ー特別編ードラゴン・オーシャン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その店はおれがガキの頃からある古いラーメン屋だった。昔ながらの鶏がらベースの醤油味甘口ラーメンが売りの店だ。店の前にはパトカーが三台ならび、電柱とパイロンを結んで規制線が張られていた。黄色いテープギリギリのところで、野次馬が携帯電話で写真を撮っている。
おれはなんとか人波をかきわけて最前列までいった。拳二が若い衆を連れて店の方を睨んでいる。ヒビの入った硝子戸が開いて、こし縄と手錠をかけられた男が警官につきそわれて出てきた。全部で三人。肩に赤い龍の刺繍が入ったそろいのスタジャンを着ていた。まだ学生といってもいいくらいの年齢だ。
そのうちのひとりが拳二に気づいて、にやりと笑った。
「野郎……」
拳二が口の中で呟いた。抑えた分だけ怒りの伝わる声。頭に血染めのタオルを巻いた店主が出てきた。ふらふらと救急隊員に向かっていく。
「いったい池袋はどうなっているんだ」
まったく、この街はどうなっているのだろう。目のまえで事件を見ているはずなのに、おれはその他大勢の野次馬と同じで、事態がまったく見えていなかった。こうなったら専門家のお話しを聞くしかないだろう。拳二が言った。
「これ以上ここにいても仕方ない。行くぞ。」
拳二は肩で風を切って、まだ膨らみ続けている野次馬集団から離れた。おれも後に続く。
「やつらがいよいよやりやがった」
今回の拳二はひどく腹を立てている。おっかない。おれはいつもの類人猿と体臭に関するジョークを封印して、拳二と春の夜を歩いた。
ロマンス通りのカフェに入った。つきそいの若衆は店の前で帰している。拳二はエスプレッソをひと口で呑みきると言った。
「悠もドラゴンがらみのトラブルか」
事件の様子はまるで分らなかったが、おれは適当にうなずいておいた。
「やつらをとめられるのなら、うちのオヤジからたっぷりと報酬が出るぞ」
悪くない話しだが研修生の失踪とは関係ない気がした。
「さっきのラーメン屋の騒動はなんだったんだ」
街の騒動は透明人間のような物だ。誰にも実際何が起きているのか見えていない。拳二は舌打ちしていった。
「あの小陽楼という店はな、かれこれ二十年もうちにみかじめを払っていた」
「いくら?」
拳二はいら立ちを隠そうとしなかった。静かなカフェの中でウェイターに叫んだ。
「同じのをもう一杯くれ」
声を下げて続ける。
「さあ、そんなこといちいち覚えていられるか。だが古顔だし、たいして儲かってない店だから、月三万というところじゃないか」
おれも打でにこの街で育ったわけじゃない。それだけで透明人間がおぼろげに見えてきた。
「さっきのスタジャンは東龍のやつらだな。一ノ瀬組がみかじめを取っている店に、横からちょっかいを出してきた。あの店のコックって中国人なのか」
「いいや違う。だが、奴らの理屈じゃあ。この池袋で中国の看板をあげている店は全部自分のところの縄張りなんだろうな。あの店にドラゴンがやって来たのは、今日で三回目だ。店主がみかじめ料を断ったんで、店の中で暴れ出したんだ。」
「さっきのガキが拳二を見て笑ってたな。東龍ってそんなに大きな組織なのか」
「いや、たいしたことはない。俺ぁの聞いた話しじゃ、全部で五~六十人ということらしい」
それなら池袋のビック3、一ノ瀬組の敵ではないはずだ。
「じゃあ、楽勝だな」
拳二は深々とため息を吐いた。
「そうはいかないのさ。敵は何もドラゴンだけじゃないからな」
いまや世界中の金融機関は今回の危機で、でたらめな資本携帯に走っている。拳二の話によると池袋のアンダーグラウンドも事情は同じらしい。
「京極会だ」
おれは拳二の苛立ちに納得した。京極会は関西に本拠を置く日本最大の組織暴力団の東京支部だ。
「だけどなんで東龍と京極会が手を結んだ?」
「簡単さ二百件も中国系の店はあるが、日本人では中国人相手みたいになかなかみかじめ料をとれない。だからドラゴンにみかじめを取らせて、京極会はそこから吸い上げれば良い。その代り、ドラゴンは京極会の力を後ろ盾にして、この街で好き勝手が出来る。正面からあそことドンパチやろうって組織はどこにも居ないからな」
