ー特別編ードラゴン・オーシャン
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襲撃事件の一報を聞いて、おれは店先から拳二に電話をかけた。やつの声は春の西口公園のようにほがらか。
『よう、悠か。今日は実に気分がいいな』
一ノ瀬組の本部長代行は実に上機嫌だった。
「そいつはそっちのほうが、倒した人数が多かったからか?」
拳二はしらばっくれてみせた。
『あの事件じゃない事件の話しか。まあ東龍をこの街から掃除するんだ。よりきれいにした方が、やっぱ勝ちだろう』
四人病院送りにしたのが自慢なのだろう。
「そいつはもういいよ、おれには無関係(メイクワンシー)。」
メイクワンシーとリンに習った中国語でいってやった。
『なんだぁ、そいつは。いつから悠は中国びいきになった』
別にどこの国のひいきでもなかった。おれにはこの街があるだけだ。チャイナドレスは大好きだけどね。
「まあ、いい。それより、その後の展開を教えてくれないか。ドラゴンはどうしてるんだ?」
拳二は愉快そうに短く息を吐いた。笑っているのかもしれない。
『亀みたいに身体を縮めているさ。もっとも、ウチと上海でやつらにメッセージを残したから、そいつもあたりまえかな。明日になれば今日の倍病院に送ってやる。先に池袋中の病院に予約しておけってな。』
そういうことか、心理戦にかけては、暴力団のうえをいく者はいない。襲撃事件から最大の効果を得る。いつもの手はずだった。
「拳二のほうは大変じゃないのか」
『まあな。オヤジと幹部はボディガードを連れて、池袋から離れた。下っ端の奴らには集団で動くようにいってあるさ。俺ぁ、襲撃されるのも有っちゃ有りだがよぉ。かっかっか』
おれが聞きたいのは上海グループでも、一ノ瀬組でも、人間重機の話しでもなかった。
「東龍のバックはどうなってる?」
いくら勢いがあっても、東龍は池袋の中国東北系の一グループにすぎない。問題は盃をかわして傘下に入った京極会の動きだった。京極会が動けば、池袋は今回とは比較にならない戒厳令下にはいるだろう。
『そっちのほうは、中華街の長老にウチのオヤジが話しを通してある。しばらくはやつらは動くことはない。今頃東龍のやつらは焦っているはずだ。いざというときのために保険をかけたのに、そのいざってとき親が自分たちを見殺しにするんだからな。毎月上納金を納めていい面の皮だ。』
わかったといって、おれは通話を切った。この調子なら、このまま戦火が広がる可能性は薄いようだ。東龍が揺れているあいだに、決着をつける必要がある。またリンといっしょに楊と面談しなければならない。
リンはその日の午後も、うちにやってきていた。おれが店から帰ってみると上着を脱ぎ、白いシャツの袖をまくって、家の前を箒で掃いたりしている。研修生が働き者だという話しはほんとうだった。なにか指示をするまえに、自分で気を利かせてどんどん作業を片づけていくのだ。それは見ていて、なかなか気持ちのいい光景だった。休暇なのか居座っている親父は、自分の息子にするなら、日本人より中国人のほうがいいなどと、禁じられた民族ジョークを言う。どうやらこのおっさんはまだまだおれとケンカし続けたいらしい。
手が空いたところで、おれはリンにコーヒーを渡して、歩道に出た。
「これからどうするんだ?」
リンはネクタイの襟元をゆるめて、ガードレールに腰掛けていた。
「今、長老を通じて、楊とのセッティングを急いでいます。まだ先方がどう動くかわかりません」
「だけど、郭という女ひとりの話しだろう。ヤツらにとっては、あの女は安全ピンを抜いた手榴弾みたいなもんだ。一刻も早く手放したくてしかたないはずだ」
おれをジッと見て、リンはうつむいた。
「そう簡単にいけばいいのですが。まずわたしたち中国人は面子を大切にする。それは時に命よりも大切なものです。揺さぶりに容易に根をあげたという評判は、東龍の傷になる。この街で今後しのいでいくのも困難になるかもしれない。それに、もうひとつ」
