ー特別編ー北口スモークタワー
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喫茶店を出ると、ミオンとおれはロマンス通りを歩いた。株価は少々上がったようだが、池袋のストリートに影響はない。ホームレスと仕事のないガキがゾンビのように漂っている。
「なあ、ミオン」
おれの胸くらいまでしか身長のない女の子にいった。
「おれたちがキッチリ仕事するまで、放火はダメだからな」
「わかった」
トロリーケースを転がした若い男が目の前を横切った。目に光がなく、髪は一週間も洗ってないみたいに脂ぎってばさばさ。ダウンの穴はガムテープでふさいである。貧しいものはより貧しく。世の中の常識は、非常識だ。
「おまえって、勉強は得意なのか?」
「まあまあかな。塾にはいってないけど、クラスのベストテンから落ちたことないよ」
おれとはまったく違って優等生だ。
「マジかー。だったら、きちんと勉強して、大学まで行くんだぞ。やっぱり学問って大切だ。これから先は競争がドンドン厳しくなるからな。」
歳を取ったってことかもしれない。おれは自分が駄目なのでガキにこんな事を言いだしてるんだもんな。ミオンは将来、中国やシンガポールやベトナムの大学生と闘う事になるだろう。ひとつの就職口をめぐって。
「悠さんって、うちのばあと同じことを言うね」
おれたちの頭上でパチンコ屋のネオンサインがともった。赤、紫、ピンク、白。節電のために日がかげるまで点灯しないのだ。ミオンの短い黒髪に天使の輪がカラフルに浮かんでは消える。天使というには、ずいぶんとボーイッシュだった。
「こうるさいかもしれないけど、おまえの未来の事を心配してる大人はみんなそんなふうにいうのさ。そいつらの願いって、いつも同じだ。ただ自分と同じように失敗して欲しくないだけなんだ」
おれはミオンの頭に手を置いて、短い髪をくしゃくしゃに乱してやった。悲鳴をあげながら、女の子が笑った。東口のロータリーまでくると、ミオンが右手を差し出した。おれがその手を見ていると。
「はい、お友達の握手」
おれはちいさくて冷たい手を握った。手のひらなんて、下敷きくらいの薄さ。
「施設や学校が辛くなったら、うちの店に顔出せよ。おれがいなくても、吉音がいる。さっきのばあの話しをすれば、おお泣きして、きっと和菓子食い放題にしてくれるぞ」
まぁ、その結果おれが喰うのは被害だけど。
「わかった。やっぱり大人のおじさんってカッコいいね。わたし、おとうさんをしらないから、悠さんみたいなひとがおとうさんだったらなって思うよ」
ミオンはさっと振り返ると、駅前の横断歩道を歩きだした。おれは衝撃で固まっていた。え?お兄さんじゃなくておじさん?おとうさんみたい?どうやらおれの現役引退は近いらしい。
「なあ、ミオン」
おれの胸くらいまでしか身長のない女の子にいった。
「おれたちがキッチリ仕事するまで、放火はダメだからな」
「わかった」
トロリーケースを転がした若い男が目の前を横切った。目に光がなく、髪は一週間も洗ってないみたいに脂ぎってばさばさ。ダウンの穴はガムテープでふさいである。貧しいものはより貧しく。世の中の常識は、非常識だ。
「おまえって、勉強は得意なのか?」
「まあまあかな。塾にはいってないけど、クラスのベストテンから落ちたことないよ」
おれとはまったく違って優等生だ。
「マジかー。だったら、きちんと勉強して、大学まで行くんだぞ。やっぱり学問って大切だ。これから先は競争がドンドン厳しくなるからな。」
歳を取ったってことかもしれない。おれは自分が駄目なのでガキにこんな事を言いだしてるんだもんな。ミオンは将来、中国やシンガポールやベトナムの大学生と闘う事になるだろう。ひとつの就職口をめぐって。
「悠さんって、うちのばあと同じことを言うね」
おれたちの頭上でパチンコ屋のネオンサインがともった。赤、紫、ピンク、白。節電のために日がかげるまで点灯しないのだ。ミオンの短い黒髪に天使の輪がカラフルに浮かんでは消える。天使というには、ずいぶんとボーイッシュだった。
「こうるさいかもしれないけど、おまえの未来の事を心配してる大人はみんなそんなふうにいうのさ。そいつらの願いって、いつも同じだ。ただ自分と同じように失敗して欲しくないだけなんだ」
おれはミオンの頭に手を置いて、短い髪をくしゃくしゃに乱してやった。悲鳴をあげながら、女の子が笑った。東口のロータリーまでくると、ミオンが右手を差し出した。おれがその手を見ていると。
「はい、お友達の握手」
おれはちいさくて冷たい手を握った。手のひらなんて、下敷きくらいの薄さ。
「施設や学校が辛くなったら、うちの店に顔出せよ。おれがいなくても、吉音がいる。さっきのばあの話しをすれば、おお泣きして、きっと和菓子食い放題にしてくれるぞ」
まぁ、その結果おれが喰うのは被害だけど。
「わかった。やっぱり大人のおじさんってカッコいいね。わたし、おとうさんをしらないから、悠さんみたいなひとがおとうさんだったらなって思うよ」
ミオンはさっと振り返ると、駅前の横断歩道を歩きだした。おれは衝撃で固まっていた。え?お兄さんじゃなくておじさん?おとうさんみたい?どうやらおれの現役引退は近いらしい。