ー特別編ードラゴン・オーシャン
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「もうひとつってなんだよ」
「それは東龍という組織の収益構造に有ります。西口北口に点在する二百店の中国系ショップからのみかじめ料。これが最初の柱。不法在留の中国人に仕事を斡旋するハローワークもどきがもう一本の柱なのです。日本のAVなんかを中国へ密貿易しますが、それはたいした額ではないと聞いています。」
論説委員どころではなかった。裏の世界の外交官のように、どんなグループの動きも分かっている。底のしれない男。
「郭という女ひとりを守れないようでは、他の不法就労の中国人から信頼を失います。問題はデリケートです。郭を回収する。ただし、そのときは東龍の面子を立てて、花を持たせてやらなければならない」
リンは春の午後のまるい日差しのなかで、おれに笑って見せた。
「そういうことは、上海グループや一ノ瀬組では逆立ちしてもできません。悠の出番です。さて、わたしたちはどうすればいいのでしょうか」
なんてこった。これではいつもと同じ展開だった。今回のトラブルシューターはおれではなくリンのはずだった。それなのに話しがいいところに来ると解きようがない難問がおれのところにまわってくる。
まったく池袋の神さまは不公平である。おれはあっけにとられて、リンを見つめていた。やつはVTRが故障したときのニュースキャスターみたいに辛抱強く笑顔を見せている。おれには何のアイディアもなかった。
「無関係(メイクワンシー)」
そういってみた。リンは笑顔のまま否定する。
「もう悠は無関係ではありませんよ」
生きているということは、人間の抱えるすべての問題に関係を持つことなのかもしれない。およそ池袋の街にかかわることで、おれはメイクワンシーな問題は存在しないのだ。
やれやれ、だぜ。
リンは組合への報告があるといって、しばらくしてうちの家を離れた。おれの携帯が鳴ったのは夕方。携帯の小窓を確かめると、見たことのない番号だった。
「もしもし?」
『中国語ではもしもしをウエイというのをしっているか』
驚きのあまり携帯を落としそうになった。東龍のボス楊峰の渋い声。
「初めて聞いた。今度つかってみるよ」
ウエイウエイ、ハローハロー、もしもし。電話が発明されるには、ほとんど使用されることのなかった数々の言葉。技術は言葉を変える。
『悠、おまえに話しがある。』
いきなり楊がそういった。なんとか態勢を立て直し、おれは返事をした。
「こっちも楊さんに話しが有ったんだ。リンといっしょに会ってもらえないか?」
東龍のボスはなにか中国語で叫んだ。意味は分からないが、ののしりの言葉であるのは無神経なおれでも分かった。
『やつはダメだ。悠ひとりでこい。そうでなければ、話しはできない。あの男は信用できない。』
いったいどうなっているのだろう。わけがほからない。そのときおれの頭に有った言葉は誘拐とか拉致とか、いわくつきの危険なものばかり。
『心配なら衆人環境のなかで、ふたりで会おう。今はこんな状態なので、うちのメンバーがボディガードには着くが、悠の安全は保障する。おれの面子にかけてな。場所もそちらが指定していい。』
東龍のボスが命よりも大切な面子をかけるという。れは楊を信用する気になった。
「わかった、じゃあ西口公園の噴水のまえで、三十分後に」
『了解した』
電話は突然切れた。うちの庭先ではバロンが大きな口を開いてあくびをしている。ドラゴンのボスなんて、なんだか夢の中みたいな話。
おれは家をでるまえに、保険の電話を一本かけておいた。
一ノ瀬組の拳二だ。リンはなにか裏の事情があるのかもしれない。楊の口ぶりで面会は伏せておいた方がいいだろうと思ったのだ。拳二の携帯は残念ながら、留守電だったけれど、おれはメッセージを残しておいた。
「これから三十分後に、西口公園で東龍のボス楊峰と話しをしてくる。こちらもむこうもひとりの約束だ。なにもないとは思うけど、おれが帰らなかったら、リンに連絡を入れて……」