何だか夕方のニュースで、政治問題を解説されているようだった。どっかの新聞の論説委員みたいな男。頭がいいのは便利だろうが、何故そういうやつは冷たい印象になるのだろう。
『よう、悠か。今日は実に気分がいいな』
一ノ瀬組の本部長代行は実に上機嫌だった。
「そいつはそっちのほうが、倒した人数が多かったからか?」
拳二はしらばっくれてみせた。
『あの事件じゃない事件の話しか。まあ東龍をこの街から掃除するんだ。よりきれいにした方が、やっぱ勝ちだろう』
四人病院送りにしたのが自慢なのだろう。
「そいつはもういいよ、おれには無関係(メイクワンシー)。」
メイクワンシーとリンに習った中国語でいってやった。
『なんだぁ、そいつは。いつから悠は中国びいきになった』
別にどこの国のひいきでもなかった。おれにはこの街があるだけだ。チャイナドレスは大好きだけどね。
「まあ、いい。それより、その後の展開を教えてくれないか。ドラゴンはどうしてるんだ?」
拳二は愉快そうに短く息を吐いた。笑っているのかもしれない。
『亀みたいに身体を縮めているさ。もっとも、ウチと上海でやつらにメッセージを残したから、そいつもあたりまえかな。明日になれば今日の倍病院に送ってやる。先に池袋中の病院に予約しておけってな。』
そういうことか、心理戦にかけては、暴力団のうえをいく者はいない。襲撃事件から最大の効果を得る。いつもの手はずだった。
「拳二のほうは大変じゃないのか」
『まあな。オヤジと幹部はボディガードを連れて、池袋から離れた。下っ端の奴らには集団で動くようにいってあるさ。俺ぁ、襲撃されるのも有っちゃ有りだがよぉ。かっかっか』
おれが聞きたいのは上海グループでも、一ノ瀬組でも、人間重機の話しでもなかった。
「東龍のバックはどうなってる?」
いくら勢いがあっても、東龍は池袋の中国東北系の一グループにすぎない。問題は盃をかわして傘下に入った京極会の動きだった。京極会が動けば、池袋は今回とは比較にならない戒厳令下にはいるだろう。
『そっちのほうは、中華街の長老にウチのオヤジが話しを通してある。しばらくはやつらは動くことはない。今頃東龍のやつらは焦っているはずだ。いざというときのために保険をかけたのに、そのいざってとき親が自分たちを見殺しにするんだからな。毎月上納金を納めていい面の皮だ。』
わかったといって、おれは通話を切った。この調子なら、このまま戦火が広がる可能性は薄いようだ。東龍が揺れているあいだに、決着をつける必要がある。またリンといっしょに楊と面談しなければならない。
リンはその日の午後も、うちにやってきていた。おれが店から帰ってみると上着を脱ぎ、白いシャツの袖をまくって、家の前を箒で掃いたりしている。研修生が働き者だという話しはほんとうだった。なにか指示をするまえに、自分で気を利かせてどんどん作業を片づけていくのだ。それは見ていて、なかなか気持ちのいい光景だった。休暇なのか居座っている親父は、自分の息子にするなら、日本人より中国人のほうがいいなどと、禁じられた民族ジョークを言う。どうやらこのおっさんはまだまだおれとケンカし続けたいらしい。
手が空いたところで、おれはリンにコーヒーを渡して、歩道に出た。
「これからどうするんだ?」
リンはネクタイの襟元をゆるめて、ガードレールに腰掛けていた。
「今、長老を通じて、楊とのセッティングを急いでいます。まだ先方がどう動くかわかりません」
「だけど、郭という女ひとりの話しだろう。ヤツらにとっては、あの女は安全ピンを抜いた手榴弾みたいなもんだ。一刻も早く手放したくてしかたないはずだ」
おれをジッと見て、リンはうつむいた。
「そう簡単にいけばいいのですが。まずわたしたち中国人は面子を大切にする。それは時に命よりも大切なものです。揺さぶりに容易に根をあげたという評判は、東龍の傷になる。この街で今後しのいでいくのも困難になるかもしれない。それに、もうひとつ」
何だか夕方のニュースで、政治問題を解説されているようだった。どっかの新聞の論説委員みたいな男。頭がいいのは便利だろうが、何故そういうやつは冷たい印象になるのだろう。