ー特別編ードラゴン・オーシャン
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高校生や大学生がだらだらと家路に向かい、主夫がスーパーの特売のために血眼で通り過ぎる春の公園。ラッシュアワーまえの西口公園はひどくのんびりしていた。電子制御の噴水は何度も形を変えながら、白く水の柱を吹きあげている。
おれが背中に冷たい汗をかきながら御影石の縁に立っていると、バスターミナルに白いレクサスが停止した。サングラスの男がふたりおりて、周囲に厳しい視線を走らせた。東龍はもう刺繍入りのユニフォームは着ていなかった。そのうちのひとりが、目隠しのされたサイドウィンドウにうなずいてみせた。
ドアが開く。クロコダイルの革靴のつま先が見えた。おれには軽自動車くらいの値段がする靴をはく気分は想像もできない。楊だった。昨日と同じダークスーツを着ている。やつは何事もないように噴水に向かってきた。おれの背景に目をやっていう。
「ほんとうにひとりで来たんだな。なかなかの度胸だ。ほめてやる。」
楊は日焼けした顔を、ほんのすこしゆがめた。笑ったのかもしれない。
「そっちだって、約束を守ったじゃないか」
東龍のメンバーはレクサスのあたりで群れて、こらにやってこようとはしなかった。おれと楊はさしで噴水の前で対面している。周囲を取り巻くのは、ガラスとステンレスの商業ビル群。
「あたりまえだ。俺にも面子というものがある。この街にはそんなものをかけらも持たないやつらがたくさんいるがな」
苦々しげな顔をした。おれは東北グループの代表に同情した。
「そうだな。うえのほうは下の組織を全然守っちゃくれない。」
うなずいて楊がいった。
「高い上納金を払っているのに、やつらには面子ってものがない。まあ、そんなことはいい。問題はうちに逃げ込んできた女のことだ。あの女はウチにとって災いの種になってきた。処置に困っている。」
どういうことだろうか、おれには理解できなかった。
「別に逃げた女のひとりくらいどうにかなるだろう。リンのところに帰すだけでいいんだ」
「事情がいろいろあってな、簡単にはいかない。うちの中国人相手の就労斡旋ビジネスはしっているだろう」
脱走した研修生への不法就労斡旋。チャイナタウンの裏側の派遣業だ。おれがうなずくと、楊はビジネスマンの顔になった。
「東龍が伸びているのは、きちんと脱走者の面倒を見て、トラブルを回避しているからだ。雇い主へも働き手へも、普通の派遣業よりもずっときめ細やかなサービスをしている。信用も高く、評判はいい。」
「そいつはよかったな」
ほかにどんな言葉があるだろう。おれたち日本人にはまったく見えないところで行われている非合法のビジネスだ。コイツは法律違反だが、誰も傷つけないという意味では、人類最古のビジネスによく似ている。
「まあ、おれの口からいっても意味は分からないだろう。」
にやりと笑って、楊はおれのほうに何かを差しだした。やつのごつい手のなかに、キラキラとピンクの輝きが見える。おれはカードを受け取った。ピンク色の銀箔の名刺には、インターナショナルクラブ、ロータスラウンジ。住所は池袋本町だった。
「その店に行き麗華という女に会って、話しを聞くといい。店に筋はとおしてある。うが困っている事情も、きっと理解できるだろう。それから、リンという男に伝えておけ。うちのグループはあの女から手を引く。今からあの女は自由だ。あとは好きなようにしてくれ。それにうちのグループの人間に、もう手を出すなとな。これ以上の出入りが続けば、全面戦争になる。」
東龍の自爆も辞さないという険しい表情だった。しっかりとうなずいて、おれはずっと気になっていたことを質問した。
「なあ、なぜ、おれだったんだ。別にリンに電話一本かければそれですむことだ。」
楊は吐き捨てるようにいった。
「悠はあいつらを何だと思っているんだ。やつはただのアドバイザーなんかじゃない。上海系グループのスパイもやってる。中国人の裏社会を泳ぎまわり、金によって誰の側にもつく汚い情報屋だ。とてもじゃないが信用できない。」
