ー特別編ー北口スモークタワー
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204号室は北側の角部屋だった。おれは一応ドアに髪の毛やメイディングテープが張ってないか確かめた。さすがにオオコシもそこまでは気をつかっていないようだ。少なくともおれには気がつかなかった。
固い手ごたえの鍵をひねって、ドアノブを引いた。はいって右手がすぐに台所だった。六畳の部屋の中央には座卓がひとつ。あとはなにもない部屋だ。窓には黒い紙が貼られて完璧に目張りされている。
「なにもないみたいだ」
おれがそういうと、教授が無言で押入れの戸を引いた。青白い蛍光灯の明かりがまぶしく漏れてくる。生ぬるい空気が足元を流れた。押入れの上段には三大のフォトトロンが置かれていた。大麻はすでに四十センチほど背を伸ばしている。
「おもしろい機械だな。エイリアンでも育てられそうだ。」
タカシの声は冷えびえとなにもないアパートの一室に響いた。教授がいった。
「乾燥させた大麻もどこかにあるはずだ」
おれは台所にもどり単身者用の小型冷蔵庫を開いた。この部屋でオオコシが飯を食うはずがない。
「あった。この部屋は大麻の保管所で、おまけに菜園だったんだな」
タカシが肩越しに覗きこんでいった。
「売るほどあるな。とんだジャンキーだ」
おれは袋ごといただく方法を考えたが、やめておいた。やつが毎回数を数えていたら面倒なことになる。ひと袋から数葉ずつの大麻を抜き出し、ドライフラワーのような束をつくる。タカシがいった。
「そんなものをどうするんだ?」
おれはキングにウインクしてやった。
「すぐわかる。こんなところは早くでよう。空気が悪いよ」
おれたちはやって来たときと同じように静かに204号室を離れた。他の部屋にも住人がいるのだろうが、ひとの気配が全くしなかった。なんだか幽霊屋敷みたいなアパート。
教授といっしょにおれの部屋に戻り、手袋をして乾燥大麻を袋詰めした。パッケージは教授が持ってきた銀のアルミ製。無印だが、脱法ハーブによく似た袋だ。全部で十二の乾燥大麻のパッケージができた。
つぎは手紙を書く番だった。
おれはオオコシとやつの菜園についてパソコンで詳細にまとめた。それは真実。そこで栽培した大麻を、やつがスモークタワーで得意客にだけ売っていると、脚色をつけておく。電話をかければ音声が録音されるし、メールではアドレスが残ってしまう。わざわざネットカフェを使うのも面倒だった。最近は身分証明書の提示を求められることも多いしな。
あとは問題なかった。告発文をプリントして封筒に入れる。速達分の切手を張って。池袋署生活安全課の住所を封筒に書いた。こちらは定規を使って直角の文字で。
おれと教授はそのまま散歩に出かけた。池袋北口のスモークタワーへ。
残念ながら、おれたちのクライマックスにスリルはなかった。
スモークタワーの最上階にいき、ふたりであれこれと脱法ハーブを選んでいるふりをして、棚のあちこちに盗んだ乾燥大麻の小袋をさしていくだけ。棚には無数の銀のパッケージが並んでいるし、自分でも何度かやるうちに、どこにいれたのかわからなくなった。別に適当で構わないのだ。あのアパートをがさいれすれば、フォトトロンも大麻も見つかるだろう。警察はここにあるすべての脱法ハーブを押収するはずだった。数千はある銀のパッケージから、本物の大麻を探すのは大変だろうが、それは公務員の仕事である。せいぜいがんばってもらいたい。
季節が真冬で良かった。おれも教授も革手袋をつけたままだが、それで疑われることもない。最後にレジにいき、脱法ハーブを買った。おれが選んだのはジ・エンドというブランド。ロゴの下したには英文で、アロマテラピーとはいっている。一袋三千円。
DMオオコシはにこにことハッピーそうで、やけに明るかった。屋上ででも決めてきたのかもしれない。
「やあ、このまえもきてたよね。いよいよハーブデビューかい。」
古くからの顔なじみみたいだった。
「そんなところかな。ここの店って品ぞろえがいいんだな」
オオコシは肩にかかる長髪を手ですくと胸を張った。
「東京中探しても、六本木に一件とうちだけだ。これだけブランドを集めるのは、たいへんなんだ。気にいったらひいきにしてよ」
階段の近くで教授が待っていた。オオコシがいった。
「あんた、昔どこかのクラブかパーティで会ったことなかったかな。顔を見た気がするんだけど。」
教授はかすかに首を振った。
「こちらは見覚えがないな。じゃあ、また」
