ー特別編ー北口スモークタワー
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その日は曇り空で、やたらと寒い一日だった。北海道では零下三十度を記録したという。東京でも気温はギリギリ二度くらいで、西一番街でも日陰には氷が残っていた。吸い殻とJRの切符が閉じ込められた道端の氷って、意外ときれいだよな。部屋に飾っておきたいくらい。
家で雑煮をくった午後一、タカシから電話があった。
『聞いたか?』
まえおきや挨拶が嫌いな王様。タカシはせっかち過ぎる。
「聞いてない。なんだよ、ちゃんと目的語を言えよ」
流れるようにタカシが言った。公共放送のアナウンサーみたいだ。
『池袋駅東口店のカラオケボックス屋の非常階段から、若いカップルが飛び降りた。男は頭を強く打って重体、女は両足と骨盤を骨折した。ふたりはスモークタワーで、新型の脱法ハーブを購入して、カラオケのブースで吸引したそうだ』
インパルスⅢ。教授の手の中にあったパッケージを思い出す。
「それなら見たことある。ひと袋六千円のロシアンルーレットだ」
『悠、なにをいってるんだ?そんなことより、スモークタワーを倒すほうはどうなってる?進展は無いのか?』
なにもできていないときの催促は最悪の気分。
「今、動いてるさ。だけど、むこうはいちおう合法な店だ。簡単には手を出せない」
タカシの声は道端の氷のように冷たい。
『俺らは別に非合法でも構わない。覆面をつけたメンバーに、店のオーナーを襲わせるというのはどうだ。芝居のうまいやつなら、シマを荒らされたヤクザの振りくらいできるだろう』
粗暴だが、単純明快で悪くないアイディアだ。だが、おれの好みじゃない。
「最悪の場合は、それでいいよ。だけど、もう少し時間をくれないか」
『わかった。おまえがそういうのなら、待とう。ただし、あと一週間。飛び降りはもう見たくないからな』
ありがとうといって、電話を切った。すぐに別な番号を選ぶ。池袋生活安全課・柏だ。ただしおれの携帯ではボケ柏だけどな。江戸前のいい天麩羅屋みたいで悪くないだろ。
『おう、ボケ悠。なんだ、コラ。』
タカシもそうだが、池袋の人間には心のゆとりってないものがなくて困る。
「毎日寒いな、風邪とか引いてないか」
『気色悪、死ね。こっちは忙しいから切るぞ、カス』
ひと言、喋る間にどれだけ暴言を詰め込みたいんだコイツ……しかたない、おれは単刀直入に言った。
「スモークタワーの話を聞きたい。」
短いけれど、深いため息。柏の声が低くなった。
『これからそこにいくとこだ』
「飛び降りで被害者が出たからか」
『お前も耳が早いな。まだテレビのニュースにもなってないんだが。お得意のガキのネットワークってやつか』
確かに地元のニュースならテレビよりもネットよりも街の噂のほうが早い。ひとの口は怖いよな。
「生活安全課が動くのか。じゃあ、あの店も終わりだな。」
『はん、そううまく運ぶか。のらりくらりと逃げられておしまいだ。こっちには強制力がないんだ。せいぜい今回の被害者が使っていた新型ハーブを店頭から引っ込めさせて手打ちだろうな』
あきれてしまう。駐車違反や風営法違反では、ずいぶんと下々に厳しいくせに、脱法ハーブ店には甘いのだ。
「じゃあ、おまえらはちょっと指導しておしまいなんだ。打つ手はないのか」
『ないな。腹が立つ』
「そうか、じゃあ何か証拠があれば、よろこんで池袋署も動くんだな。スモークタワーをこの街からなくしたい」
『あたりまえだ。脱法ドラッグって言うのは、立派なヤクだぞ。合成カンナビノイドといってな人工的につくった……』
「ああわかってるよ。元はこの二十年ばかりのあいだに開発された医薬品なんだろ。研究室でいくらでも似たようなやつがつくれる。だけど、さいつじゃスモークタワーは倒せない。」
『そうだ。お前、何かいい情報は無いか。あのビルでシャブのバイがあるとか』
ドラッグにもカルチャーがある。覚せい剤はスモークタワーに集まる人種には人気のないドラッグだった。
「話しは聞いてみるけど、期待しないでくれ。」
頭の古い刑事と古いタイプのドラッグ。そのとき連想ゲームみたいにいいアイデアが浮かんだ。新しいのがダメなら、古いのを使えばいい。それなら色々と取り締まる法律がある。スモークタワーだって足元から崩れるだろう。
だけど、どうやって?
