ー特別編ー北口スモークタワー
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暖冬予想が百八十度裏切られた一月の池袋、おれはいつものように店番をしていた。新宿の大江戸学園にある小顔のシャム猫の額のような茶屋が、おれの店。店先に並んでいるのは、とよのかイチゴを使った大福にふじ清見オレンジの寒天ゼリーに富有柿のようかんといった冬のフルーツをふんだんに使った冬のオールスター和菓子の面々だ。
茶屋が楽なのは朝、店を出してしまえば、あとはただぼんやりとぼんやりとしているだけで商売になるところ。その日も店の奥で足元に電気ヒーターを置いて、ぼんやりと音楽を聴いていた。おれはネットのダウンロードは好きじゃない。古くさいけど断然パッケージソフト派。レジの脇に置いてある青い布張りの箱は、グレン・グールドが弾いた全バッハ作品を収めたボックスセットだ。CD三十枚に、DVDが六枚。聞いても聞いても終わらない超大作が約一万円だ。音楽デフレもどんづまりだよな。
夕日が浴びたビルの艶やかなオレンジが映える午後四時、池袋の王様。虎狗琥崇の声が狭い店に響いた。BGMはバッハのトッカータ。グールドのおもちゃのピアノでも弾いてるように、響きが薄くて軽やかだ。
「こいつの話しを聞いてくれ。」
予約も予告もなしにわざわざここまでやってくるきまぐれな王様。崇は今年流行の青いツイードのジャケットに雪のように白いマフラーを巻いていた。くるぶしが見えるくらい短いパンツはグレイ。こいつがファッション誌を読んでいるのは見たことないが、なぜかトレンドはしっかり押さえている。アヴァンギャルドなトレンドスタイル。
王様がじきじきに首根っこを押さえているのは、薄汚れた格好のガキ。十二、三歳くらい。ワッペンだらけのジーンズに、灰色のパーカ。顔はキャップのうえにパーカーフードをかぶせていて、よくわからない。
「それ、仕事?金になる話しか?」
おれのやることには基本ボーナスがない。店主なのに低賃金長時間労働のブラック茶屋で有名だ。ガキに聞いてみた。
「それって、新しい流行なのか?」
灰色のパーカーの肩からフードにかけて、黒い線が走っている。その線は右側の頬まで続いていた。タトゥをしているやつはこの街では珍しくない。だが、頬に刺青をさしたガキはさすがに池袋でも珍しい。それともメイクで頬にナイフの傷跡でも着けているのだろうか。戦国ゲームが大人気だからな。もう十代前半のファッションにはついていけない。おれの後方から吉音の声が響いた。
「わっ、女の子なのに顔に傷つけちゃ駄目だよ!」
このガキが女の子?おれにはコンビニのまえで座り込んでいるアホな男子と同じように見えた。吉音はポットのお湯で濡らしたタオルを持ってくる。フードとキャップをはずして、頬を拭いてやった。タオルには黒い煤が残った。燃える家から逃げてきたのだろうか。髪はツンツンのベリーショートだが、結構可愛い顔をしている。
「お前、名前は?」
そっぽ向いたままガキが言った。
「倉科御園(くらなしみおん)。あんたたち、警察呼ぶの?」
おれは肩をすくめるだけ。吉音が言った。
「おー様と大切なお話しがあるんでしょ?悠、みおちゃんの面倒見てあげてね!」
なぜかあらゆる年齢の女性に、崇は好意をもたれる特殊能力がある。おれにしたら稲妻のようなヤツの右ストレートジャブより脅威的。
というか嫉妬的?
茶屋が楽なのは朝、店を出してしまえば、あとはただぼんやりとぼんやりとしているだけで商売になるところ。その日も店の奥で足元に電気ヒーターを置いて、ぼんやりと音楽を聴いていた。おれはネットのダウンロードは好きじゃない。古くさいけど断然パッケージソフト派。レジの脇に置いてある青い布張りの箱は、グレン・グールドが弾いた全バッハ作品を収めたボックスセットだ。CD三十枚に、DVDが六枚。聞いても聞いても終わらない超大作が約一万円だ。音楽デフレもどんづまりだよな。
夕日が浴びたビルの艶やかなオレンジが映える午後四時、池袋の王様。虎狗琥崇の声が狭い店に響いた。BGMはバッハのトッカータ。グールドのおもちゃのピアノでも弾いてるように、響きが薄くて軽やかだ。
「こいつの話しを聞いてくれ。」
予約も予告もなしにわざわざここまでやってくるきまぐれな王様。崇は今年流行の青いツイードのジャケットに雪のように白いマフラーを巻いていた。くるぶしが見えるくらい短いパンツはグレイ。こいつがファッション誌を読んでいるのは見たことないが、なぜかトレンドはしっかり押さえている。アヴァンギャルドなトレンドスタイル。
王様がじきじきに首根っこを押さえているのは、薄汚れた格好のガキ。十二、三歳くらい。ワッペンだらけのジーンズに、灰色のパーカ。顔はキャップのうえにパーカーフードをかぶせていて、よくわからない。
「それ、仕事?金になる話しか?」
おれのやることには基本ボーナスがない。店主なのに低賃金長時間労働のブラック茶屋で有名だ。ガキに聞いてみた。
「それって、新しい流行なのか?」
灰色のパーカーの肩からフードにかけて、黒い線が走っている。その線は右側の頬まで続いていた。タトゥをしているやつはこの街では珍しくない。だが、頬に刺青をさしたガキはさすがに池袋でも珍しい。それともメイクで頬にナイフの傷跡でも着けているのだろうか。戦国ゲームが大人気だからな。もう十代前半のファッションにはついていけない。おれの後方から吉音の声が響いた。
「わっ、女の子なのに顔に傷つけちゃ駄目だよ!」
このガキが女の子?おれにはコンビニのまえで座り込んでいるアホな男子と同じように見えた。吉音はポットのお湯で濡らしたタオルを持ってくる。フードとキャップをはずして、頬を拭いてやった。タオルには黒い煤が残った。燃える家から逃げてきたのだろうか。髪はツンツンのベリーショートだが、結構可愛い顔をしている。
「お前、名前は?」
そっぽ向いたままガキが言った。
「倉科御園(くらなしみおん)。あんたたち、警察呼ぶの?」
おれは肩をすくめるだけ。吉音が言った。
「おー様と大切なお話しがあるんでしょ?悠、みおちゃんの面倒見てあげてね!」
なぜかあらゆる年齢の女性に、崇は好意をもたれる特殊能力がある。おれにしたら稲妻のようなヤツの右ストレートジャブより脅威的。
というか嫉妬的?