ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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「クロスバイク、白。十代の高校生風。緑のブレザーと。時間は八時二十一分」
もう五日目だった。こんなことを続けていて、ほんとうに轢き逃げ犯に近づけるのだろうか。店番をサボっているものだから、吉音の機嫌もだんだんと悪くなっている。ため息をつきそうになったとき、ナナがボールペンをおいて、ダッフルコートから口紅を抜いた。
全身ぽっちゃり系らしいふくよかな唇に、パールピンクの色をさした。気づいたときにおれはいっていた。
「……そいつだ。」
ナナもタカシもついにいかれたのかという顔で見た。ナナがいう。
「そいつだって、これただのグロスだけど。リップクリーム代わりに塗ってるだけだよ」
「たから、轢き逃げ犯も塗ってるかもしれない」
ようやくタカシが気づいたようだった。
「フレームのペイントか?」
「そうだ。自転車のペイントくらい、スプレーで簡単にできる。フレームからパーツをはずすのも慣れればすぐだしな。明日から、ピストバイクに的をしぼろう。色はどんなのでもいいから、乗り手についてもっとしっかり観察してくれ。おれ、あとで全チームに連絡しておく」
ナナが驚いたようにおれを見ていた。タカシは部下でもじまんするようにいう。
「こういう鼻がきくのが、悠のいいとこだ」
「きゃー、すごいね、悠さん!」
手帳を放り出して、おれに抱きついてきた。あたたかくて、やわらかな身体でオマケにいい香り。胸がおれの胸に押し付けられる。タカシは氷の王さまの表情を崩さずに、ほんの一ミリほど不機嫌になった。
いや、ほんとにいい気分。
その日の午後は、五日分の記録をすべて見直すことになった。
とくにピストバイクだ。白はなくとも、赤・青・緑・黄緑・オレンジ・銀、あとは白と青・白と赤のコンビ。計八台のピストバイクが毎朝雑司が谷三丁目を走っていた。そのうち六台は、鬼子母神の参道をとおっている。
これなら、あと一週間でも、なんとかなりそうだ。おれはその夜、いい気分でシューマンの一番を聞きながら眠りについた。
「そうか、ピストバイク専門で検問をかけるのか」
翌朝七時、見慣れたケヤキ参道で、すぐにタカシはおれのいうことを理解した。ナナが質問した。
「でも、どうやって、とめるの?」
おれはにやりと笑っていった。
「このまえ、ここでおれを呼び止めただろ。あれと同じでいい。走り抜けていくだけじゃ、再塗装をしたかどうかはわからないけど、とまっているのをちゃんと見ればフレームの色を変えたかどうかはわかるからな」
タカシがその気になっていった。
「俺はどうする?」
「お前はなにもしなくていい。突然、左のジャブストレートとか打つなよ。危険だからな。相手は轢き逃げ犯とは限らない。ナナが話をしているあいだに、おれがピストバイクを観察する。タカシは合図があるまで動かないでくれ」
キングはつまらなそうな顔をして、黙っていた。今回はいいようにタカシをいたぶれるのだ。ほんとにたのしい依頼。
もう五日目だった。こんなことを続けていて、ほんとうに轢き逃げ犯に近づけるのだろうか。店番をサボっているものだから、吉音の機嫌もだんだんと悪くなっている。ため息をつきそうになったとき、ナナがボールペンをおいて、ダッフルコートから口紅を抜いた。
全身ぽっちゃり系らしいふくよかな唇に、パールピンクの色をさした。気づいたときにおれはいっていた。
「……そいつだ。」
ナナもタカシもついにいかれたのかという顔で見た。ナナがいう。
「そいつだって、これただのグロスだけど。リップクリーム代わりに塗ってるだけだよ」
「たから、轢き逃げ犯も塗ってるかもしれない」
ようやくタカシが気づいたようだった。
「フレームのペイントか?」
「そうだ。自転車のペイントくらい、スプレーで簡単にできる。フレームからパーツをはずすのも慣れればすぐだしな。明日から、ピストバイクに的をしぼろう。色はどんなのでもいいから、乗り手についてもっとしっかり観察してくれ。おれ、あとで全チームに連絡しておく」
ナナが驚いたようにおれを見ていた。タカシは部下でもじまんするようにいう。
「こういう鼻がきくのが、悠のいいとこだ」
「きゃー、すごいね、悠さん!」
手帳を放り出して、おれに抱きついてきた。あたたかくて、やわらかな身体でオマケにいい香り。胸がおれの胸に押し付けられる。タカシは氷の王さまの表情を崩さずに、ほんの一ミリほど不機嫌になった。
いや、ほんとにいい気分。
その日の午後は、五日分の記録をすべて見直すことになった。
とくにピストバイクだ。白はなくとも、赤・青・緑・黄緑・オレンジ・銀、あとは白と青・白と赤のコンビ。計八台のピストバイクが毎朝雑司が谷三丁目を走っていた。そのうち六台は、鬼子母神の参道をとおっている。
これなら、あと一週間でも、なんとかなりそうだ。おれはその夜、いい気分でシューマンの一番を聞きながら眠りについた。
「そうか、ピストバイク専門で検問をかけるのか」
翌朝七時、見慣れたケヤキ参道で、すぐにタカシはおれのいうことを理解した。ナナが質問した。
「でも、どうやって、とめるの?」
おれはにやりと笑っていった。
「このまえ、ここでおれを呼び止めただろ。あれと同じでいい。走り抜けていくだけじゃ、再塗装をしたかどうかはわからないけど、とまっているのをちゃんと見ればフレームの色を変えたかどうかはわかるからな」
タカシがその気になっていった。
「俺はどうする?」
「お前はなにもしなくていい。突然、左のジャブストレートとか打つなよ。危険だからな。相手は轢き逃げ犯とは限らない。ナナが話をしているあいだに、おれがピストバイクを観察する。タカシは合図があるまで動かないでくれ」
キングはつまらなそうな顔をして、黙っていた。今回はいいようにタカシをいたぶれるのだ。ほんとにたのしい依頼。