ー特別編ー北口スモークタワー
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「わたしもそれがいいと思う。最上階の店長があのビル全体のトップだ。DMオオコシという名でドラッグ関係の本も出している。その世界ではちょっとした有名人だ。DMはドラッグマスターの頭文字だ」
おれは長いことコラムを書いているが、まだ出版のオファーなど影も形もなかった。腹が立つ。積極的になった教授はやけに早口だった。言葉をはさむ間さえつくらずにいう。
「あの男自身もかなりのヘビーユーザーだろう。ということは、どういうことかわかるかな」
「わかんない」
教授にはずっと分からないとばかり言っている気がした。気にもとめずやつはいう。
「自分の店で売っているような、粗悪品は使わないということだ。健康を守りながら、なるべく長く楽しみたいからな。どこかから質のいいものを手に入れているのは間違いない。張っていれば、必ず倍人に会うはずだ。」
なるほど、どこの国で作られたのかもわからない、主成分がなにかも分からないロシアンルーレットを好んで使うはずがなかった。オオコシは店に来るガキと違って、金なら持っている。
「そうと決まれば、話しは簡単だ。張り込みと尾行なら、セミプロのやつらが池袋にはいる」
今度、不思議そうな顔をするのは教授のほうだった。今回はキングの許しを得ているので、S・ウルフ精鋭も無料で使い放題だ。無敵のカードを切る順番がようやくまわってきた。おれは純喫茶から出ると、すぐにタカシに電話した。
メルセデスのRVは線路をわたる陸橋の手前で停止した。そこからならスモークガラス越しに、スモークタワーがよく見える。後部座席にはおれとタカシ。運転席と助手席にはタカシの腹心本郷と宮塚が無言で座っている。かなり重量感のある沈黙。おれの説明を聞いたタカシが言った。
「オオコシという店長を徹底的に尾行して、どんな売人とどこで薬を受けわたしをするか確認すればいいんだな」
「そうだ」
「とりあえず今夜から始めて見るか」
タカシが助手席に声をかけた。
「宮塚、今日は大丈夫だったな。この車を使っていい。オオコシを張れ」
振り向いた宮塚はコクッと一度だけうなづいた。王様が無口だと下も無口になるのかもしれない。
「おれもいっしょに車で張り込みしてもいいかな」
宮塚はめんどくさそうな顔をした。おれはタカシが信頼する友人だが、メンバーではない。チーム内の鉄の規律にも従わない存在だ。
「ああ、構わない。明日、報告しろ」
あたたかなメルセデスの革張りの後部座席で張り込みをする。もしかしたら、おれの部屋よりも快適かもしれない。
その日は早あがりだったのだろうか。オオコシがスモークタワーから出たのは、午後七時少し前だった。閉店は通常深夜一時で、教授とおれが真夜中に顔を出したときにも、やつは自分で店番をしていた。百メートルばかり離れた駐車場で旧型のVWビートルに乗り込んだ。青いビートルは立教通りから山手通りを抜けて、中野区に入った。二十分ほどで江古田に到着する。尾行などされているとは想像もしていないようだった。もっともこちらは、クルマが二台にバイク二台でやつを追っている。オオコシが慎重になっていても、容易に捲かれる心配はなかった。
不思議だったのが、ビートルが停車したのが、恐ろしく古ぼけたアパートの前だったこと。トイレと風呂は共用で、六畳一間の家賃が今時どき二万以下といった感じだ。オオコシは手慣れた様子で、今日用の玄関で靴を脱いだ。二階に上がっていく。どの部屋の明かりもつかなかった。遮光カーテンでも閉めているらしい。やつがおんぼろアパートに居たのは、十五分ほどだった。
オオコシは部屋を出ると、ビートルに戻った。今度のドライヴはほんの数分だ。江古田駅の反対側にある高級そうなデザイナーズマンションの地下駐車場にビートルは吸いこまれた。おれはそのまま深夜十二時までオオコシを張った。
