ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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池袋を歩いているガキの半分はそんな格好をしている。あまり参考にならない。タカシはまるで感心なさそうにいった。
「警察は?」
「届出はしたけど、簡単に調書をとっておしまい。自転車も一応クルマではあるけれど、自動車の轢き逃げと違って、きちんとした捜査はしてくれないんだ。誰も死んでないし、弟が怪我しただけだから。現場にきて何枚か写真撮ってたけど、遺留品はなにも見つからなかった。気の毒だけど、がんばって足の怪我を治していきましょうって、リハビリのお医者さんみたいなこといわれた」
同じ轢き逃げでも、自転車では警察は本気にならないだろう。自転車の場合、自転車メーカーのように塗装や壊れて剥落したパーツから、車種を特定するのも困難だ。第一手がかりになるような遺留品もゼロ。絶望的な話だ。
タカシがおれの顔を見た。なぜか理由もなくうなずきかけてくる。
「話しはわかった。警察は助けにならないから、おまえは自分で白い自転車にのった男を探している。轢き逃げ犯だ」
ナナは不思議そうな顔で、似たようなウエアを着たキングに目をやった。うなずいている。
「だったら、ここにいる悠をつかえ。こいつはヒマつぶしに、他人のトラブルに頭をつっこんであれこれと動きまわるのが趣味だ」
「でも、わたしはお金もっていないです」
タカシはその日二度目のとろけるような笑いを見せた。S・ウルフのガールズならこの顔を見るために、五千円のチケットだって買うだろう。キング・スマイル。
「だから、金はいらないといってる」
現金なことに急に女の顔色が明るくなった。
「ほんとうですか。わたし、一週間、ずっとひとりで白い自転車を捜してて、だんだん不安になってきてたんです。犯人をつかまえても、弟の足がよくなるわけじゃないし、もうやめちゃおうかなって」
日のあたるホームベンチで、ナナが頭をさげた。
「悠さん、タカシさん、よろしくお願いします。弟の足を傷つけたやつを見つけてください。わたし、ずっとくやしくて……」
うつむいたナナの目から、ぽつんと涙がコンクリートのホームに落ちた。黒い染みになって吸い込まれていく。タカシがいった。
「見つけて、どうする?」
ぱっと顔をあげて、真っ赤な目でナナはいう。
「わからない。同じように足を砕くかもしれないし、警察につきだすかもしれない。だって、そいつはその場からなにもせずに立ち去ったんですよ。弟が怪我をしているかどうか確かめもせずに」
ナナはウエストポーチから、携帯電話をとりだした。データボックスを開き、写真を選んだ。
「これがうちの弟です。」
ちいさな液晶画面のなかにユニフォームを着て、腕を組んで誇らしげに立つ少年が映っていた。左足は軽くサッカーボールにのせている。顔はどこか虚弱体質のいじめられっ子って雰囲気だが、きっとサッカーの才能があるのだろう。自信満々て感じ。タカシがおれの肩をたたいていった。
「警察は?」
「届出はしたけど、簡単に調書をとっておしまい。自転車も一応クルマではあるけれど、自動車の轢き逃げと違って、きちんとした捜査はしてくれないんだ。誰も死んでないし、弟が怪我しただけだから。現場にきて何枚か写真撮ってたけど、遺留品はなにも見つからなかった。気の毒だけど、がんばって足の怪我を治していきましょうって、リハビリのお医者さんみたいなこといわれた」
同じ轢き逃げでも、自転車では警察は本気にならないだろう。自転車の場合、自転車メーカーのように塗装や壊れて剥落したパーツから、車種を特定するのも困難だ。第一手がかりになるような遺留品もゼロ。絶望的な話だ。
タカシがおれの顔を見た。なぜか理由もなくうなずきかけてくる。
「話しはわかった。警察は助けにならないから、おまえは自分で白い自転車にのった男を探している。轢き逃げ犯だ」
ナナは不思議そうな顔で、似たようなウエアを着たキングに目をやった。うなずいている。
「だったら、ここにいる悠をつかえ。こいつはヒマつぶしに、他人のトラブルに頭をつっこんであれこれと動きまわるのが趣味だ」
「でも、わたしはお金もっていないです」
タカシはその日二度目のとろけるような笑いを見せた。S・ウルフのガールズならこの顔を見るために、五千円のチケットだって買うだろう。キング・スマイル。
「だから、金はいらないといってる」
現金なことに急に女の顔色が明るくなった。
「ほんとうですか。わたし、一週間、ずっとひとりで白い自転車を捜してて、だんだん不安になってきてたんです。犯人をつかまえても、弟の足がよくなるわけじゃないし、もうやめちゃおうかなって」
日のあたるホームベンチで、ナナが頭をさげた。
「悠さん、タカシさん、よろしくお願いします。弟の足を傷つけたやつを見つけてください。わたし、ずっとくやしくて……」
うつむいたナナの目から、ぽつんと涙がコンクリートのホームに落ちた。黒い染みになって吸い込まれていく。タカシがいった。
「見つけて、どうする?」
ぱっと顔をあげて、真っ赤な目でナナはいう。
「わからない。同じように足を砕くかもしれないし、警察につきだすかもしれない。だって、そいつはその場からなにもせずに立ち去ったんですよ。弟が怪我をしているかどうか確かめもせずに」
ナナはウエストポーチから、携帯電話をとりだした。データボックスを開き、写真を選んだ。
「これがうちの弟です。」
ちいさな液晶画面のなかにユニフォームを着て、腕を組んで誇らしげに立つ少年が映っていた。左足は軽くサッカーボールにのせている。顔はどこか虚弱体質のいじめられっ子って雰囲気だが、きっとサッカーの才能があるのだろう。自信満々て感じ。タカシがおれの肩をたたいていった。