ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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「おまえにはいつも部下といっしょにいる苦しさはわからないだろう。」
タカシがめずらしく向かい風に吠えていた。おれも負けずにいった。
「ひとりになりたければ、ひとりになればいい」
「そうもいかない。誰もが俺を頼りにしてる」
なんであれ、トップは孤独なのだろう。おれはたくさんの人間にかこまれ続ける孤独を思った。政権交代後の首相もきっとひとりになりたいことだろう。肉のハナマサに、はいったことのないトルコ料理のレストラン。四車線の明治通りをバスよりも速く通りすぎる。
「左にはいるぞ」
タカシがそういって、鬼子母神につうじる狭い道に曲がった。
雑司が谷、目白の周辺はこの辺りにしては、めずらしい中の上の住宅街。なんでも第二次世界大戦のとき空襲をまぬがれたのだという。おかげで区画整理はまったくすすまず、自動車一台がやっとの一方通行路が葉脈のように入り組んでいる。おれたちはスピードを落とし、人通りのほとんどない路地を自転車で駆け抜けた。
鬼子母神は立派な木々に囲まれた都心の寺院だ。樹齢六百年以上というバケモノみたいなイチョウの大樹がそびえて、足元に鬼子母神の本堂と稲荷堂がある。こっちの稲荷堂には真っ赤な鳥居が何十も連なって、ガキの頃よく一週のかけっこをしたものだ。境内の駄菓子屋でハトと自分のためにポップコーンを買ってね。
大イチョウを過ぎると石畳のケヤキ並木が始まる。このあたりで一番の散歩道で、両側に並ぶケヤキは今度は樹齢四百年だとか。江戸時代にはさぞ鬼子母神への参道として栄えたことだろう。今じゃ、ただの民家が続いているだけだが。
「ちょっと、クールダウンしよう」
タカシがロードレーサをおりて、自転車を押し始めた。おれもその横に並ぶ。
「あそこにあるキノコしってるか」
ケヤキの大木の高さ六、七メートルのところにはサルノコシカケみたいなキノコが生えている。おれの子供のころからあるが、誰も手を出さなかった。
「ああ、しってる。あいつはくえるのかな。食えたとしてもおれは嫌いだから断るけど」
タカシが夏風に負けないくらいさわやかに笑った。キングにしては珍しいくらい人懐っこい笑顔。
「そうだな、やめておけ。ここは参道だからな、バチが当たるかもしれない。」
クールな王様の言葉とは思えなかった。きっとこの熱気のせいで、いかれてしまったのだろう。なにせ夏にはおかしなやつがわらわらと、間抜けな細菌みたいに発生するからな。そのとき、やけに鋭い声が背中に飛んだ。
「ちょっと、すみません」
若い女の切羽詰まった声。おれたちが振り向くと、タカシと同じようにぴたぴたのサイクルウエアの女が自転車を止めてたっていた。
タカシがめずらしく向かい風に吠えていた。おれも負けずにいった。
「ひとりになりたければ、ひとりになればいい」
「そうもいかない。誰もが俺を頼りにしてる」
なんであれ、トップは孤独なのだろう。おれはたくさんの人間にかこまれ続ける孤独を思った。政権交代後の首相もきっとひとりになりたいことだろう。肉のハナマサに、はいったことのないトルコ料理のレストラン。四車線の明治通りをバスよりも速く通りすぎる。
「左にはいるぞ」
タカシがそういって、鬼子母神につうじる狭い道に曲がった。
雑司が谷、目白の周辺はこの辺りにしては、めずらしい中の上の住宅街。なんでも第二次世界大戦のとき空襲をまぬがれたのだという。おかげで区画整理はまったくすすまず、自動車一台がやっとの一方通行路が葉脈のように入り組んでいる。おれたちはスピードを落とし、人通りのほとんどない路地を自転車で駆け抜けた。
鬼子母神は立派な木々に囲まれた都心の寺院だ。樹齢六百年以上というバケモノみたいなイチョウの大樹がそびえて、足元に鬼子母神の本堂と稲荷堂がある。こっちの稲荷堂には真っ赤な鳥居が何十も連なって、ガキの頃よく一週のかけっこをしたものだ。境内の駄菓子屋でハトと自分のためにポップコーンを買ってね。
大イチョウを過ぎると石畳のケヤキ並木が始まる。このあたりで一番の散歩道で、両側に並ぶケヤキは今度は樹齢四百年だとか。江戸時代にはさぞ鬼子母神への参道として栄えたことだろう。今じゃ、ただの民家が続いているだけだが。
「ちょっと、クールダウンしよう」
タカシがロードレーサをおりて、自転車を押し始めた。おれもその横に並ぶ。
「あそこにあるキノコしってるか」
ケヤキの大木の高さ六、七メートルのところにはサルノコシカケみたいなキノコが生えている。おれの子供のころからあるが、誰も手を出さなかった。
「ああ、しってる。あいつはくえるのかな。食えたとしてもおれは嫌いだから断るけど」
タカシが夏風に負けないくらいさわやかに笑った。キングにしては珍しいくらい人懐っこい笑顔。
「そうだな、やめておけ。ここは参道だからな、バチが当たるかもしれない。」
クールな王様の言葉とは思えなかった。きっとこの熱気のせいで、いかれてしまったのだろう。なにせ夏にはおかしなやつがわらわらと、間抜けな細菌みたいに発生するからな。そのとき、やけに鋭い声が背中に飛んだ。
「ちょっと、すみません」
若い女の切羽詰まった声。おれたちが振り向くと、タカシと同じようにぴたぴたのサイクルウエアの女が自転車を止めてたっていた。