池袋のスモークタワーをしってるかい?

そいつはJR北口から徒歩三分、二百九十円均一のデフレ居酒屋とネットに押され年金暮らしの老人しか客が居ないポルノ映画館のあいだにそびえる堂々たるペンシルビルだ。本当の名前はえらそうに池袋北タワーティングビルというんだが、誰もそんな名前で呼ぶ奴はいない。

ただのスモークタワー。そいつで十分通じるんだから、すでに立派な観光名所。

薬事法と東京都のドラッグ条例すれすれの脱法ミニスカイツリーである。

久しぶりのおれの話しはいかれたスモークタワーにまつわる煙みたいにあやふやな事件。そのビルから立ち上るスモークの中にはJWH-018とか、CP-47497とか、AM694なんてフライトナンバーみたいな合成カンナビノイド(大麻の主成分に似たケミカルね)がたっぷり含まれている。当然そいつを吸いこめば、オーガニックでマイルドでオールドファッションな天然麻薬より、激しくぶっ飛ぶことになる。

あんたも最近はよく聞くだろ。

壁に空いた穴みたいに瞳孔を広げてストリートでのたうち回ったり、自分は死ななきゃいけないと二階から飛び降り両足を折ったり、裸にイヤホンだけつけてジョギングする飛びすぎたガキどもの話。あまりありふれているからニュースにもならない脱法ハーブのジャンキーネタだ。

この数年で政権交代が何度かあったばかりだけど、世の中はまるで変わらなかった。増えるのは国の借金と電気料金、減るのは子供と正規職と給料ばかり。そんな下り坂のニッポンで、明日に希望を持てなくなった若者が、脱法ハーブにハマる。まぁ、そんなふうに新聞には書いてある。現代の神話だよな。

だが、正直なところ、おれにも若いやつがなぜドラッグにハマるのか、実はよくわからないんだ。未来に絶望視のかもしれない、ただの憂さ晴らしかもしれない、ガキはいつの時代もガキだから、禁止されたことを試したいのかもしれない。どっちにしても、短いハイの代償に壊れてくのは、自分の頭と体なんだ。

池袋の小鳥遊悠も、もう十代後半になった。

あとからやってくる世代は、いつだって謎である。

あんたも若いころを思い出せば、そいつはよくわかるだろ。年上のオヤジの説教は予想がつくけれど、次の世代が何をしでかすかはブラックホール。

それでもおれはこの舌がまわる限り、なんとか現役でしのいでいくつもり。毎日通りに立ち、時代の風に耳を澄ましてね。年金には期待できそうにもないし、国や政治家の世話になるなんてうんざり。

街の人間は、自分の腕と舌で生き延びなくちゃな。



ｰ北口スモークタワーｰ