ー特別編ードラゴン・オーシャン
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「もしリンに女の居場所を教えたら、アンタはどうなると思う?」
楊は遠い目をしておれを見た。おれの後ろになにかを見つけたようだ。顔色がわずかだが変わった。
「さあな、組合の依頼を受けたやつらが、あの女を強制的に拉致して、茨城の工場に連れ戻すだろう。あの女の意思など構わずにな。悠、お前がどんなふうにあの女をあつかうか、そいつが楽しみだ。お前のほうがリンよりずっとマシだと俺は信じている。」
なぜ、そんなことを簡単に言えるのか。おれは不思議だった。
「どいつもこいつもいかれてる。おれにはその女のことなんて、どうにもできないよ」
「俺も池袋でしのいでいる。金を取らずに、この街の問題を解決しているトラブルシューターの噂は聞いている。そいつは面子と自分の正義をなによりも大切にする、中国人みたいな日本人だとな」
東龍のボスにとって、そいつは最大の褒め言葉なのかもしれない。
「わかった、わかったよ。全力を尽くすことだけは約束する。」
楊はくすりと笑った。
「まあ、あの女がかかっている病気には誰もしてやれることはできないだろうが」
病気?なにか伝染病にでも感染しているのだろうか。
「その病気って、重いのか?」
楊は大きな声を出して笑いだした。通行人がこちらを見ている。
「ああ、重いなんてもんじゃない。親子代々伝染して、死ぬまで奴らを苦しめる。病原菌の名前は、貧乏だ」
楊はさっと振り向くと、レクサスに片手をあげた。手下がドアを開き、ボスを待っている。
「悠の仲間が来たようだ。俺はもう行く。いいか、リンには気をつけろ。」
東龍のボスは若々しい動きで、レクサスのRVに乗りこみ、バスターミナルを出ていった。おれは白い車を見送り、振り向いた。西口公園の東武デパート口から拳二とリンがこちらにやってくるところだった。注意して辺りを見ると、一ノ瀬組の若衆が警戒態勢をとっていた。春ののどかな公園どころか、ここでドンパチが起きてもおかしくはなかったのだ。もっとも将棋を指しているホームレスの誰ひとりそんなことに気づかなかったろうけど。
拳二が苦虫をかみつぶした顔でおれにいった。
「悠、お前は何度言っても、ひとりで無茶するな。留守電聞いて、慌ててウチの組に召集かけたぞ。お前ひとりで動いて、誘拐でもされたらどうするんだ」
おれは楊という男の顔を思い出してみた。
「あいつはそんなことするタイプじゃないよ。それより、格はもう自由だそうだ。東龍はあの女から手を引いた。だから、もう襲撃はやめろと楊は言っていた」
拳二はにやりと笑った。
「まあ、そうだろうな。五、六十人しかいない組織で、六人が病院送りになったんだから、当然だな」
リンは拳二の勝利宣言にもまったく感情を見せなかった。
「悠、郭順貴は今どこに居るんですか?」
おれはイケメンアドバイザーを観察した。いつものように黒いスーツに、黒いタイ。優秀な役人のような中国人。この男の裏はどうなっているんだろう。
「まだ分からない。一ノ瀬組や上海グループとの休戦が確認できたら、連絡を入れるそうだ。リン、工場に査察が入るまでにはまだ何日かあるよな」
「ええ、あと五日」
「だったら一日だけでいいから、東龍のやつらに猶予をやってくれ」
リンは表情の読めない顔でうなずいた。
「わかりました。一日なら良いでしょう。悠さっき楊からなにか受け取りましたね。アレは何ですか」
抜け目ない男だった。おれはとっさに嘘をついた。
「楊の名刺だ。緊急時のホットラインの番号が入っていると言っていた」
リンはそれでもあきらめなかった。
「見せてもらえませんか?」
おれは首を横に振った。
「そいつはダメだ。やつはリンのことを信用していない。何か起きた場合の連絡は、おれが直接しろと言っていた」
拳二は肩をすくめていった。
「こいつはこういう不思議なところが昔からあるんだ。なぜかおおきなもめごとのまわりでちょろちょろしていると思ったら、いつのまにか核心に近いところで切り札を握ってしまう。悠と、お前、ほんとはどっかの国の諜報部員とかじゃないのか?」
