ー特別編ー北口スモークタワー
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その日の夕方、ミオンが店にやってきた。
吉音はあの子が来るのを待っていて、売れ残りの和菓子を手さげに詰めていた。まだ廃棄しなくていい品も混ざっているんだけど……まぁ、いいや。うん、いいよな……。久秀がめっちゃ睨んでるけど。
「ちゃんと学校行ってるか」
ミオンはまたも男の子のような格好をしている。吉音より綺麗に和菓子を積んでいる姿などは、うちに弟でもできたみたいだった。
「おもしろくないけど、ちゃんといってるよ」
「ミオンはスカートとかはかないのか?」
久秀はまだおれを睨んでいた。巨神兵なみの殺人光線が茶屋をなぎ払う。
「小学校高学年って言うのは微妙なのよ。どっかのアイドルみたいなブランド子ども服よりずっとましじゃない」
そのとおりだった。あんな露出の多い子ども服にはおれも反対。ミオンはおれの質問を無視していった。
「ねぇ、スモークタワーはまだどうにかなんないの」
敵は街の一角だ。そうそうどうにかなるもんじゃない。苦し紛れに言った。
「今、考え中」
なんだか子どもの謎々の返事みたいだ。そのとき、店先の歩道に教授があらわれた。この男は足音とか気配とかを感じさせない忍者みたいなやつだった。存在感が薄いのかもしれない。ミオンが吉音をまねて、大きな声を出した。
「いらっしゃいませ」
なぜかミオンのひと声が、教授には久秀の光線よりも効いたようだった。動きがカクカクしてロボットみたいになる。教授はミオンと決して目を合わせようとしなかった。
「そのひとはだいじょうぶだ。お客じゃなくて、おれの知り合い」
教授の声はアリのおしゃべり並に小さかった。
「彼女は君の妹さんかな」
おれはミオンに目をやった。同じなのはツーサイズ大きな軍パンくらいで、顔は全然違う。
「いいや、あの娘はちょっと事情があって、うちの手伝いをしてるんだ。」
教授はやけにミオンのことが気になるようだった。目を合わせようとしないのに、全身の神経がミオンのほうに向いているのがわかる。
「ちょっと作戦会議に行って来る。あとは頼んだ」
久秀の声はやわらかく冷たい。
「どこにでもいってきていいわよ。うちにはミオンがいるから、悠はもういいわよ」
やっぱりうちの店はすでに久秀に奪われているのかもしれない。
おれは身体を小さく丸めてそそくさとその場から離れるのだった。
タカシと話をしたロマンス通りの純喫茶で、おれたちは向かい合った。脱法ハーブでもなく、スモークタワーでもなく、教授が話を聞きたがったのはミオンのこと。おれはミオンの祖母がハーブを吸ったガキにひき殺されそうになった事故を教えてやった。そのせいで今は施設で暮らしていることも。
教授の顔色が変わった。腕を組んで考え込んでいる。もしかしたら、すごいロリコンなのかもしれない。
「あんた、だいじょうぶか」
ぼんやりしていた目に焦点が戻ってくる。
「罪滅ぼしだな」
「あ?」
わけがわからない。教授は腕組みを解くと、身を乗り出してきた。
「わたしは虎狗琥君に脱法ハーブについてきみにレクチャーしてやってくれとだけいわれていた。ドラッグの世界は初心者には分かりづらいし、独特のカルチャーがある。頼まれた仕事以外ではスモークタワーにコミットしないようにしようと決めていた」
「そうか。でも、教授の話はすごく参考になったよ」
「ありがとう。でも、もう中立的な立場はやめることにする」
やっぱり意味が分からない。おれは自分より頭のいいやつのいうことが、ほとんど理解できないのかもしれない。恐ろしいことだ。世界の三分の二は理解不能になる。
「どういうこと?」
「ミオンのような子をこれ以上増やさないために、スモークタワーを潰す手助けをしよう」
うれしい味方だが、半信半疑でおれはいった。
「じゃあさ、脱法ハーブが無理なら、なんとか昔のドラッグでやつらをはめられないかな」
