ー特別編ードラゴン・オーシャン
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おれたちはぶらぶらと池袋駅前をすぎて、西口に戻った。そのあたりのビルの半分にはなんらかの形で中国語の看板がかかっていた。中華料理やならまだ入りやすいが、中国系のネットカフェやむこうの映画やテレビ番組のDVDをおいているレンタルショップなんかだと、さすがに日本人には敷居が高い。
リンは勝手をしった様子で、窓にべたべたとみたことのない漢字が張られた雑居ビルの地下に降りていく。階段のステップも壁も脂ぎってべたべたしていた。店内は赤い短冊に墨と金のマジックで書かれたメニューが、びっしりと埋め尽くしていた。カウンターに座ると、リンがいった。
「本場の担々麺と水餃子たべますか、悠」
メニューがまるで読めないおれはバカみたいにうなずいた。
「いいよ、リンにまかせる。」
早口で中国語で注文してから、なにかコックと話している。おれはぼんやりとコックの顔を眺めていた。さすがのおれも言葉が通じないのでは、抜群の知性もユーモアセンスも発揮できない。リンの質問した内容が気にくわなかったらしい。最初は気のいい表情だったコックが何か叩きつけるようにいった。
「リン、何を聞いたんだ。脱税の方法でも質問したのか」
リンはまったく慌てていなかった。相手が気分を害しても気にしない。このドライさは日本人とはまったく異なるところだ。
「東龍に毎月お金を払っているのかと聞きました。」
それは確かに不愉快な質問だ。
「で、こたえは?」
「この辺りの店はどこでも無理矢理取られている。月に五万円だそうです。」
ゴツンと音がして、頭上から丼がふってきた。さっさとくってでていけという顔で、痩せこけたコックがこっちを睨んでいた。おれは日中友好のため、大急ぎで坦々麺をすすりこんだ。汁なしの坦々麺はラー油と山椒が効いていてなかなかの味だった。麺は日本のラーメンのようにもちもちではなく、ぼそぼそとこなっぽい。
おれとリンは中華系の店ばかりはいった雑居ビルのまえで、携帯電話の番号とアドレスを交換して別れた。本業の店番に戻らなければならない。なにせトラブルは毎回おもしろいけれど、一円にもならないからな。趣味で金をとるなんて太い神経は、芸能人でないおれはもちあわせていない。
春のやわらかな夜が来た。
自分の店の前に大繁盛している店があるので、静かとはいかないのがつらいところ。もっともおれは生まれてからずっと都市戸籍だから、やかましいのには慣れている。その夜もやけにパトカーのサイレンがうるさかった。警察署対抗のラリーでもやっているのだろうか。
夜九時過ぎ店を終えて池袋に戻って、携帯を開いた。選んだナンバーはゴリラ、一ノ瀬組の本部長代行だ。この街の裏側のパワーバランスには誰よりも詳しいおれのセンパイ。
「よう、おれ悠くんだよ~」
『なんだよ、この忙しい時に』
拳二の声の背後に街のノイズがきこえてきた。目のまえの通りを赤色灯を回転たパトカーが駆け抜けていった。同じサイレンの音が携帯から聞こえてくる。これが本当のステレオ効果。
「どこにいるんだ、拳二」
『池袋演芸場の先にある中華料理屋だよ。』
よくよく中国づいた日だ。
「そんなところで何やってるんだ」
『なんだ、悠、その件を聞きたくて電話してきたんじゃないのか』
おれは背伸びして西一番街中央通りの先に目をやった。たくさんの野次馬が携帯を手に走っていく。
「いいや違うんだ。ちょっと拳二に東龍についてききたくてさ」
『だったら同じネタだろうが。お前ぇも池袋来てるんだろすぐにこっち来い。』
しかたない。おれの営業時間はとっくに終了しているんだがこっちから電話をかけたてまえ無視するわけにもいかない。おれは気乗りしないまま野次馬の流れに混じった。
リンは勝手をしった様子で、窓にべたべたとみたことのない漢字が張られた雑居ビルの地下に降りていく。階段のステップも壁も脂ぎってべたべたしていた。店内は赤い短冊に墨と金のマジックで書かれたメニューが、びっしりと埋め尽くしていた。カウンターに座ると、リンがいった。
「本場の担々麺と水餃子たべますか、悠」
メニューがまるで読めないおれはバカみたいにうなずいた。
「いいよ、リンにまかせる。」
早口で中国語で注文してから、なにかコックと話している。おれはぼんやりとコックの顔を眺めていた。さすがのおれも言葉が通じないのでは、抜群の知性もユーモアセンスも発揮できない。リンの質問した内容が気にくわなかったらしい。最初は気のいい表情だったコックが何か叩きつけるようにいった。
「リン、何を聞いたんだ。脱税の方法でも質問したのか」
リンはまったく慌てていなかった。相手が気分を害しても気にしない。このドライさは日本人とはまったく異なるところだ。
「東龍に毎月お金を払っているのかと聞きました。」
それは確かに不愉快な質問だ。
「で、こたえは?」
「この辺りの店はどこでも無理矢理取られている。月に五万円だそうです。」
ゴツンと音がして、頭上から丼がふってきた。さっさとくってでていけという顔で、痩せこけたコックがこっちを睨んでいた。おれは日中友好のため、大急ぎで坦々麺をすすりこんだ。汁なしの坦々麺はラー油と山椒が効いていてなかなかの味だった。麺は日本のラーメンのようにもちもちではなく、ぼそぼそとこなっぽい。
おれとリンは中華系の店ばかりはいった雑居ビルのまえで、携帯電話の番号とアドレスを交換して別れた。本業の店番に戻らなければならない。なにせトラブルは毎回おもしろいけれど、一円にもならないからな。趣味で金をとるなんて太い神経は、芸能人でないおれはもちあわせていない。
春のやわらかな夜が来た。
自分の店の前に大繁盛している店があるので、静かとはいかないのがつらいところ。もっともおれは生まれてからずっと都市戸籍だから、やかましいのには慣れている。その夜もやけにパトカーのサイレンがうるさかった。警察署対抗のラリーでもやっているのだろうか。
夜九時過ぎ店を終えて池袋に戻って、携帯を開いた。選んだナンバーはゴリラ、一ノ瀬組の本部長代行だ。この街の裏側のパワーバランスには誰よりも詳しいおれのセンパイ。
「よう、おれ悠くんだよ~」
『なんだよ、この忙しい時に』
拳二の声の背後に街のノイズがきこえてきた。目のまえの通りを赤色灯を回転たパトカーが駆け抜けていった。同じサイレンの音が携帯から聞こえてくる。これが本当のステレオ効果。
「どこにいるんだ、拳二」
『池袋演芸場の先にある中華料理屋だよ。』
よくよく中国づいた日だ。
「そんなところで何やってるんだ」
『なんだ、悠、その件を聞きたくて電話してきたんじゃないのか』
おれは背伸びして西一番街中央通りの先に目をやった。たくさんの野次馬が携帯を手に走っていく。
「いいや違うんだ。ちょっと拳二に東龍についてききたくてさ」
『だったら同じネタだろうが。お前ぇも池袋来てるんだろすぐにこっち来い。』
しかたない。おれの営業時間はとっくに終了しているんだがこっちから電話をかけたてまえ無視するわけにもいかない。おれは気乗りしないまま野次馬の流れに混じった。