ー特別編ー鬼子母神ランダウン
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そいつは池袋の駅まえロータリーの空気も、ぼんやりとあたたかくなってきたころの話。おれはいつものように店番をしながら、なんて人生は退屈なのだと嘆いていた。だってそうだろ。展示ケースにあれこれと季節の和菓子をならべたあとは、ただ向かいの店に行列が出来ていくのを見ているだけの仕事だ。うちみたいな店では昼のあいだはほとんど客などやって来ない。一部の常連を除いたら、夜になって調子に乗った酔っ払いに、ワンパック五百円の和菓子セットや千五百円の大納言小豆を使った小倉羊羹を売りつけるのがメインジョブ。
その主力の売れ行きが、金融危機からこっち最低なのは、いうまでもないだろう。昼間は客がまったくで、夜は酔っ払いが財布のひもを引き締める。これではうちみたいな零細企業は絶望的。おれは横目で吉音を見た。
「むぐぅ?」
両手に団子の串を握って頬をぷっくりとふくらましている。側に積まれた皿の枚数は十を超えた時点で数えたくなくなった。おれは愚痴を言う。
「やっぱり最後は社員の人件費に手をつけるしかないのかねぇ」
「むぐぐぅっ!!」
吉音は全力で首を横に振った。当然ながらうちはおれが社長で、社員ははなちゃんと吉音のふたり。削るとしたら圧倒的な吉音の食費からだ。大食い用心棒は口のなかの団子をのみこんでいった。
「やめてよー!冗談でも、ゾッとしちゃうでしょ!」
「冗談ではないんだが…」
吉音が再々放送の連続ドラマを見に奥へと引っ込むと、おれはしかたなく淹れ慣れた急須を手にした。自分用の茶を淹れるため。おれの過ぎ去っていく時間は、この茶葉の減り具合で計られる。茶を淹れるたびに時間はゼロにリセットされるのだ。
気だるい初夏の一日は、時間だけ流れて、あとになにも残さない。
おれは不景気な春の茶屋ほどの徒労の仕事をしらない。
そんな調子だから、池袋の頭の悪いガキどもの王・虎狗琥崇から電話があったときには、携帯電話が初めて救命ロープのように見えたのだった。おれを退屈の海から救ってくれる命綱。ストーン・フリー!まあ、キングからの通報はだいたいがトラブル発生の合図なんだが、その時は違っていた。おれは日のあたる店先の歩道にでて、電話を受けた。
『悠は今、ひまだろう』
疑問符もついていない最初の台詞だった。王はどの時代のどの国でもわがままだ。おれは忠実な臣下の振りをしてやった。
「ああ、退屈で死にそう」
『だったら、西口公園までこい』
「なんで……」
『俺の散歩につきあえ』
おれは王族のなぐさみ者じゃないといいかけたが、なにも起こらない平和な店先を見て考えが変わった。
「わかった。つきあえばいいんだろ。」
キングの声は初夏の涼風のように耳に冷たく流れ込む。
『汗ふき用のタオルも忘れずにな』
タオル?なんだそれといおうとしたら、先に通話が切れた。ほんとにキングなんて勝手なもんだよな。おれはうちの茶屋の名前が固染めしてある日本手ぬぐいをとりに奥へとあがり、吉音に文句を言われながら店を出た。
本日の営業終了と貼り紙をして、職場を放棄する。おれの場合、ダチと遊ぶだけでも、生活水準の低下の危機がある。
まいったものだ。
その主力の売れ行きが、金融危機からこっち最低なのは、いうまでもないだろう。昼間は客がまったくで、夜は酔っ払いが財布のひもを引き締める。これではうちみたいな零細企業は絶望的。おれは横目で吉音を見た。
「むぐぅ?」
両手に団子の串を握って頬をぷっくりとふくらましている。側に積まれた皿の枚数は十を超えた時点で数えたくなくなった。おれは愚痴を言う。
「やっぱり最後は社員の人件費に手をつけるしかないのかねぇ」
「むぐぐぅっ!!」
吉音は全力で首を横に振った。当然ながらうちはおれが社長で、社員ははなちゃんと吉音のふたり。削るとしたら圧倒的な吉音の食費からだ。大食い用心棒は口のなかの団子をのみこんでいった。
「やめてよー!冗談でも、ゾッとしちゃうでしょ!」
「冗談ではないんだが…」
吉音が再々放送の連続ドラマを見に奥へと引っ込むと、おれはしかたなく淹れ慣れた急須を手にした。自分用の茶を淹れるため。おれの過ぎ去っていく時間は、この茶葉の減り具合で計られる。茶を淹れるたびに時間はゼロにリセットされるのだ。
気だるい初夏の一日は、時間だけ流れて、あとになにも残さない。
おれは不景気な春の茶屋ほどの徒労の仕事をしらない。
そんな調子だから、池袋の頭の悪いガキどもの王・虎狗琥崇から電話があったときには、携帯電話が初めて救命ロープのように見えたのだった。おれを退屈の海から救ってくれる命綱。ストーン・フリー!まあ、キングからの通報はだいたいがトラブル発生の合図なんだが、その時は違っていた。おれは日のあたる店先の歩道にでて、電話を受けた。
『悠は今、ひまだろう』
疑問符もついていない最初の台詞だった。王はどの時代のどの国でもわがままだ。おれは忠実な臣下の振りをしてやった。
「ああ、退屈で死にそう」
『だったら、西口公園までこい』
「なんで……」
『俺の散歩につきあえ』
おれは王族のなぐさみ者じゃないといいかけたが、なにも起こらない平和な店先を見て考えが変わった。
「わかった。つきあえばいいんだろ。」
キングの声は初夏の涼風のように耳に冷たく流れ込む。
『汗ふき用のタオルも忘れずにな』
タオル?なんだそれといおうとしたら、先に通話が切れた。ほんとにキングなんて勝手なもんだよな。おれはうちの茶屋の名前が固染めしてある日本手ぬぐいをとりに奥へとあがり、吉音に文句を言われながら店を出た。
本日の営業終了と貼り紙をして、職場を放棄する。おれの場合、ダチと遊ぶだけでも、生活水準の低下の危機がある。
まいったものだ。