メッセージの録音時間は、そこで切れてしまった。まあ、おれ達が伝えたいメッセージはいつも尻切れトンボに終わる運命だから、それは仕方ない。
「それは東龍という組織の収益構造に有ります。西口北口に点在する二百店の中国系ショップからのみかじめ料。これが最初の柱。不法在留の中国人に仕事を斡旋するハローワークもどきがもう一本の柱なのです。日本のAVなんかを中国へ密貿易しますが、それはたいした額ではないと聞いています。」
論説委員どころではなかった。裏の世界の外交官のように、どんなグループの動きも分かっている。底のしれない男。
「郭という女ひとりを守れないようでは、他の不法就労の中国人から信頼を失います。問題はデリケートです。郭を回収する。ただし、そのときは東龍の面子を立てて、花を持たせてやらなければならない」
リンは春の午後のまるい日差しのなかで、おれに笑って見せた。
「そういうことは、上海グループや一ノ瀬組では逆立ちしてもできません。悠の出番です。さて、わたしたちはどうすればいいのでしょうか」
なんてこった。これではいつもと同じ展開だった。今回のトラブルシューターはおれではなくリンのはずだった。それなのに話しがいいところに来ると解きようがない難問がおれのところにまわってくる。
まったく池袋の神さまは不公平である。おれはあっけにとられて、リンを見つめていた。やつはVTRが故障したときのニュースキャスターみたいに辛抱強く笑顔を見せている。おれには何のアイディアもなかった。
「無関係(メイクワンシー)」
そういってみた。リンは笑顔のまま否定する。
「もう悠は無関係ではありませんよ」
生きているということは、人間の抱えるすべての問題に関係を持つことなのかもしれない。およそ池袋の街にかかわることで、おれはメイクワンシーな問題は存在しないのだ。
やれやれ、だぜ。
リンは組合への報告があるといって、しばらくしてうちの家を離れた。おれの携帯が鳴ったのは夕方。携帯の小窓を確かめると、見たことのない番号だった。
「もしもし?」
『中国語ではもしもしをウエイというのをしっているか』
驚きのあまり携帯を落としそうになった。東龍のボス楊峰の渋い声。
「初めて聞いた。今度つかってみるよ」
ウエイウエイ、ハローハロー、もしもし。電話が発明されるには、ほとんど使用されることのなかった数々の言葉。技術は言葉を変える。
『悠、おまえに話しがある。』
いきなり楊がそういった。なんとか態勢を立て直し、おれは返事をした。
「こっちも楊さんに話しが有ったんだ。リンといっしょに会ってもらえないか?」
東龍のボスはなにか中国語で叫んだ。意味は分からないが、ののしりの言葉であるのは無神経なおれでも分かった。
『やつはダメだ。悠ひとりでこい。そうでなければ、話しはできない。あの男は信用できない。』
いったいどうなっているのだろう。わけがほからない。そのときおれの頭に有った言葉は誘拐とか拉致とか、いわくつきの危険なものばかり。
『心配なら衆人環境のなかで、ふたりで会おう。今はこんな状態なので、うちのメンバーがボディガードには着くが、悠の安全は保障する。おれの面子にかけてな。場所もそちらが指定していい。』
東龍のボスが命よりも大切な面子をかけるという。れは楊を信用する気になった。
「わかった、じゃあ西口公園の噴水のまえで、三十分後に」
『了解した』
電話は突然切れた。うちの庭先ではバロンが大きな口を開いてあくびをしている。ドラゴンのボスなんて、なんだか夢の中みたいな話。
おれは家をでるまえに、保険の電話を一本かけておいた。
一ノ瀬組の拳二だ。リンはなにか裏の事情があるのかもしれない。楊の口ぶりで面会は伏せておいた方がいいだろうと思ったのだ。拳二の携帯は残念ながら、留守電だったけれど、おれはメッセージを残しておいた。
「これから三十分後に、西口公園で東龍のボス楊峰と話しをしてくる。こちらもむこうもひとりの約束だ。なにもないとは思うけど、おれが帰らなかったら、リンに連絡を入れて……」
メッセージの録音時間は、そこで切れてしまった。まあ、おれ達が伝えたいメッセージはいつも尻切れトンボに終わる運命だから、それは仕方ない。