終電の時間になったので、メルセデスを降りて江古田駅に向かう。S・ウルフは徹夜で張り込みだ。ご苦労様。やつはその夜、マンションから出ることは無かったという。
おれは長いことコラムを書いているが、まだ出版のオファーなど影も形もなかった。腹が立つ。積極的になった教授はやけに早口だった。言葉をはさむ間さえつくらずにいう。
「あの男自身もかなりのヘビーユーザーだろう。ということは、どういうことかわかるかな」
「わかんない」
教授にはずっと分からないとばかり言っている気がした。気にもとめずやつはいう。
「自分の店で売っているような、粗悪品は使わないということだ。健康を守りながら、なるべく長く楽しみたいからな。どこかから質のいいものを手に入れているのは間違いない。張っていれば、必ず倍人に会うはずだ。」
なるほど、どこの国で作られたのかもわからない、主成分がなにかも分からないロシアンルーレットを好んで使うはずがなかった。オオコシは店に来るガキと違って、金なら持っている。
「そうと決まれば、話しは簡単だ。張り込みと尾行なら、セミプロのやつらが池袋にはいる」
今度、不思議そうな顔をするのは教授のほうだった。今回はキングの許しを得ているので、S・ウルフ精鋭も無料で使い放題だ。無敵のカードを切る順番がようやくまわってきた。おれは純喫茶から出ると、すぐにタカシに電話した。
メルセデスのRVは線路をわたる陸橋の手前で停止した。そこからならスモークガラス越しに、スモークタワーがよく見える。後部座席にはおれとタカシ。運転席と助手席にはタカシの腹心本郷と宮塚が無言で座っている。かなり重量感のある沈黙。おれの説明を聞いたタカシが言った。
「オオコシという店長を徹底的に尾行して、どんな売人とどこで薬を受けわたしをするか確認すればいいんだな」
「そうだ」
「とりあえず今夜から始めて見るか」
タカシが助手席に声をかけた。
「宮塚、今日は大丈夫だったな。この車を使っていい。オオコシを張れ」
振り向いた宮塚はコクッと一度だけうなづいた。王様が無口だと下も無口になるのかもしれない。
「おれもいっしょに車で張り込みしてもいいかな」
宮塚はめんどくさそうな顔をした。おれはタカシが信頼する友人だが、メンバーではない。チーム内の鉄の規律にも従わない存在だ。
「ああ、構わない。明日、報告しろ」
あたたかなメルセデスの革張りの後部座席で張り込みをする。もしかしたら、おれの部屋よりも快適かもしれない。
その日は早あがりだったのだろうか。オオコシがスモークタワーから出たのは、午後七時少し前だった。閉店は通常深夜一時で、教授とおれが真夜中に顔を出したときにも、やつは自分で店番をしていた。百メートルばかり離れた駐車場で旧型のVWビートルに乗り込んだ。青いビートルは立教通りから山手通りを抜けて、中野区に入った。二十分ほどで江古田に到着する。尾行などされているとは想像もしていないようだった。もっともこちらは、クルマが二台にバイク二台でやつを追っている。オオコシが慎重になっていても、容易に捲かれる心配はなかった。
不思議だったのが、ビートルが停車したのが、恐ろしく古ぼけたアパートの前だったこと。トイレと風呂は共用で、六畳一間の家賃が今時どき二万以下といった感じだ。オオコシは手慣れた様子で、今日用の玄関で靴を脱いだ。二階に上がっていく。どの部屋の明かりもつかなかった。遮光カーテンでも閉めているらしい。やつがおんぼろアパートに居たのは、十五分ほどだった。
オオコシは部屋を出ると、ビートルに戻った。今度のドライヴはほんの数分だ。江古田駅の反対側にある高級そうなデザイナーズマンションの地下駐車場にビートルは吸いこまれた。おれはそのまま深夜十二時までオオコシを張った。
終電の時間になったので、メルセデスを降りて江古田駅に向かう。S・ウルフは徹夜で張り込みだ。ご苦労様。やつはその夜、マンションから出ることは無かったという。