ー特別編ードラゴン・オーシャン
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「だったら、これから一ノ瀬組はどうするんだ」
「わからない。だが、二十年もうちにみかじめを納めていた店が襲われたんだ。ウチの親父にもメンツがある。黙っているわけにはいかないだろう」
京極会と一ノ瀬組がまともにぶつかれば、池袋に安全な場所は無くなるだろう。この問題を解決するには、東龍をなんとか池袋から追い払う以外手はなかった。暴れる龍を退治するには何が必要なのか。久々におれの頭がフル回転を始めた。
「それより悠の方は、なぜドラゴンを追ってるんだ」
面倒だが失踪した研修生の話をしてやった。拳二はおかしな顔をして聞き終えると言った。
「そんな女を集めて、何の役に立つんだろうな。まともな仕事はさせられないんだろ。悠はその中国人から、もっとドラゴンの情報を集めてくれないか。こっちも何かあったら連絡はする。」
わかったといって、おれはカフェを出た。ゆっくりと遠回りして、自宅に向かった。待ちはいつも変化している。そこに住むおれでさえ、ゆっくりとした変化にはなかなか気がつかなかった。もう真夜中に近いが、中国系の店はどこもまぶしいくらいの明かりをつけていた。路地のあちこちで、まるで喧嘩でもしているような中国語が耳に当たる。
おれはこの街のどこかに潜んでいるかもしれないクーという女のことを思った。中国の貧しい農村に生まれ、茨木の工場で日本人の誰もやらない仕事をして、今はこの副都心のどこかで息を潜めている。発見されればすぐに強制送還なのだ。
この街の豊かさ色とりどりのネオンサインを研修生はどう見ているのだろうか。何だかその夜の池袋は。おれにもまるで異国の都に見えてきた。
住み慣れた街で旅人になるおれも少しは大人になったのかもしれない。
翌日の遅い午前、春の和菓子を並べていると、黒いスーツがやって来た。
「もうすぐ終わる。ちょっと待ってくれ」
リンは店の前の歩道で、よくしつけられた犬のように姿勢正しく立っていた。商売ものをすべて既定の位置に配置すると、おれは店を飛び出した。店番から解放されるこの瞬間がこたえられない。生きているというのは予期せぬトラブルに巻き込まれることだ。
「待たせたな。リンは昨日の夜の事件をしってるか」
上品にうなずくとアドバイザーはいった。
「ええ聞いています。東龍が西一番街のラーメン屋を襲撃したそうですね。わたしのほうからもちょっとしたニュースがあります。龍の子に話しを聞くことができそうなんです。悠もいっしょに行きますか」
さすがに同じ大陸生まれ、リンは強力なコネクションを持っているようだった。
「ああ、いくよ。それより東龍と京極会の件は知っているか」
おれたちはドラゴンのメンバーと待ち合わせをしている芸術劇場通りに向かった。拳二から仕入れたばかりのホットなネタを流してやる。リンはあまり日本の暴力団に興味がないようだった。
「無関係(メイワクンシー)。わたしたち中国人と日本の組織は関係がありません。東龍だけを相手にした方がいい。わたしに関係あるのは、池袋の街でも暴力団でもない。クーの行方だけですそちらの方は悠のお好きなように。わたしは……」
リンは眼鏡の位置を直すと、ひどく冷たい声でいった。
「メイクワンシー」
ちょうど正午だった。
芸術劇場裏の歩道にリンと立っていると、目のまえにレクサスのRVが滑りこんできた。発売されたばかりのニューモデルで、色は純白。サングラスをかけたガキがドアを開けると言った。
「早く乗れ!」
なにか嫌な予感がした。この車は一体どこに行くのだろうか。おれはリンと顔を見合わせた。だが、ここでトラブルから降りるわけにはいかない。もう池袋の街も、龍も動き出しているのだ。
リンが後部座席に乗り込んだ。新車特有の匂いがする。おれも覚悟を決めて、レクサスに腰を据えた。ことわざにも有るよな。
龍穴にいらずんば、龍玉を得ず。あれは虎だったけ。まあ、いいだろう。おれ達が探しているのは、この街の平和と二百五十人の研修生の安全を実現するドラゴンボールで、そいつは東の龍がどこかに隠しているはずだった。
助手席の男が言った。
「悪いが、ふたりとも目隠しをしてくれ。」
思い切り気が進まなかったけど、おれは渡された紫のバンダナを頭に巻いた。こんな時でもリンは妙に落ち着いていた。眼鏡を丁寧に外してから、バンダナをつける。