おれは薬関係は、どうも苦手。
家で雑煮をくった午後一、タカシから電話があった。
『聞いたか?』
まえおきや挨拶が嫌いな王様。タカシはせっかち過ぎる。
「聞いてない。なんだよ、ちゃんと目的語を言えよ」
流れるようにタカシが言った。公共放送のアナウンサーみたいだ。
『池袋駅東口店のカラオケボックス屋の非常階段から、若いカップルが飛び降りた。男は頭を強く打って重体、女は両足と骨盤を骨折した。ふたりはスモークタワーで、新型の脱法ハーブを購入して、カラオケのブースで吸引したそうだ』
インパルスⅢ。教授の手の中にあったパッケージを思い出す。
「それなら見たことある。ひと袋六千円のロシアンルーレットだ」
『悠、なにをいってるんだ?そんなことより、スモークタワーを倒すほうはどうなってる?進展は無いのか?』
なにもできていないときの催促は最悪の気分。
「今、動いてるさ。だけど、むこうはいちおう合法な店だ。簡単には手を出せない」
タカシの声は道端の氷のように冷たい。
『俺らは別に非合法でも構わない。覆面をつけたメンバーに、店のオーナーを襲わせるというのはどうだ。芝居のうまいやつなら、シマを荒らされたヤクザの振りくらいできるだろう』
粗暴だが、単純明快で悪くないアイディアだ。だが、おれの好みじゃない。
「最悪の場合は、それでいいよ。だけど、もう少し時間をくれないか」
『わかった。おまえがそういうのなら、待とう。ただし、あと一週間。飛び降りはもう見たくないからな』
ありがとうといって、電話を切った。すぐに別な番号を選ぶ。池袋生活安全課・柏だ。ただしおれの携帯ではボケ柏だけどな。江戸前のいい天麩羅屋みたいで悪くないだろ。
『おう、ボケ悠。なんだ、コラ。』
タカシもそうだが、池袋の人間には心のゆとりってないものがなくて困る。
「毎日寒いな、風邪とか引いてないか」
『気色悪、死ね。こっちは忙しいから切るぞ、カス』
ひと言、喋る間にどれだけ暴言を詰め込みたいんだコイツ……しかたない、おれは単刀直入に言った。
「スモークタワーの話を聞きたい。」
短いけれど、深いため息。柏の声が低くなった。
『これからそこにいくとこだ』
「飛び降りで被害者が出たからか」
『お前も耳が早いな。まだテレビのニュースにもなってないんだが。お得意のガキのネットワークってやつか』
確かに地元のニュースならテレビよりもネットよりも街の噂のほうが早い。ひとの口は怖いよな。
「生活安全課が動くのか。じゃあ、あの店も終わりだな。」
『はん、そううまく運ぶか。のらりくらりと逃げられておしまいだ。こっちには強制力がないんだ。せいぜい今回の被害者が使っていた新型ハーブを店頭から引っ込めさせて手打ちだろうな』
あきれてしまう。駐車違反や風営法違反では、ずいぶんと下々に厳しいくせに、脱法ハーブ店には甘いのだ。
「じゃあ、おまえらはちょっと指導しておしまいなんだ。打つ手はないのか」
『ないな。腹が立つ』
「そうか、じゃあ何か証拠があれば、よろこんで池袋署も動くんだな。スモークタワーをこの街からなくしたい」
『あたりまえだ。脱法ドラッグって言うのは、立派なヤクだぞ。合成カンナビノイドといってな人工的につくった……』
「ああわかってるよ。元はこの二十年ばかりのあいだに開発された医薬品なんだろ。研究室でいくらでも似たようなやつがつくれる。だけど、さいつじゃスモークタワーは倒せない。」
『そうだ。お前、何かいい情報は無いか。あのビルでシャブのバイがあるとか』
ドラッグにもカルチャーがある。覚せい剤はスモークタワーに集まる人種には人気のないドラッグだった。
「話しは聞いてみるけど、期待しないでくれ。」
頭の古い刑事と古いタイプのドラッグ。そのとき連想ゲームみたいにいいアイデアが浮かんだ。新しいのがダメなら、古いのを使えばいい。それなら色々と取り締まる法律がある。スモークタワーだって足元から崩れるだろう。
だけど、どうやって?
おれは薬関係は、どうも苦手。