ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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もしかりに轢き逃げ犯がたまたま遠距離のサイクリングにでかけた途中で、世田谷だとか埼玉にでも住んでいたら、おれのほうは完全にお手上げだった。探すあてがないのだ。事故を起こした場所になど、二度とこないはずだ。
だが、通勤通学なら話しは別だ。だいたいは自分の気に入った最短ルートを会社か学校まで決めて走っているだろう。交通量や景色、冬なら日のあたりかた。自転車は自動車よりも断然多くのルートの選択肢がある。マサヒロがいった。
「あの日は、いつもより寝坊して遅刻していったから、それで白い自転車を見ていないのかもしれない」
ナナがくやしそうにいう。
「わたし、一週間以上あの参道で朝からずっと見張りをしてるけど、白い自転車なんてぜんぜん通らないよ」
「事故が起きたのが、二週間まえ。用心して、轢き逃げ犯はルートを変えているのかもしれない。なにか記録はとっていないのか?」
「記録って、なんの?」
おれはあきれていった。この女は張り込みの基本がぜんぜんできていない。
「だからさ、犯人は自転車を替えてるかもしれないし、服装だって変装してるかもしれない。サングラスやイヤフォンも同じだ。でも、男性で自転車にのってるってところは、変えようがないだろ。だったら、朝、あの参道をとおる男をすべて記録しておけよ。明日からちゃんとやるんだぞ。おれもつきあうから」
マサヒロが不思議そうにいった。
「それでほんとうに犯人がみつかるの?」
「そんなこと、わかんないよ。でも、S・ウルフのキングがやれといってるんだから、人手はいくらでもつかえるさ。とりあえず二週間くらい、がんばってみないか」
それ以上張り込みしても、たぶんムダだからとはいわなかった。だいたい張り込みって、ものすごく退屈で面倒なのだ。店番という罰ゲームから、また別な罰ゲームに飛び込むようなものだ。
「ところでさ、なんで自転車は覚えてるのに、のってた男のほうは覚えてないの?」
最初に話をきいたときから、そいつはおれの素朴な疑問。
マサヒロはパスの受け手が見つからないときのように困った顔をした。
「よくわからないけど、なんだかロボットみたいだった。がつんと足を削られて倒れたときはうしろからスパイクされたのかと思った。上を見たら、自転車のフレームのうえに男の人が転がっていた」
マサヒロ、自転車、犯人とサンドイッチのように重なって倒れたのだろう。
「声は?その男はなにかいってなかったか。すみませんとか、ごめんねとか」
左サイドバックは首を横に振る。
「きこえたのは、携帯プレーヤーのイヤフォンのしゃかしゃかいうシンバルの音だけ。ひと言も口をきかなかった」
不気味な男。寒い早春の朝、そんなやつにまともに衝突されたんじゃたまらない。
だが、通勤通学なら話しは別だ。だいたいは自分の気に入った最短ルートを会社か学校まで決めて走っているだろう。交通量や景色、冬なら日のあたりかた。自転車は自動車よりも断然多くのルートの選択肢がある。マサヒロがいった。
「あの日は、いつもより寝坊して遅刻していったから、それで白い自転車を見ていないのかもしれない」
ナナがくやしそうにいう。
「わたし、一週間以上あの参道で朝からずっと見張りをしてるけど、白い自転車なんてぜんぜん通らないよ」
「事故が起きたのが、二週間まえ。用心して、轢き逃げ犯はルートを変えているのかもしれない。なにか記録はとっていないのか?」
「記録って、なんの?」
おれはあきれていった。この女は張り込みの基本がぜんぜんできていない。
「だからさ、犯人は自転車を替えてるかもしれないし、服装だって変装してるかもしれない。サングラスやイヤフォンも同じだ。でも、男性で自転車にのってるってところは、変えようがないだろ。だったら、朝、あの参道をとおる男をすべて記録しておけよ。明日からちゃんとやるんだぞ。おれもつきあうから」
マサヒロが不思議そうにいった。
「それでほんとうに犯人がみつかるの?」
「そんなこと、わかんないよ。でも、S・ウルフのキングがやれといってるんだから、人手はいくらでもつかえるさ。とりあえず二週間くらい、がんばってみないか」
それ以上張り込みしても、たぶんムダだからとはいわなかった。だいたい張り込みって、ものすごく退屈で面倒なのだ。店番という罰ゲームから、また別な罰ゲームに飛び込むようなものだ。
「ところでさ、なんで自転車は覚えてるのに、のってた男のほうは覚えてないの?」
最初に話をきいたときから、そいつはおれの素朴な疑問。
マサヒロはパスの受け手が見つからないときのように困った顔をした。
「よくわからないけど、なんだかロボットみたいだった。がつんと足を削られて倒れたときはうしろからスパイクされたのかと思った。上を見たら、自転車のフレームのうえに男の人が転がっていた」
マサヒロ、自転車、犯人とサンドイッチのように重なって倒れたのだろう。
「声は?その男はなにかいってなかったか。すみませんとか、ごめんねとか」
左サイドバックは首を横に振る。
「きこえたのは、携帯プレーヤーのイヤフォンのしゃかしゃかいうシンバルの音だけ。ひと言も口をきかなかった」
不気味な男。寒い早春の朝、そんなやつにまともに衝突されたんじゃたまらない。