ー特別編ー北口スモークタワー
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「わたしのばあが……」
ミオンは十二歳の女の子らしく、そこからは声をあげて泣き出した。しばらくして泣き止むと、、メープルシロップたっぷりかけたパンケーキとバナナチョコパフェを平らげていく。なぜか、イチゴの刺さったフォークを差し出してくれた。甘くて、いいイチゴだった。だいたいこういう店では、見てくれは綺麗でも、まだ青いイチゴをつかうものだが、今回は正解。
つぎの話しは、おれがミオンの証言をつなぎあわせ再構成したものだ。イチゴのお礼。
なにせ、十二歳のガキの証言って、主語も述語も時制も視点もばらばら。一次予選で落選する新人賞の応募原稿みたいだからな。
ミオンの祖母は、倉科紗江(さえ)七十二歳。
女性の平均寿命が九十に届きそうなこの国では、まだ老人になりかけというみずみずしいばあさんだ。ミオンの母親はミオンの父親と離婚してから、別な男と再婚した。ミオンを紗江にあずけたままね。その後、双方とも養育費やお年玉どころか、電話一本かけてよこさない。母親と父親はどうでもいいクズなので、わかっているがおれは名前をいわない。
ミオンは紗江といっしょに、池袋の街の片隅でなんとか暮らしていた。年金と切り崩した貯金でね。紗江が池袋本町にあるスーパーに買い物にいったのは、去年の春一番が吹いた生ぬるい日だった。ミオンはばあが焼くホットケーキが好きだったから、その粉を買いにいったという。あんたもこの街の人間なら、春一番と地名で思い出しただろ。一瞬だが全国ニュースになったから、テレビで見たやつもいるかもしれない。
「池袋本町暴走事故」である。
運転していたのは池本信二二十四歳。やつは埼玉県久吉市生まれ。近くにある工場で派遣労働者として働いていた。趣味はレゲエと野外フェス。やつがのったスズキワゴンRは七十キロ近いスピードで池袋本町の商店街を走り抜けた。接触した車が三台。当て逃げした人間は五人だ。死者がでなかったのは、ただやつの悪運が強かっただけにすぎない。最終的には宅配便のトラックにぶつかって、ピンボールのように跳ね、セブンイレブンに正面からつっこんでいった。
問題はやつが、脱法ハーブを決めてたこと。初めてではなく常習者だ。シンジは運転中突然、誰かに追われていると思い込んだ。捕まったら全身の皮をはがされ、街灯から吊るされると、かつぎこまれた病院のベッドでさえ震えていたという。死亡事故ではなかったし、やつが交通事故を起こしたのは初めてだったので、危険運転致死傷罪の適用は見送られ、業務上過失傷害で裁判は落ち着いた。
懲役一年半、執行猶予三年という判決は、秋になるまえにくだされている。
やつにとっては痛くもかゆくもない刑だよな。
ミオンは十二歳の女の子らしく、そこからは声をあげて泣き出した。しばらくして泣き止むと、、メープルシロップたっぷりかけたパンケーキとバナナチョコパフェを平らげていく。なぜか、イチゴの刺さったフォークを差し出してくれた。甘くて、いいイチゴだった。だいたいこういう店では、見てくれは綺麗でも、まだ青いイチゴをつかうものだが、今回は正解。
つぎの話しは、おれがミオンの証言をつなぎあわせ再構成したものだ。イチゴのお礼。
なにせ、十二歳のガキの証言って、主語も述語も時制も視点もばらばら。一次予選で落選する新人賞の応募原稿みたいだからな。
ミオンの祖母は、倉科紗江(さえ)七十二歳。
女性の平均寿命が九十に届きそうなこの国では、まだ老人になりかけというみずみずしいばあさんだ。ミオンの母親はミオンの父親と離婚してから、別な男と再婚した。ミオンを紗江にあずけたままね。その後、双方とも養育費やお年玉どころか、電話一本かけてよこさない。母親と父親はどうでもいいクズなので、わかっているがおれは名前をいわない。
ミオンは紗江といっしょに、池袋の街の片隅でなんとか暮らしていた。年金と切り崩した貯金でね。紗江が池袋本町にあるスーパーに買い物にいったのは、去年の春一番が吹いた生ぬるい日だった。ミオンはばあが焼くホットケーキが好きだったから、その粉を買いにいったという。あんたもこの街の人間なら、春一番と地名で思い出しただろ。一瞬だが全国ニュースになったから、テレビで見たやつもいるかもしれない。
「池袋本町暴走事故」である。
運転していたのは池本信二二十四歳。やつは埼玉県久吉市生まれ。近くにある工場で派遣労働者として働いていた。趣味はレゲエと野外フェス。やつがのったスズキワゴンRは七十キロ近いスピードで池袋本町の商店街を走り抜けた。接触した車が三台。当て逃げした人間は五人だ。死者がでなかったのは、ただやつの悪運が強かっただけにすぎない。最終的には宅配便のトラックにぶつかって、ピンボールのように跳ね、セブンイレブンに正面からつっこんでいった。
問題はやつが、脱法ハーブを決めてたこと。初めてではなく常習者だ。シンジは運転中突然、誰かに追われていると思い込んだ。捕まったら全身の皮をはがされ、街灯から吊るされると、かつぎこまれた病院のベッドでさえ震えていたという。死亡事故ではなかったし、やつが交通事故を起こしたのは初めてだったので、危険運転致死傷罪の適用は見送られ、業務上過失傷害で裁判は落ち着いた。
懲役一年半、執行猶予三年という判決は、秋になるまえにくだされている。
やつにとっては痛くもかゆくもない刑だよな。