生まれたばかりの新しいアイディアだった。合成麻薬も、アイディアも尽きることはない。教授が顔を崩して笑った。どうやら大正解。
吉音はあの子が来るのを待っていて、売れ残りの和菓子を手さげに詰めていた。まだ廃棄しなくていい品も混ざっているんだけど……まぁ、いいや。うん、いいよな……。久秀がめっちゃ睨んでるけど。
「ちゃんと学校行ってるか」
ミオンはまたも男の子のような格好をしている。吉音より綺麗に和菓子を積んでいる姿などは、うちに弟でもできたみたいだった。
「おもしろくないけど、ちゃんといってるよ」
「ミオンはスカートとかはかないのか?」
久秀はまだおれを睨んでいた。巨神兵なみの殺人光線が茶屋をなぎ払う。
「小学校高学年って言うのは微妙なのよ。どっかのアイドルみたいなブランド子ども服よりずっとましじゃない」
そのとおりだった。あんな露出の多い子ども服にはおれも反対。ミオンはおれの質問を無視していった。
「ねぇ、スモークタワーはまだどうにかなんないの」
敵は街の一角だ。そうそうどうにかなるもんじゃない。苦し紛れに言った。
「今、考え中」
なんだか子どもの謎々の返事みたいだ。そのとき、店先の歩道に教授があらわれた。この男は足音とか気配とかを感じさせない忍者みたいなやつだった。存在感が薄いのかもしれない。ミオンが吉音をまねて、大きな声を出した。
「いらっしゃいませ」
なぜかミオンのひと声が、教授には久秀の光線よりも効いたようだった。動きがカクカクしてロボットみたいになる。教授はミオンと決して目を合わせようとしなかった。
「そのひとはだいじょうぶだ。お客じゃなくて、おれの知り合い」
教授の声はアリのおしゃべり並に小さかった。
「彼女は君の妹さんかな」
おれはミオンに目をやった。同じなのはツーサイズ大きな軍パンくらいで、顔は全然違う。
「いいや、あの娘はちょっと事情があって、うちの手伝いをしてるんだ。」
教授はやけにミオンのことが気になるようだった。目を合わせようとしないのに、全身の神経がミオンのほうに向いているのがわかる。
「ちょっと作戦会議に行って来る。あとは頼んだ」
久秀の声はやわらかく冷たい。
「どこにでもいってきていいわよ。うちにはミオンがいるから、悠はもういいわよ」
やっぱりうちの店はすでに久秀に奪われているのかもしれない。
おれは身体を小さく丸めてそそくさとその場から離れるのだった。
タカシと話をしたロマンス通りの純喫茶で、おれたちは向かい合った。脱法ハーブでもなく、スモークタワーでもなく、教授が話を聞きたがったのはミオンのこと。おれはミオンの祖母がハーブを吸ったガキにひき殺されそうになった事故を教えてやった。そのせいで今は施設で暮らしていることも。
教授の顔色が変わった。腕を組んで考え込んでいる。もしかしたら、すごいロリコンなのかもしれない。
「あんた、だいじょうぶか」
ぼんやりしていた目に焦点が戻ってくる。
「罪滅ぼしだな」
「あ?」
わけがわからない。教授は腕組みを解くと、身を乗り出してきた。
「わたしは虎狗琥君に脱法ハーブについてきみにレクチャーしてやってくれとだけいわれていた。ドラッグの世界は初心者には分かりづらいし、独特のカルチャーがある。頼まれた仕事以外ではスモークタワーにコミットしないようにしようと決めていた」
「そうか。でも、教授の話はすごく参考になったよ」
「ありがとう。でも、もう中立的な立場はやめることにする」
やっぱり意味が分からない。おれは自分より頭のいいやつのいうことが、ほとんど理解できないのかもしれない。恐ろしいことだ。世界の三分の二は理解不能になる。
「どういうこと?」
「ミオンのような子をこれ以上増やさないために、スモークタワーを潰す手助けをしよう」
うれしい味方だが、半信半疑でおれはいった。
「じゃあさ、脱法ハーブが無理なら、なんとか昔のドラッグでやつらをはめられないかな」
生まれたばかりの新しいアイディアだった。合成麻薬も、アイディアも尽きることはない。教授が顔を崩して笑った。どうやら大正解。