ー特別編ードラゴン・オーシャン
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この春池袋の話題といえば、いうまでもないだろう。
ほとんど全国区のニュースになったからな。夕方の報道番組で見たヤツも多いと思う。西口北口にわらわらといつもまにか発生した二百件を超える中国系ショップが連合して、マニフェストをぶち上げたのだ。
【池袋チャイナタウン宣言】
JR池袋駅から半径五百メートルくらいのところには、中華料理屋、中華雑貨屋、中華洋品店、中華DVD屋、中華ネットカフェ…………ありとあらゆる中国系ショップが密集している。そのネットワーク・中池共栄会代表が、東京初の新中華街構想を発表したのだ。
まあ、うちの茶屋にはあまり関係はなかった。客は日本人ばかりで、中国系はほとんどやって来なかったからな。なぜか池袋では住み分けができていて、日本人の店には日本人が、中国人の店には中国人が集まる。
ちなみに、池袋のフルーツパーラーのオーナーには、チャイナタウン構想は不評だった。リッカ母は目を吊り上げて言う。
「冗談じゃないよ。あいつら町会費も払わないし、商店会にも入らないし、ゴミだしはいい加減だし、やたらと騒がしいし。わたしはチャイナタウンなんて絶対反対だね。」
リッカの母は平均的な日本の労働者階級なので、この意見が西口商店会の総意だと思って間違いない。おれとしてはどっちでもいいんだけど。ただの店番は春になってよかったなと思うだけだ。だいたいおれは寒いのが苦手な都会っ子だし、春は茶屋の店先が一気に戦力アップする。
さくらもちを筆頭に、ビワを使ったゼリー、春は和菓子の季節なのだ。うちみたいに寂れた店だって、いっきに店先が華やかになるのだ。おれは自分の美意識に従って、春らしい形の細工菓子を作っていく。色と素材感がうまくハーモニーを作って並んだときなど、売ってしまうのが惜しくなるほど。やはりおれのなかにはアーティストの血が流れているのだろう。
だが、のどかな春の芸術家のところにも、トラブルは必ずやってくる。
今回のネタがまたも中国がらみだったのは、きっとすべてはつながっているということなのだろう。中国と日本もひとつの水でつながっている。もっともそのときには、チャイナタウンの奥にある暗闇と、悲惨な研修生など想像もしていなかったけど。
最初にその男を見たとき、おれはすぐに目をそらしてしまった。
西一番街を春風に吹かれながらやってきたのは、細身の黒いスーツに一本線のような細いブラックタイをしめた男。といっても893関係の粗暴な感じでも、ホスト関係の無駄に華やかな感じでもない。なにか痛々しい雰囲気だった。うちの店の客とは筋が違う。
やつはまっすぐにおれに向かってきて、顔を見て言う。
「小鳥遊悠さんですね、お願いしたいことが有ります。ちょっとだけお時間よろしいでしょうか」
きれいな標準語だった。近くで見るとよくわかった。こいつはタカシに負けないほどイケメンで、それを隠すように太い黒ぶちのメガネをかけている。手には黒革のブリーフケース。
ほとんど全国区のニュースになったからな。夕方の報道番組で見たヤツも多いと思う。西口北口にわらわらといつもまにか発生した二百件を超える中国系ショップが連合して、マニフェストをぶち上げたのだ。
【池袋チャイナタウン宣言】
JR池袋駅から半径五百メートルくらいのところには、中華料理屋、中華雑貨屋、中華洋品店、中華DVD屋、中華ネットカフェ…………ありとあらゆる中国系ショップが密集している。そのネットワーク・中池共栄会代表が、東京初の新中華街構想を発表したのだ。
まあ、うちの茶屋にはあまり関係はなかった。客は日本人ばかりで、中国系はほとんどやって来なかったからな。なぜか池袋では住み分けができていて、日本人の店には日本人が、中国人の店には中国人が集まる。
ちなみに、池袋のフルーツパーラーのオーナーには、チャイナタウン構想は不評だった。リッカ母は目を吊り上げて言う。
「冗談じゃないよ。あいつら町会費も払わないし、商店会にも入らないし、ゴミだしはいい加減だし、やたらと騒がしいし。わたしはチャイナタウンなんて絶対反対だね。」
リッカの母は平均的な日本の労働者階級なので、この意見が西口商店会の総意だと思って間違いない。おれとしてはどっちでもいいんだけど。ただの店番は春になってよかったなと思うだけだ。だいたいおれは寒いのが苦手な都会っ子だし、春は茶屋の店先が一気に戦力アップする。
さくらもちを筆頭に、ビワを使ったゼリー、春は和菓子の季節なのだ。うちみたいに寂れた店だって、いっきに店先が華やかになるのだ。おれは自分の美意識に従って、春らしい形の細工菓子を作っていく。色と素材感がうまくハーモニーを作って並んだときなど、売ってしまうのが惜しくなるほど。やはりおれのなかにはアーティストの血が流れているのだろう。
だが、のどかな春の芸術家のところにも、トラブルは必ずやってくる。
今回のネタがまたも中国がらみだったのは、きっとすべてはつながっているということなのだろう。中国と日本もひとつの水でつながっている。もっともそのときには、チャイナタウンの奥にある暗闇と、悲惨な研修生など想像もしていなかったけど。
最初にその男を見たとき、おれはすぐに目をそらしてしまった。
西一番街を春風に吹かれながらやってきたのは、細身の黒いスーツに一本線のような細いブラックタイをしめた男。といっても893関係の粗暴な感じでも、ホスト関係の無駄に華やかな感じでもない。なにか痛々しい雰囲気だった。うちの店の客とは筋が違う。
やつはまっすぐにおれに向かってきて、顔を見て言う。
「小鳥遊悠さんですね、お願いしたいことが有ります。ちょっとだけお時間よろしいでしょうか」
きれいな標準語だった。近くで見るとよくわかった。こいつはタカシに負けないほどイケメンで、それを隠すように太い黒ぶちのメガネをかけている。手には黒革のブリーフケース。