おれも拳二に肩をすくめて見せた。おれは007じゃない。ただの学生兼茶屋の主人だ。
楊は遠い目をしておれを見た。おれの後ろになにかを見つけたようだ。顔色がわずかだが変わった。
「さあな、組合の依頼を受けたやつらが、あの女を強制的に拉致して、茨城の工場に連れ戻すだろう。あの女の意思など構わずにな。悠、お前がどんなふうにあの女をあつかうか、そいつが楽しみだ。お前のほうがリンよりずっとマシだと俺は信じている。」
なぜ、そんなことを簡単に言えるのか。おれは不思議だった。
「どいつもこいつもいかれてる。おれにはその女のことなんて、どうにもできないよ」
「俺も池袋でしのいでいる。金を取らずに、この街の問題を解決しているトラブルシューターの噂は聞いている。そいつは面子と自分の正義をなによりも大切にする、中国人みたいな日本人だとな」
東龍のボスにとって、そいつは最大の褒め言葉なのかもしれない。
「わかった、わかったよ。全力を尽くすことだけは約束する。」
楊はくすりと笑った。
「まあ、あの女がかかっている病気には誰もしてやれることはできないだろうが」
病気?なにか伝染病にでも感染しているのだろうか。
「その病気って、重いのか?」
楊は大きな声を出して笑いだした。通行人がこちらを見ている。
「ああ、重いなんてもんじゃない。親子代々伝染して、死ぬまで奴らを苦しめる。病原菌の名前は、貧乏だ」
楊はさっと振り向くと、レクサスに片手をあげた。手下がドアを開き、ボスを待っている。
「悠の仲間が来たようだ。俺はもう行く。いいか、リンには気をつけろ。」
東龍のボスは若々しい動きで、レクサスのRVに乗りこみ、バスターミナルを出ていった。おれは白い車を見送り、振り向いた。西口公園の東武デパート口から拳二とリンがこちらにやってくるところだった。注意して辺りを見ると、一ノ瀬組の若衆が警戒態勢をとっていた。春ののどかな公園どころか、ここでドンパチが起きてもおかしくはなかったのだ。もっとも将棋を指しているホームレスの誰ひとりそんなことに気づかなかったろうけど。
拳二が苦虫をかみつぶした顔でおれにいった。
「悠、お前は何度言っても、ひとりで無茶するな。留守電聞いて、慌ててウチの組に召集かけたぞ。お前ひとりで動いて、誘拐でもされたらどうするんだ」
おれは楊という男の顔を思い出してみた。
「あいつはそんなことするタイプじゃないよ。それより、格はもう自由だそうだ。東龍はあの女から手を引いた。だから、もう襲撃はやめろと楊は言っていた」
拳二はにやりと笑った。
「まあ、そうだろうな。五、六十人しかいない組織で、六人が病院送りになったんだから、当然だな」
リンは拳二の勝利宣言にもまったく感情を見せなかった。
「悠、郭順貴は今どこに居るんですか?」
おれはイケメンアドバイザーを観察した。いつものように黒いスーツに、黒いタイ。優秀な役人のような中国人。この男の裏はどうなっているんだろう。
「まだ分からない。一ノ瀬組や上海グループとの休戦が確認できたら、連絡を入れるそうだ。リン、工場に査察が入るまでにはまだ何日かあるよな」
「ええ、あと五日」
「だったら一日だけでいいから、東龍のやつらに猶予をやってくれ」
リンは表情の読めない顔でうなずいた。
「わかりました。一日なら良いでしょう。悠さっき楊からなにか受け取りましたね。アレは何ですか」
抜け目ない男だった。おれはとっさに嘘をついた。
「楊の名刺だ。緊急時のホットラインの番号が入っていると言っていた」
リンはそれでもあきらめなかった。
「見せてもらえませんか?」
おれは首を横に振った。
「そいつはダメだ。やつはリンのことを信用していない。何か起きた場合の連絡は、おれが直接しろと言っていた」
拳二は肩をすくめていった。
「こいつはこういう不思議なところが昔からあるんだ。なぜかおおきなもめごとのまわりでちょろちょろしていると思ったら、いつのまにか核心に近いところで切り札を握ってしまう。悠と、お前、ほんとはどっかの国の諜報部員とかじゃないのか?」
おれも拳二に肩をすくめて見せた。おれは007じゃない。ただの学生兼茶屋の主人だ。