ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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「今、一番流行の自転車を注文したら、そいつがきた」
自転車屋のガキもやはりS・ウルフの仲間のようだった。おれの体格を見ていった。
「いやあ、なかなかいかしてるでしょ、このバイク。値段はキングのやつの五分の一だけど、のり味は抜群ですから。カミソリみたいに、切れ切れですよ。悠さん、ちょっとまたがってみてくれませんか」
おれはいつもの軍パンと薄手の三丸一和柄シャツにだった。きゃしゃな自転車にのると、なんだか足元がふらふらした。
「おりてもらっていいですよ」
やつはウエストポーチから、六角レンチをとりだして、サドルの高さとブレーキレバーの遊びを調整した。
「はい、これでいいです。もうどこにでものっていけますよ」
所要時間二分。ものすごく簡単。
「こんなんでいいの?」
やつはおれを見て、にやっと笑った。
「ういっす。フレームのサイズさえちゃんと選んでおけば、まずだいじょうぶっす。緻密に計算されてますからね、極端に手足の長い人とか短い人でなければ、これでちゃんとのれますよ。ちなみに悠さんの場合はLサイズの555ミリのフレームをつぎから選んでください。」
おれにつぎの自転車などあるのだろうか。ツール・ド・フランスの選手のような格好をしたタカシがロードレーサーのうえからいった。
「なにをいつまでぐずぐずしてる。おれはミーティングまで七十五分しかないんだぞ」
官僚的S・ウルフが口を開く。まあ、やつの場合、首筋の見えるところになぜかバーコードの刺青がはいっているので、ほんものの官僚と間違われることはないだろう。
「いいなあ、悠さんは。キングといっしょにサイクリングできるチケットなら、いくらだしても買うやつがたくさんいますよ」
気持ちの悪い台詞だった。おれはキングの腰ぎんちゃくを無視して、ピストバイクに乗った。ペダルを踏む足に力をいれる。なんというか、あまりに軽くて、身体の重心がうまくとれなかった。自転車は車の免許をとるまえまでしかのってないので、いつぶりになるだろうか……。
「いくぞ」
タカシがそういって、西口公園の石畳を走り出す。おれは夏のあたたかな午後、水色のロードレーサーを追った。
昼でも暗いびっくりガードのオレンジの光を駆け抜けて、明治通りにでた。あとはまっすぐ目白方面にむかっていく。並走するタカシがいった。
「風ってきもちいいな」
おれには似合わないが、やつにはぴったりの台詞。南池袋から雑司が谷におりていく道は、ゆるやかに左に曲がる長いくだり坂。おれたちが思い切りペダルを踏むと、時速は軽々五十キロを超える。まったく夏の風は気持ちがいい。安月給も、女がいないことも、世界的な金融危機も笑い飛ばしたくなるくらい。
自転車屋のガキもやはりS・ウルフの仲間のようだった。おれの体格を見ていった。
「いやあ、なかなかいかしてるでしょ、このバイク。値段はキングのやつの五分の一だけど、のり味は抜群ですから。カミソリみたいに、切れ切れですよ。悠さん、ちょっとまたがってみてくれませんか」
おれはいつもの軍パンと薄手の三丸一和柄シャツにだった。きゃしゃな自転車にのると、なんだか足元がふらふらした。
「おりてもらっていいですよ」
やつはウエストポーチから、六角レンチをとりだして、サドルの高さとブレーキレバーの遊びを調整した。
「はい、これでいいです。もうどこにでものっていけますよ」
所要時間二分。ものすごく簡単。
「こんなんでいいの?」
やつはおれを見て、にやっと笑った。
「ういっす。フレームのサイズさえちゃんと選んでおけば、まずだいじょうぶっす。緻密に計算されてますからね、極端に手足の長い人とか短い人でなければ、これでちゃんとのれますよ。ちなみに悠さんの場合はLサイズの555ミリのフレームをつぎから選んでください。」
おれにつぎの自転車などあるのだろうか。ツール・ド・フランスの選手のような格好をしたタカシがロードレーサーのうえからいった。
「なにをいつまでぐずぐずしてる。おれはミーティングまで七十五分しかないんだぞ」
官僚的S・ウルフが口を開く。まあ、やつの場合、首筋の見えるところになぜかバーコードの刺青がはいっているので、ほんものの官僚と間違われることはないだろう。
「いいなあ、悠さんは。キングといっしょにサイクリングできるチケットなら、いくらだしても買うやつがたくさんいますよ」
気持ちの悪い台詞だった。おれはキングの腰ぎんちゃくを無視して、ピストバイクに乗った。ペダルを踏む足に力をいれる。なんというか、あまりに軽くて、身体の重心がうまくとれなかった。自転車は車の免許をとるまえまでしかのってないので、いつぶりになるだろうか……。
「いくぞ」
タカシがそういって、西口公園の石畳を走り出す。おれは夏のあたたかな午後、水色のロードレーサーを追った。
昼でも暗いびっくりガードのオレンジの光を駆け抜けて、明治通りにでた。あとはまっすぐ目白方面にむかっていく。並走するタカシがいった。
「風ってきもちいいな」
おれには似合わないが、やつにはぴったりの台詞。南池袋から雑司が谷におりていく道は、ゆるやかに左に曲がる長いくだり坂。おれたちが思い切りペダルを踏むと、時速は軽々五十キロを超える。まったく夏の風は気持ちがいい。安月給も、女がいないことも、世界的な金融危機も笑い飛ばしたくなるくらい。