おれもため息をつきそうになった。問題はどんどん複雑に、こちらに不利になっていくばかりなのだ。
おれはなんとか人波をかきわけて最前列までいった。拳二が若い衆を連れて店の方を睨んでいる。ヒビの入った硝子戸が開いて、こし縄と手錠をかけられた男が警官につきそわれて出てきた。全部で三人。肩に赤い龍の刺繍が入ったそろいのスタジャンを着ていた。まだ学生といってもいいくらいの年齢だ。
そのうちのひとりが拳二に気づいて、にやりと笑った。
「野郎……」
拳二が口の中で呟いた。抑えた分だけ怒りの伝わる声。頭に血染めのタオルを巻いた店主が出てきた。ふらふらと救急隊員に向かっていく。
「いったい池袋はどうなっているんだ」
まったく、この街はどうなっているのだろう。目のまえで事件を見ているはずなのに、おれはその他大勢の野次馬と同じで、事態がまったく見えていなかった。こうなったら専門家のお話しを聞くしかないだろう。拳二が言った。
「これ以上ここにいても仕方ない。行くぞ。」
拳二は肩で風を切って、まだ膨らみ続けている野次馬集団から離れた。おれも後に続く。
「やつらがいよいよやりやがった」
今回の拳二はひどく腹を立てている。おっかない。おれはいつもの類人猿と体臭に関するジョークを封印して、拳二と春の夜を歩いた。
ロマンス通りのカフェに入った。つきそいの若衆は店の前で帰している。拳二はエスプレッソをひと口で呑みきると言った。
「悠もドラゴンがらみのトラブルか」
事件の様子はまるで分らなかったが、おれは適当にうなずいておいた。
「やつらをとめられるのなら、うちのオヤジからたっぷりと報酬が出るぞ」
悪くない話しだが研修生の失踪とは関係ない気がした。
「さっきのラーメン屋の騒動はなんだったんだ」
街の騒動は透明人間のような物だ。誰にも実際何が起きているのか見えていない。拳二は舌打ちしていった。
「あの小陽楼という店はな、かれこれ二十年もうちにみかじめを払っていた」
「いくら?」
拳二はいら立ちを隠そうとしなかった。静かなカフェの中でウェイターに叫んだ。
「同じのをもう一杯くれ」
声を下げて続ける。
「さあ、そんなこといちいち覚えていられるか。だが古顔だし、たいして儲かってない店だから、月三万というところじゃないか」
おれも打でにこの街で育ったわけじゃない。それだけで透明人間がおぼろげに見えてきた。
「さっきのスタジャンは東龍のやつらだな。一ノ瀬組がみかじめを取っている店に、横からちょっかいを出してきた。あの店のコックって中国人なのか」
「いいや違う。だが、奴らの理屈じゃあ。この池袋で中国の看板をあげている店は全部自分のところの縄張りなんだろうな。あの店にドラゴンがやって来たのは、今日で三回目だ。店主がみかじめ料を断ったんで、店の中で暴れ出したんだ。」
「さっきのガキが拳二を見て笑ってたな。東龍ってそんなに大きな組織なのか」
「いや、たいしたことはない。俺ぁの聞いた話しじゃ、全部で五~六十人ということらしい」
それなら池袋のビック3、一ノ瀬組の敵ではないはずだ。
「じゃあ、楽勝だな」
拳二は深々とため息を吐いた。
「そうはいかないのさ。敵は何もドラゴンだけじゃないからな」
いまや世界中の金融機関は今回の危機で、でたらめな資本携帯に走っている。拳二の話によると池袋のアンダーグラウンドも事情は同じらしい。
「京極会だ」
おれは拳二の苛立ちに納得した。京極会は関西に本拠を置く日本最大の組織暴力団の東京支部だ。
「だけどなんで東龍と京極会が手を結んだ?」
「簡単さ二百件も中国系の店はあるが、日本人では中国人相手みたいになかなかみかじめ料をとれない。だからドラゴンにみかじめを取らせて、京極会はそこから吸い上げれば良い。その代り、ドラゴンは京極会の力を後ろ盾にして、この街で好き勝手が出来る。正面からあそことドンパチやろうって組織はどこにも居ないからな」
おれもため息をつきそうになった。問題はどんどん複雑に、こちらに不利になっていくばかりなのだ。