ー特別編ードラゴン・オーシャン
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クーは明るい笑顔をたもったまま、それからの二十分で今回のトラブルの顛末を語った。中原の貧しい村の話から、おとなりの国の改革開放の激変まで、NHKの大河ドラマより雄大なストーリーを物語ったのだ。
さすがの親父も、クーの母親の肝臓移植の話では涙ぐんでいた。二百四十九人の同胞の強制送還と父親の命。どちらの端にも重すぎるウエイトをのせた秤だった。最後に親父はいった。
「そうか、キミは明日、時給二百七十円の工場に帰るのか」
クーはもう沈んではいなかった。誰にせよ自分の運命を受けとめたやつは強いよな。逃げた女の表情にはあの隠せない輝きがのぞいていた。親父はリンを軽く睨んで、首を横に振った。
「リン君、アンタは本当に策士だな。悠なんていくらこの街でちやほやされても、まだまだガキだとよく分かったよ」
なにをいっているのだろうか。おれには意味不明だが、リンも親父もお互いにちゃんと理解しているようだった。
「だが……こうしてクー君の心意気を見せつけられたなら、アンタの策に乗るしかないようだ」
リンはテーブルに額がつくほど、深々と頭を下げた。さんざん苦労したおれではなく、親父のほうにあやまる。なんだ、それ?
「申し訳ありません。ですが、ひとつの選択肢として考えていましたが、決して最初からそんな無理なお願いをするつもりではなかったんです。クーさんが工場に戻る。残念ですが、最悪の場合はそれもやむを得ないと思っていました。」
リンはやけに真剣だった。クーとおれには話しが全然見えない。
「いったいふたりでなにを話しているんだ」
おれは久々にまぬけな質問をしてしまった。親父はにやりと笑っていった。
「クー君の問題は、最初から国籍なんだ。リン君のように日本国籍が取れれば、なんの問題もなくなる。強制送還もないし、自由にこの街で働くこともできる。」
そのときようやく鈍いおれも気がついた。
「親父、クーを養子にする気か?」
クーも驚いた顔をしていた。
「あぁ、クー君がいいというならな。それに私はさっきから、この子の手を見ていたんだ。」
おれは改めてクーの手を見た。男のようにごつごつしていて、爪は分厚く、短く切ってある。それは生まれてからずっと働いてきた人間の手だった。
「チャンスを与えれば、この手ならきっとよく働くだろう。クー君の母君を見殺しにもできない。どうだ、クー君、アンタ、書類のうえだけでも悠の姉になってみないかね。その場合将来的に私の会社で働けるようにもするし、母君のことも出来る限りバックアップしてみよう。もちろんしっかりと勉強しながら働いても貰うがね。あとはそうだな……ここで美味しい夕食を真桜君がごちそうしてくれたりと特典もあるな」
クーは胸に手をあて、息を呑んだ。正面を向いたまま、ぽとぽと涙を落とす。
「ありがとうございます。そうしてもらえるなら、わたしは一生懸命働いて、母を助けます。日本のお父さんのためにも、できる限りのことをします。わたしは本当にこの街に居てもいいんですか」
声をあげて泣き出したクーを、親父も涙目で見つめていた。リンはかすかに頬を赤く染めていたが、まったく表情に変化はない。たいした役者だ。おれはいった。
「リン、そのためにこのまえ夜中に押し掛けて、お前の養子縁組の話をしたのか」
イケメン研修生アドバイザーは、軽く目礼してみせた。
「すみません。悠クーさんの状況は厳しかったので、どんな条件でも利用しようと思っていたのです。ですが、これほどお父様と悠の心があたたかだとは想像もしていませんでした。おふたがたとも、どうもありがとうございます。」
長い夕食会はこうしてお開きとなった。
さすがの親父も、クーの母親の肝臓移植の話では涙ぐんでいた。二百四十九人の同胞の強制送還と父親の命。どちらの端にも重すぎるウエイトをのせた秤だった。最後に親父はいった。
「そうか、キミは明日、時給二百七十円の工場に帰るのか」
クーはもう沈んではいなかった。誰にせよ自分の運命を受けとめたやつは強いよな。逃げた女の表情にはあの隠せない輝きがのぞいていた。親父はリンを軽く睨んで、首を横に振った。
「リン君、アンタは本当に策士だな。悠なんていくらこの街でちやほやされても、まだまだガキだとよく分かったよ」
なにをいっているのだろうか。おれには意味不明だが、リンも親父もお互いにちゃんと理解しているようだった。
「だが……こうしてクー君の心意気を見せつけられたなら、アンタの策に乗るしかないようだ」
リンはテーブルに額がつくほど、深々と頭を下げた。さんざん苦労したおれではなく、親父のほうにあやまる。なんだ、それ?
「申し訳ありません。ですが、ひとつの選択肢として考えていましたが、決して最初からそんな無理なお願いをするつもりではなかったんです。クーさんが工場に戻る。残念ですが、最悪の場合はそれもやむを得ないと思っていました。」
リンはやけに真剣だった。クーとおれには話しが全然見えない。
「いったいふたりでなにを話しているんだ」
おれは久々にまぬけな質問をしてしまった。親父はにやりと笑っていった。
「クー君の問題は、最初から国籍なんだ。リン君のように日本国籍が取れれば、なんの問題もなくなる。強制送還もないし、自由にこの街で働くこともできる。」
そのときようやく鈍いおれも気がついた。
「親父、クーを養子にする気か?」
クーも驚いた顔をしていた。
「あぁ、クー君がいいというならな。それに私はさっきから、この子の手を見ていたんだ。」
おれは改めてクーの手を見た。男のようにごつごつしていて、爪は分厚く、短く切ってある。それは生まれてからずっと働いてきた人間の手だった。
「チャンスを与えれば、この手ならきっとよく働くだろう。クー君の母君を見殺しにもできない。どうだ、クー君、アンタ、書類のうえだけでも悠の姉になってみないかね。その場合将来的に私の会社で働けるようにもするし、母君のことも出来る限りバックアップしてみよう。もちろんしっかりと勉強しながら働いても貰うがね。あとはそうだな……ここで美味しい夕食を真桜君がごちそうしてくれたりと特典もあるな」
クーは胸に手をあて、息を呑んだ。正面を向いたまま、ぽとぽと涙を落とす。
「ありがとうございます。そうしてもらえるなら、わたしは一生懸命働いて、母を助けます。日本のお父さんのためにも、できる限りのことをします。わたしは本当にこの街に居てもいいんですか」
声をあげて泣き出したクーを、親父も涙目で見つめていた。リンはかすかに頬を赤く染めていたが、まったく表情に変化はない。たいした役者だ。おれはいった。
「リン、そのためにこのまえ夜中に押し掛けて、お前の養子縁組の話をしたのか」
イケメン研修生アドバイザーは、軽く目礼してみせた。
「すみません。悠クーさんの状況は厳しかったので、どんな条件でも利用しようと思っていたのです。ですが、これほどお父様と悠の心があたたかだとは想像もしていませんでした。おふたがたとも、どうもありがとうございます。」
長い夕食会はこうしてお開きとなった。