ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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「で、やつはどうした?」
なにか嫌なことでも思い出したようだ。マサヒロが震えている。
「ロボットみたいにぎくしゃくした動きで立ち上がった。よくモノマネであるでしょう。間節が硬くなってるロボットダンス、あんな感じで立つと、あいつは自転車だけ引き起こした。サングラス越しにこっちをじーっと見て、それからなにもいわずに、走っていってしまった。しゃかしゃかの音が遠くなっていく。あいつは急いでいるふうでもなかった。なんだか、すごくくやしいよ」
マサヒロはじょうぶなほうの右の太ももを、平手でぱんとたたいた。
「だって、あいつ、空き缶でも踏んで転んだくらいにしか、思ってなかったみたいなんだ。ちょっと自転車でぶつかるくらいなんでもない。悪いのはそっちのほうだっていう感じだった。チキショー……」
ひざしたのギプスで固められた左足に目を落とした。
「……サッカーができなくなった。サッカーがぼくの命だったのに……チキショー」
もしかしたら、自分が轢いた相手が大怪我をしたことさえ、そいつは気がついていないかもしれなかった。だとしたら、その無神経がこちらのチャンスになるだろう。おれはそう思った。ちょっとした軽い接触事故。それなら、たいして警戒せずに同じルートをとおるかもしれない。人海戦術なら、S・ウルフはお手のものだ。
おれはベンチのうえで豊島区の地図を広げた。雑司が谷と南池袋を蛍光ピンクのラインマーカーでぐるりと囲んだ。
「そいつはあの参道を池袋の駅の方向に向かって走っていったんだろ。どこかこのあたりの近くに住んでいて、きっとその朝、池袋に用があったはずだ。朝の八時といえば、ちょうど通勤時間とも重なる。九時に業務がスタートするとしたら、池袋駅に自転車をおいてJRかメトロをつかって、どこか都心のオフィスにむかったというのが、一番ありそうな話だ」
もちろん、全部はずれの場合もあるだろう。やつが早朝サイクリングマニアで、月に一度東京のあちこちを走り回っている可能性もある。だが、おれは単純なので、無駄な可能性は考えない。オッカムの剃刀だ。余計な心配や意味のない可能性に心を悩ますことがなくなれば、生きることはずいぶん楽になる。
おれは地図を見ながら、場所を狭めていった。鬼子母神の参道は、雑司が谷の三丁目にある。その参道の入り口と出口、さらに周辺の交差点で池袋・明治通りにむかう場所を、ひとつずつラインマーカーで潰していく。雑司が谷三丁目の三角形の地域をほぼカバーするのに、約十二ヵ所ですんだ。
「おれも明日からいっしょに張り込むよ」
ナナがじっと地図を見つめていった。
「でも、ほかにも十ヵ所以上もある」
おれは携帯電話(スマートフォンの方)を抜きながらいった。
「だいじょうぶ。このまえおれといっしょだった友達が、なんとかしてくれる。覚えておけよ、あいつの名前、虎狗琥崇っていうんだ。池袋じゃ、困ったときに、その名をだすと魔法みたいによくきくんだぞ。」
なにか嫌なことでも思い出したようだ。マサヒロが震えている。
「ロボットみたいにぎくしゃくした動きで立ち上がった。よくモノマネであるでしょう。間節が硬くなってるロボットダンス、あんな感じで立つと、あいつは自転車だけ引き起こした。サングラス越しにこっちをじーっと見て、それからなにもいわずに、走っていってしまった。しゃかしゃかの音が遠くなっていく。あいつは急いでいるふうでもなかった。なんだか、すごくくやしいよ」
マサヒロはじょうぶなほうの右の太ももを、平手でぱんとたたいた。
「だって、あいつ、空き缶でも踏んで転んだくらいにしか、思ってなかったみたいなんだ。ちょっと自転車でぶつかるくらいなんでもない。悪いのはそっちのほうだっていう感じだった。チキショー……」
ひざしたのギプスで固められた左足に目を落とした。
「……サッカーができなくなった。サッカーがぼくの命だったのに……チキショー」
もしかしたら、自分が轢いた相手が大怪我をしたことさえ、そいつは気がついていないかもしれなかった。だとしたら、その無神経がこちらのチャンスになるだろう。おれはそう思った。ちょっとした軽い接触事故。それなら、たいして警戒せずに同じルートをとおるかもしれない。人海戦術なら、S・ウルフはお手のものだ。
おれはベンチのうえで豊島区の地図を広げた。雑司が谷と南池袋を蛍光ピンクのラインマーカーでぐるりと囲んだ。
「そいつはあの参道を池袋の駅の方向に向かって走っていったんだろ。どこかこのあたりの近くに住んでいて、きっとその朝、池袋に用があったはずだ。朝の八時といえば、ちょうど通勤時間とも重なる。九時に業務がスタートするとしたら、池袋駅に自転車をおいてJRかメトロをつかって、どこか都心のオフィスにむかったというのが、一番ありそうな話だ」
もちろん、全部はずれの場合もあるだろう。やつが早朝サイクリングマニアで、月に一度東京のあちこちを走り回っている可能性もある。だが、おれは単純なので、無駄な可能性は考えない。オッカムの剃刀だ。余計な心配や意味のない可能性に心を悩ますことがなくなれば、生きることはずいぶん楽になる。
おれは地図を見ながら、場所を狭めていった。鬼子母神の参道は、雑司が谷の三丁目にある。その参道の入り口と出口、さらに周辺の交差点で池袋・明治通りにむかう場所を、ひとつずつラインマーカーで潰していく。雑司が谷三丁目の三角形の地域をほぼカバーするのに、約十二ヵ所ですんだ。
「おれも明日からいっしょに張り込むよ」
ナナがじっと地図を見つめていった。
「でも、ほかにも十ヵ所以上もある」
おれは携帯電話(スマートフォンの方)を抜きながらいった。
「だいじょうぶ。このまえおれといっしょだった友達が、なんとかしてくれる。覚えておけよ、あいつの名前、虎狗琥崇っていうんだ。池袋じゃ、困ったときに、その名をだすと魔法みたいによくきくんだぞ。」