おれは教授といっしょに階段を降りていった。なんだか棚のなかに爆弾でも残してきた気がする。今すぐにでも爆発しそうで、あやうく駆け足になりそうだった。
固い手ごたえの鍵をひねって、ドアノブを引いた。はいって右手がすぐに台所だった。六畳の部屋の中央には座卓がひとつ。あとはなにもない部屋だ。窓には黒い紙が貼られて完璧に目張りされている。
「なにもないみたいだ」
おれがそういうと、教授が無言で押入れの戸を引いた。青白い蛍光灯の明かりがまぶしく漏れてくる。生ぬるい空気が足元を流れた。押入れの上段には三大のフォトトロンが置かれていた。大麻はすでに四十センチほど背を伸ばしている。
「おもしろい機械だな。エイリアンでも育てられそうだ。」
タカシの声は冷えびえとなにもないアパートの一室に響いた。教授がいった。
「乾燥させた大麻もどこかにあるはずだ」
おれは台所にもどり単身者用の小型冷蔵庫を開いた。この部屋でオオコシが飯を食うはずがない。
「あった。この部屋は大麻の保管所で、おまけに菜園だったんだな」
タカシが肩越しに覗きこんでいった。
「売るほどあるな。とんだジャンキーだ」
おれは袋ごといただく方法を考えたが、やめておいた。やつが毎回数を数えていたら面倒なことになる。ひと袋から数葉ずつの大麻を抜き出し、ドライフラワーのような束をつくる。タカシがいった。
「そんなものをどうするんだ?」
おれはキングにウインクしてやった。
「すぐわかる。こんなところは早くでよう。空気が悪いよ」
おれたちはやって来たときと同じように静かに204号室を離れた。他の部屋にも住人がいるのだろうが、ひとの気配が全くしなかった。なんだか幽霊屋敷みたいなアパート。
教授といっしょにおれの部屋に戻り、手袋をして乾燥大麻を袋詰めした。パッケージは教授が持ってきた銀のアルミ製。無印だが、脱法ハーブによく似た袋だ。全部で十二の乾燥大麻のパッケージができた。
つぎは手紙を書く番だった。
おれはオオコシとやつの菜園についてパソコンで詳細にまとめた。それは真実。そこで栽培した大麻を、やつがスモークタワーで得意客にだけ売っていると、脚色をつけておく。電話をかければ音声が録音されるし、メールではアドレスが残ってしまう。わざわざネットカフェを使うのも面倒だった。最近は身分証明書の提示を求められることも多いしな。
あとは問題なかった。告発文をプリントして封筒に入れる。速達分の切手を張って。池袋署生活安全課の住所を封筒に書いた。こちらは定規を使って直角の文字で。
おれと教授はそのまま散歩に出かけた。池袋北口のスモークタワーへ。
残念ながら、おれたちのクライマックスにスリルはなかった。
スモークタワーの最上階にいき、ふたりであれこれと脱法ハーブを選んでいるふりをして、棚のあちこちに盗んだ乾燥大麻の小袋をさしていくだけ。棚には無数の銀のパッケージが並んでいるし、自分でも何度かやるうちに、どこにいれたのかわからなくなった。別に適当で構わないのだ。あのアパートをがさいれすれば、フォトトロンも大麻も見つかるだろう。警察はここにあるすべての脱法ハーブを押収するはずだった。数千はある銀のパッケージから、本物の大麻を探すのは大変だろうが、それは公務員の仕事である。せいぜいがんばってもらいたい。
季節が真冬で良かった。おれも教授も革手袋をつけたままだが、それで疑われることもない。最後にレジにいき、脱法ハーブを買った。おれが選んだのはジ・エンドというブランド。ロゴの下したには英文で、アロマテラピーとはいっている。一袋三千円。
DMオオコシはにこにことハッピーそうで、やけに明るかった。屋上ででも決めてきたのかもしれない。
「やあ、このまえもきてたよね。いよいよハーブデビューかい。」
古くからの顔なじみみたいだった。
「そんなところかな。ここの店って品ぞろえがいいんだな」
オオコシは肩にかかる長髪を手ですくと胸を張った。
「東京中探しても、六本木に一件とうちだけだ。これだけブランドを集めるのは、たいへんなんだ。気にいったらひいきにしてよ」
階段の近くで教授が待っていた。オオコシがいった。
「あんた、昔どこかのクラブかパーティで会ったことなかったかな。顔を見た気がするんだけど。」
教授はかすかに首を振った。
「こちらは見覚えがないな。じゃあ、また」
おれは教授といっしょに階段を降りていった。なんだか棚のなかに爆弾でも残してきた気がする。今すぐにでも爆発しそうで、あやうく駆け足になりそうだった。