おれはなにも返事が出来なかった。今回は何もしていないようなものだ。すべてのお膳立ては、リンが取り仕切っていた。
おれが背中に冷たい汗をかきながら御影石の縁に立っていると、バスターミナルに白いレクサスが停止した。サングラスの男がふたりおりて、周囲に厳しい視線を走らせた。東龍はもう刺繍入りのユニフォームは着ていなかった。そのうちのひとりが、目隠しのされたサイドウィンドウにうなずいてみせた。
ドアが開く。クロコダイルの革靴のつま先が見えた。おれには軽自動車くらいの値段がする靴をはく気分は想像もできない。楊だった。昨日と同じダークスーツを着ている。やつは何事もないように噴水に向かってきた。おれの背景に目をやっていう。
「ほんとうにひとりで来たんだな。なかなかの度胸だ。ほめてやる。」
楊は日焼けした顔を、ほんのすこしゆがめた。笑ったのかもしれない。
「そっちだって、約束を守ったじゃないか」
東龍のメンバーはレクサスのあたりで群れて、こらにやってこようとはしなかった。おれと楊はさしで噴水の前で対面している。周囲を取り巻くのは、ガラスとステンレスの商業ビル群。
「あたりまえだ。俺にも面子というものがある。この街にはそんなものをかけらも持たないやつらがたくさんいるがな」
苦々しげな顔をした。おれは東北グループの代表に同情した。
「そうだな。うえのほうは下の組織を全然守っちゃくれない。」
うなずいて楊がいった。
「高い上納金を払っているのに、やつらには面子ってものがない。まあ、そんなことはいい。問題はうちに逃げ込んできた女のことだ。あの女はウチにとって災いの種になってきた。処置に困っている。」
どういうことだろうか、おれには理解できなかった。
「別に逃げた女のひとりくらいどうにかなるだろう。リンのところに帰すだけでいいんだ」
「事情がいろいろあってな、簡単にはいかない。うちの中国人相手の就労斡旋ビジネスはしっているだろう」
脱走した研修生への不法就労斡旋。チャイナタウンの裏側の派遣業だ。おれがうなずくと、楊はビジネスマンの顔になった。
「東龍が伸びているのは、きちんと脱走者の面倒を見て、トラブルを回避しているからだ。雇い主へも働き手へも、普通の派遣業よりもずっときめ細やかなサービスをしている。信用も高く、評判はいい。」
「そいつはよかったな」
ほかにどんな言葉があるだろう。おれたち日本人にはまったく見えないところで行われている非合法のビジネスだ。コイツは法律違反だが、誰も傷つけないという意味では、人類最古のビジネスによく似ている。
「まあ、おれの口からいっても意味は分からないだろう。」
にやりと笑って、楊はおれのほうに何かを差しだした。やつのごつい手のなかに、キラキラとピンクの輝きが見える。おれはカードを受け取った。ピンク色の銀箔の名刺には、インターナショナルクラブ、ロータスラウンジ。住所は池袋本町だった。
「その店に行き麗華という女に会って、話しを聞くといい。店に筋はとおしてある。うが困っている事情も、きっと理解できるだろう。それから、リンという男に伝えておけ。うちのグループはあの女から手を引く。今からあの女は自由だ。あとは好きなようにしてくれ。それにうちのグループの人間に、もう手を出すなとな。これ以上の出入りが続けば、全面戦争になる。」
東龍の自爆も辞さないという険しい表情だった。しっかりとうなずいて、おれはずっと気になっていたことを質問した。
「なあ、なぜ、おれだったんだ。別にリンに電話一本かければそれですむことだ。」
楊は吐き捨てるようにいった。
「悠はあいつらを何だと思っているんだ。やつはただのアドバイザーなんかじゃない。上海系グループのスパイもやってる。中国人の裏社会を泳ぎまわり、金によって誰の側にもつく汚い情報屋だ。とてもじゃないが信用できない。」
おれはなにも返事が出来なかった。今回は何もしていないようなものだ。すべてのお膳立ては、リンが取り仕切っていた。