといてやる。成分の分析が出てな、あの店で見つかったパッケージとアパートの乾燥大麻は同じものだったそうだ。どう考えても、オオコシが自分の店に大麻取締法で禁止されているブツを隠しておく理由はないんだがな。まあ、ヤクでらりって、そんなへまをやらかしたのかもしれない』
おれは本心から言った。
「ヤクって怖いな」
『麻薬は魔薬。悪魔の薬だ。俺も悪魔と言われるがあんなものと同じような扱いをされるのはごめんだな。お前が大人しくしおらしくするなら飯ぐらいはおごってやる。スモークタワーを潰せたんで、署長賞がもらえそうだ。じゃあな、健忘症』
「…………大人しくしおらしくしておいて、ゆえが満足するまで奢ってもらうかな」
タカシはこの結果に、おおむね満足そうだった。一月の終わりあたりにうちの茶屋のまえに、メルセデスのRVが停車した。あったかそうな手編みのカウチンカーディガンを着たやつがおりてくる。おれに封筒を差し出した。
「遅くなったが、お年玉だ」
おれは目を丸くした。タカシから報酬をもらうのも、お年玉をもらうのも初めて。
「いいのか、ほんとうに」
やつはキラースマイルを浮かべ、さっさとS・ウルフの公用車にもどっていく。おれは封筒の中身を確かめた。十万円分の図書カードだった。分厚い。教授とミオンと三人で山分けしよう。おれがサンキューと叫んだときには、4WDは走り去ったあとだった。王様は北風と共に消えた。
二月終わり、ミオンのばあは、補助具をつけ、杖を使用すれば歩けるようになった。リハビリは大変らしいが、ばあは歯を食いしばって頑張ったという。この街に春が来るくらいのえらく遅いスピードだが、自分の足で好きなところに行けるのだ。その結果、ミオンも施設を出ることができた。ふたり暮らしを再開したのである。
ばあとミオンはウチの店のいい客になった。年金で暮らしているから、高価な和菓子を買うことはない。だが、ほんとうにうまいのはただ値段が高いのじゃなく、誰と一緒に食べるかだよな。
数千円を出して自分の頭と心を天秤にかけながらハイになる時間を買わなくたって、数百円で楽しい時間を誰かと過ごす。それだけで十分じゃないか。
ー北口スモークタワー・完ー
しばらくして、柏から電話があった。店を開き終えて、うちのまえの歩道で日向ぼっこをしているとき。東京は真冬でも太陽さえ昇っていればあたたかい。
『おい、ボケ』
「誰がボケだボケ」
『悠、このまえスモークタワーがどうのっていってたよな』
倒れてしまった塔のことなど、もう関心はなかった。
「そうだっけ。忘れた」
『まだ若いのに健忘症か』
生活安全課の刑事に冗談をいってやる。
「脱法ハーブを吸い過ぎたのかもしれない。おれ、アンタのことも忘れそうだ。」
柏は笑っていた。教授の話を聞いていないのに、なぜ健忘症で笑えるのだろうか。ボケ刑事がいった。
『俺も告発の手紙については忘れといてやる。成分の分析が出てな、あの店で見つかったパッケージとアパートの乾燥大麻は同じものだったそうだ。どう考えても、オオコシが自分の店に大麻取締法で禁止されているブツを隠しておく理由はないんだがな。まあ、ヤクでらりって、そんなへまをやらかしたのかもしれない』
おれは本心から言った。
「ヤクって怖いな」
『麻薬は魔薬。悪魔の薬だ。俺も悪魔と言われるがあんなものと同じような扱いをされるのはごめんだな。お前が大人しくしおらしくするなら飯ぐらいはおごってやる。スモークタワーを潰せたんで、署長賞がもらえそうだ。じゃあな、健忘症』
「…………大人しくしおらしくしておいて、ゆえが満足するまで奢ってもらうかな」
タカシはこの結果に、おおむね満足そうだった。一月の終わりあたりにうちの茶屋のまえに、メルセデスのRVが停車した。あったかそうな手編みのカウチンカーディガンを着たやつがおりてくる。おれに封筒を差し出した。
「遅くなったが、お年玉だ」
おれは目を丸くした。タカシから報酬をもらうのも、お年玉をもらうのも初めて。
「いいのか、ほんとうに」
やつはキラースマイルを浮かべ、さっさとS・ウルフの公用車にもどっていく。おれは封筒の中身を確かめた。十万円分の図書カードだった。分厚い。教授とミオンと三人で山分けしよう。おれがサンキューと叫んだときには、4WDは走り去ったあとだった。王様は北風と共に消えた。
二月終わり、ミオンのばあは、補助具をつけ、杖を使用すれば歩けるようになった。リハビリは大変らしいが、ばあは歯を食いしばって頑張ったという。この街に春が来るくらいのえらく遅いスピードだが、自分の足で好きなところに行けるのだ。その結果、ミオンも施設を出ることができた。ふたり暮らしを再開したのである。
ばあとミオンはウチの店のいい客になった。年金で暮らしているから、高価な和菓子を買うことはない。だが、ほんとうにうまいのはただ値段が高いのじゃなく、誰と一緒に食べるかだよな。
数千円を出して自分の頭と心を天秤にかけながらハイになる時間を買わなくたって、数百円で楽しい時間を誰かと過ごす。それだけで十分じゃないか。
ー北口スモークタワー・完ー