ー特別編ー北口スモークタワー
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その日の夜だった。
店を閉める直前の午後十一時、うちの店のまえに怪人が立っていた。黒いチェスターフィールドコートのパンツ。襟元にはカラフルなチェックのスカーフを巻いている。あとは頬ひげと黒縁のウェリントンも忘れずに。
「小鳥遊悠さんはいるかな」
フルネームを呼ばれるのは久しぶり。気温は二度くらい。こたえる息が白い。
「おれだけど、アンタが教授?」
とてもS・ウルフには見えなかった。三十代後半から四十代の初め。落ち着いたもの悲しい雰囲気。
「虎狗琥君から、いわれてきた。時間を取ってもらえるかな」
「今すぐに?」
教授は重々しくうなずいた。明日の授業の準備があるのかもしれない。おれは奥に居る久秀に声をかけた。店じまいはあとでする。ちょっと出かけてくる。奥から嫌味が飛んでくる。
「久秀にまだ残業させるつもり?まともな人間ならもうおねんねしている時間よ?」
おれも叫びかえした。
「残業も何も勝手に人の部屋でくつろいでるだけだろ」
「誰が帳簿つけてると思ってるの?」
「すいませんでした!タカシからの頼まれた仕事なんです!」
これには久秀も折れた。タカシの仕事がいつもこの街のためになることを、敵もわかっている。まあ、「この街のためになる」というのが法律的に正しいかは別問題だけどな。
「しかたないわねぇ。店は久秀が閉めといてあげるわ。感謝しなさい」
おれはマフラーと手袋をつけて、教授といっしょに茶屋を離れて池袋に向かった。夜の街に出る解放感。何かが始まるこの感じ。やっぱり店番だけでは退屈で生きていけないよな。
教授は大股でずんずん歩いていく。駅の方に向かっているようだ。正面を向いたまま言った。
「悠くんは脱法ドラッグについて、どれくらいりかいしているのかな?」
「ほとんどわかんない」
いつだったかスネークバイトという新型のドラッグに関わったことがあった。あっちは完全な麻薬。どうどうと店を開いてい売ってるわけではない。オールドスクールだ。さしておもしろくもなさそうに教授が言った。
「脱法ドラッグは、ハーブ、芳香剤、ビデオクリーナーなど人体に直接摂取しない製品として輸入され、ヘッドショップと呼ばれる販売店か、ネットショップで販売されている。もっとも有名でポピュラーなのが、脱法ハーブだ」
教授がコートのポケットから手を抜くと、銀のパケットが現れた。エクストリームと虹色の英文ロゴがはいっている。
「このワンパックに一から三グラムの乾燥植物片が入っていて、価格は三千円から五千円だ。植物片には合成カンナビノイドがスプレイされている。脱法ハーブ初めてヨーロッパで生まれたのが二〇〇四年ごろ、ブランド名は『スパイス』。街角で容易に手に入る麻薬そっくりの効果があるというので、口コミで大人気になった。」
目のまえで酔っぱらったガキの集団がぐちゃぐちゃとうごめいていた。誰かが叫んでいる。おれは天下を取ってやる。絶対天下を取るぞ。まったくガキの天下は小さくていいよな。教授の脱法ハーブ講座は続いていた。
店を閉める直前の午後十一時、うちの店のまえに怪人が立っていた。黒いチェスターフィールドコートのパンツ。襟元にはカラフルなチェックのスカーフを巻いている。あとは頬ひげと黒縁のウェリントンも忘れずに。
「小鳥遊悠さんはいるかな」
フルネームを呼ばれるのは久しぶり。気温は二度くらい。こたえる息が白い。
「おれだけど、アンタが教授?」
とてもS・ウルフには見えなかった。三十代後半から四十代の初め。落ち着いたもの悲しい雰囲気。
「虎狗琥君から、いわれてきた。時間を取ってもらえるかな」
「今すぐに?」
教授は重々しくうなずいた。明日の授業の準備があるのかもしれない。おれは奥に居る久秀に声をかけた。店じまいはあとでする。ちょっと出かけてくる。奥から嫌味が飛んでくる。
「久秀にまだ残業させるつもり?まともな人間ならもうおねんねしている時間よ?」
おれも叫びかえした。
「残業も何も勝手に人の部屋でくつろいでるだけだろ」
「誰が帳簿つけてると思ってるの?」
「すいませんでした!タカシからの頼まれた仕事なんです!」
これには久秀も折れた。タカシの仕事がいつもこの街のためになることを、敵もわかっている。まあ、「この街のためになる」というのが法律的に正しいかは別問題だけどな。
「しかたないわねぇ。店は久秀が閉めといてあげるわ。感謝しなさい」
おれはマフラーと手袋をつけて、教授といっしょに茶屋を離れて池袋に向かった。夜の街に出る解放感。何かが始まるこの感じ。やっぱり店番だけでは退屈で生きていけないよな。
教授は大股でずんずん歩いていく。駅の方に向かっているようだ。正面を向いたまま言った。
「悠くんは脱法ドラッグについて、どれくらいりかいしているのかな?」
「ほとんどわかんない」
いつだったかスネークバイトという新型のドラッグに関わったことがあった。あっちは完全な麻薬。どうどうと店を開いてい売ってるわけではない。オールドスクールだ。さしておもしろくもなさそうに教授が言った。
「脱法ドラッグは、ハーブ、芳香剤、ビデオクリーナーなど人体に直接摂取しない製品として輸入され、ヘッドショップと呼ばれる販売店か、ネットショップで販売されている。もっとも有名でポピュラーなのが、脱法ハーブだ」
教授がコートのポケットから手を抜くと、銀のパケットが現れた。エクストリームと虹色の英文ロゴがはいっている。
「このワンパックに一から三グラムの乾燥植物片が入っていて、価格は三千円から五千円だ。植物片には合成カンナビノイドがスプレイされている。脱法ハーブ初めてヨーロッパで生まれたのが二〇〇四年ごろ、ブランド名は『スパイス』。街角で容易に手に入る麻薬そっくりの効果があるというので、口コミで大人気になった。」
目のまえで酔っぱらったガキの集団がぐちゃぐちゃとうごめいていた。誰かが叫んでいる。おれは天下を取ってやる。絶対天下を取るぞ。まったくガキの天下は小さくていいよな。教授の脱法ハーブ講座は続いていた。