ー特別編ードラゴン・オーシャン
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その日はいい天気だったので、冷やし系の和菓子はまあまあの売り上げ。やっぱり和菓子は洋菓子と違って天候や気分に左右される。十一時近くになり店じまいをしていると、おれの携帯が鳴った。池袋のビックスリーのひとつ一ノ瀬組の本部長代行、我らが拳二からだった。
『おい、ちょっと出て来られるか』
おれは閉店間際のくたびれた店内を見回した。
「あと十五分あれば、だいじょうぶ」
『だったら、メトロポリタンホテルのバーに来てくれ。』
おれは思わず声をあげてしまった。
「おまえがホテルのバーなんて、いったいどうしたんだ。婚約者でも紹介してくれるのか?」
『やかましい、悠。十五分だぞ』
それだけいうと通話は切れた。おれとのむときはいつも西口か北口の居酒屋ばかりの拳二だった。いったい奴に何が起きたのだろう。おれは猛然と店じまいに取りかかった。
天気のいい春の夜に外出する。
それも深夜に外出するのは、実に気分のいいものだ。厳しい冬を今年も乗り切った、これからいい季節が始まると全身で感じられるからだ。おれは春の夜の風が四季を通じて一番官能的だと思う。綺麗な手をした若い女の指先が全身を軽く擦るように通り過ぎていく。いつまでも夜の中を歩きたくなる。
おれが西口のホテルに到着したのは、十一時を少し過ぎたころだった。この時間ロビーはひっそりと静かだ。二階にあるバーに向かう。此処は池袋署の悪徳クソ刑事以外とはめったにこない場所だった。バーの中は薄暗く、客はわずかだった。壁を埋める酒瓶は宝石店の陳列ケースみたい。なぜ高い酒はあんなにキラキラとしているのだろうか。
長いカウンターのわきにあるテーブルに、腕組をした拳二が座っていた。対面にはリンと見知らぬ顔の男。それも危険な世界にいるやつ。雰囲気で中国人だと分かった。服の着こなしと髪型が、どこか日本人と違う。
おれは拳二のとなりの席に座り、ウェイターにジントニックを注文した。拳二が腹を立てた様子でいった。
「なんで、悠をそこの席に呼ばなくちゃならないんだ」
拳二にしたら、ひどく険しい表情。おれはいった。
「リン、なんで拳二を知っているんだ」
リンはこんな時でも、まるで感情を見せなかった。超然という。
「最初はこちらの方を紹介しておきましょう。瑚逸輝(コイツキ)さん、池袋にある上海グループの外担当をなさっています。」
カミソリのように薄い目をして、おれを睨んでいた。歳は三十ぐらいだろうか。拳二がいった。
「悠、本来お前はここにいる人間じゃない。いいか、実際にはお前はここに居ないんだ。この場で聞いたことは誰にも話すな。ここでお前は誰にも会っていない。それでいいんだよな瑚さん」
上海グループの男はDスクエアードの新作を着ていた。黙ってうなずく。どんなにポップなブランドねのでも暴力のにおいというのは消せないものだ。おれはいつもの冗談を言う気にもならなかった。
「わかった」
リンのまえにはペリエのボトルがおいてあった。この男だけがシラフのようだ。
「このバーは十二時で閉店です。手早く話を勧めましょう」
役人のように議事進行をはかっている。おれは届いたロングカクテルをひと口やっていった。
「なんの話しだ」
リンは表情を消したまま言った。
「東龍襲撃計画です。」
「なんだって!!」
クローズ間際の静かな高級バーに、おれの声が響き渡った。
『おい、ちょっと出て来られるか』
おれは閉店間際のくたびれた店内を見回した。
「あと十五分あれば、だいじょうぶ」
『だったら、メトロポリタンホテルのバーに来てくれ。』
おれは思わず声をあげてしまった。
「おまえがホテルのバーなんて、いったいどうしたんだ。婚約者でも紹介してくれるのか?」
『やかましい、悠。十五分だぞ』
それだけいうと通話は切れた。おれとのむときはいつも西口か北口の居酒屋ばかりの拳二だった。いったい奴に何が起きたのだろう。おれは猛然と店じまいに取りかかった。
天気のいい春の夜に外出する。
それも深夜に外出するのは、実に気分のいいものだ。厳しい冬を今年も乗り切った、これからいい季節が始まると全身で感じられるからだ。おれは春の夜の風が四季を通じて一番官能的だと思う。綺麗な手をした若い女の指先が全身を軽く擦るように通り過ぎていく。いつまでも夜の中を歩きたくなる。
おれが西口のホテルに到着したのは、十一時を少し過ぎたころだった。この時間ロビーはひっそりと静かだ。二階にあるバーに向かう。此処は池袋署の悪徳クソ刑事以外とはめったにこない場所だった。バーの中は薄暗く、客はわずかだった。壁を埋める酒瓶は宝石店の陳列ケースみたい。なぜ高い酒はあんなにキラキラとしているのだろうか。
長いカウンターのわきにあるテーブルに、腕組をした拳二が座っていた。対面にはリンと見知らぬ顔の男。それも危険な世界にいるやつ。雰囲気で中国人だと分かった。服の着こなしと髪型が、どこか日本人と違う。
おれは拳二のとなりの席に座り、ウェイターにジントニックを注文した。拳二が腹を立てた様子でいった。
「なんで、悠をそこの席に呼ばなくちゃならないんだ」
拳二にしたら、ひどく険しい表情。おれはいった。
「リン、なんで拳二を知っているんだ」
リンはこんな時でも、まるで感情を見せなかった。超然という。
「最初はこちらの方を紹介しておきましょう。瑚逸輝(コイツキ)さん、池袋にある上海グループの外担当をなさっています。」
カミソリのように薄い目をして、おれを睨んでいた。歳は三十ぐらいだろうか。拳二がいった。
「悠、本来お前はここにいる人間じゃない。いいか、実際にはお前はここに居ないんだ。この場で聞いたことは誰にも話すな。ここでお前は誰にも会っていない。それでいいんだよな瑚さん」
上海グループの男はDスクエアードの新作を着ていた。黙ってうなずく。どんなにポップなブランドねのでも暴力のにおいというのは消せないものだ。おれはいつもの冗談を言う気にもならなかった。
「わかった」
リンのまえにはペリエのボトルがおいてあった。この男だけがシラフのようだ。
「このバーは十二時で閉店です。手早く話を勧めましょう」
役人のように議事進行をはかっている。おれは届いたロングカクテルをひと口やっていった。
「なんの話しだ」
リンは表情を消したまま言った。
「東龍襲撃計画です。」
「なんだって!!」
クローズ間際の静かな高級バーに、おれの声が響き渡った。