おれは冷たい荷物になった気分で、レクサスの揺れに身体を預けていた。
「わからない。だが、二十年もうちにみかじめを納めていた店が襲われたんだ。ウチの親父にもメンツがある。黙っているわけにはいかないだろう」
京極会と一ノ瀬組がまともにぶつかれば、池袋に安全な場所は無くなるだろう。この問題を解決するには、東龍をなんとか池袋から追い払う以外手はなかった。暴れる龍を退治するには何が必要なのか。久々におれの頭がフル回転を始めた。
「それより悠の方は、なぜドラゴンを追ってるんだ」
面倒だが失踪した研修生の話をしてやった。拳二はおかしな顔をして聞き終えると言った。
「そんな女を集めて、何の役に立つんだろうな。まともな仕事はさせられないんだろ。悠はその中国人から、もっとドラゴンの情報を集めてくれないか。こっちも何かあったら連絡はする。」
わかったといって、おれはカフェを出た。ゆっくりと遠回りして、自宅に向かった。待ちはいつも変化している。そこに住むおれでさえ、ゆっくりとした変化にはなかなか気がつかなかった。もう真夜中に近いが、中国系の店はどこもまぶしいくらいの明かりをつけていた。路地のあちこちで、まるで喧嘩でもしているような中国語が耳に当たる。
おれはこの街のどこかに潜んでいるかもしれないクーという女のことを思った。中国の貧しい農村に生まれ、茨木の工場で日本人の誰もやらない仕事をして、今はこの副都心のどこかで息を潜めている。発見されればすぐに強制送還なのだ。
この街の豊かさ色とりどりのネオンサインを研修生はどう見ているのだろうか。何だかその夜の池袋は。おれにもまるで異国の都に見えてきた。
住み慣れた街で旅人になるおれも少しは大人になったのかもしれない。
翌日の遅い午前、春の和菓子を並べていると、黒いスーツがやって来た。
「もうすぐ終わる。ちょっと待ってくれ」
リンは店の前の歩道で、よくしつけられた犬のように姿勢正しく立っていた。商売ものをすべて既定の位置に配置すると、おれは店を飛び出した。店番から解放されるこの瞬間がこたえられない。生きているというのは予期せぬトラブルに巻き込まれることだ。
「待たせたな。リンは昨日の夜の事件をしってるか」
上品にうなずくとアドバイザーはいった。
「ええ聞いています。東龍が西一番街のラーメン屋を襲撃したそうですね。わたしのほうからもちょっとしたニュースがあります。龍の子に話しを聞くことができそうなんです。悠もいっしょに行きますか」
さすがに同じ大陸生まれ、リンは強力なコネクションを持っているようだった。
「ああ、いくよ。それより東龍と京極会の件は知っているか」
おれたちはドラゴンのメンバーと待ち合わせをしている芸術劇場通りに向かった。拳二から仕入れたばかりのホットなネタを流してやる。リンはあまり日本の暴力団に興味がないようだった。
「無関係(メイワクンシー)。わたしたち中国人と日本の組織は関係がありません。東龍だけを相手にした方がいい。わたしに関係あるのは、池袋の街でも暴力団でもない。クーの行方だけですそちらの方は悠のお好きなように。わたしは……」
リンは眼鏡の位置を直すと、ひどく冷たい声でいった。
「メイクワンシー」
ちょうど正午だった。
芸術劇場裏の歩道にリンと立っていると、目のまえにレクサスのRVが滑りこんできた。発売されたばかりのニューモデルで、色は純白。サングラスをかけたガキがドアを開けると言った。
「早く乗れ!」
なにか嫌な予感がした。この車は一体どこに行くのだろうか。おれはリンと顔を見合わせた。だが、ここでトラブルから降りるわけにはいかない。もう池袋の街も、龍も動き出しているのだ。
リンが後部座席に乗り込んだ。新車特有の匂いがする。おれも覚悟を決めて、レクサスに腰を据えた。ことわざにも有るよな。
龍穴にいらずんば、龍玉を得ず。あれは虎だったけ。まあ、いいだろう。おれ達が探しているのは、この街の平和と二百五十人の研修生の安全を実現するドラゴンボールで、そいつは東の龍がどこかに隠しているはずだった。
助手席の男が言った。
「悪いが、ふたりとも目隠しをしてくれ。」
思い切り気が進まなかったけど、おれは渡された紫のバンダナを頭に巻いた。こんな時でもリンは妙に落ち着いていた。眼鏡を丁寧に外してから、バンダナをつける。
おれは冷たい荷物になった気分で、レクサスの揺れに身体を預けていた。