ー特別編ー水の中の目
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「マドカの誘拐、ミナガワと俺の襲撃。すべては俺のまわりに、お前が現れてから、起きたことだ。少年院をでたばかりじゃ部屋を借りるんだって簡単じゃない。あの雑司ヶ谷のアジトも、お前名義で借りてたんだろ」
アツシはおどおどしていった。擬態じゃない、たぶん、これがやつ本来の姿なのだろう。びくびくと恐れながら相手に取り入り、甘い蜜を与え、内側から腐らせていく。
「よく調べたね……さすがに、悠さんは違うな……アキラ君とは、比べ物にならないや……でも、残念だな」
「どうして」
アツシの声が震えていた。
「一度くらいは、悠さんと肌を合わせてみたかった……でも、ぼくのことがわかったら、絶対そんな気にならないでしょ」
俺だけじゃない。誰だって毒をもった食虫花など、近づかないだろう。自分自身が殺し屋だと、アキラのように錯覚を起こしていなければ。
「なあ、アツシ。パーティ潰しの頭脳は、おまえだったんだろう。やつらは荒っぽいが、あんな緻密な計画を立てられるようなタイプじゃなかった。俺に間野英二をさしむけたのも、多分お前だろう」
アツシはちょっと楽しそうにいった。
「うん。エイジくんは背は高いけど、四人のなかじゃ一番喧嘩は弱かった。だから、悠さん用にしたんだよ。」
「俺がやられてたら、どうするつもりだったんだ」
アツシが首を横に振るのが気配で分かった。
「そんなに弱かったら、悠さんにはアキラ君の代わりは務まらないよ」
俺は自然に微笑んでいた。
「そうか、俺はアキラの代わりか」
「そうだよ。アキラくんたちは少年院から戻って壊れてしまった。ただ荒っぽいことがやりたい。誰かを壊したい。暴れたい。ぼくは抑えるのが大変だった。それで、大人のパーティ強盗を思いついた。怖いのは頭の悪いヤクザじゃなくて、警察だからね。でも、ヤクザのほうにも、悠さんみたいな人がからんできてしまった」
俺のなかでちいさな怒りの火が灯った。アツシは酔ったようにいう。
「それで、途中でのりかえることにした。いつまでもアキラくんたちといっしょだと、ぼくまで沈んでしまう」
「そうか。そのためにおまえは、俺を利用した。お前に疑いをもったミナガワは、あの三人に殺させた。俺はおまえは秘密を守ったうえで、アキラを片付けるために、おとりにまでなった。お前はあの日、自分の計画がすべて順調にいくか確かめたかったんだろう。それで、西口公園にやってきた。」
アツシは悪びれずにいう。
「ごめんね。ミナガワさんは、悪いときに悪いところに居たんだ。」
「なあ、アツシ。最後にひとつだけ聞いてもいいか」
「うん」
「お前の姉さんの亜季さんのことだ。亜季さんを欲しがったのは、実はアキラたちじゃなかったんじゃないか。実の姉さんをやつらの餌に与えたのは、本当はお前だったんだろう。やつらの歓心を買うためか、なにかで」
それはこの数日俺が考えていたことだった。アツシはもう隠さずに笑っていた。真夜中過ぎの風は、八月でも鳥肌が立つほど冷たい。プールサイドからかすかに水音がした。
「そうだよ。自分がちょっと美人で、しかも女だからっていい気になって、亜季姉はほんとにやな女だった。だから、アキラくんたちに食べさせちゃったんだ。交通事故は偶然だけど、あんな女は死んだってしょうがない。みんな、ぼくのほうが良いっていってたよ」
俺は黙り込んで、夜中を映す水面を見ていた。アツシは心の底からねじれているが、ねじれそのものがアツシなのかもしれない。また、戸惑うような甘い声をだした。
「悠さん、あの……あの、ぼくを……どうするの」
どうにもできないといおうとしたら、耳もとで夜の鳥のような叫び声が響いた。アツシが俺の後ろで笑っていた。一瞬目のまえに金属のきらめきを見せて、俺の首に鎖が巻きついた。アツシは俺の背中にひざを押し当て、力を込めて鎖を引いている。振りほどけそうになかった。俺は息も出来ず、アツシを背中に背負ったまま、前方に広がる水のおもてに頭から落ちていった。
奴を連れて、ミナガワのところにいくのだと思いながら。
アツシはおどおどしていった。擬態じゃない、たぶん、これがやつ本来の姿なのだろう。びくびくと恐れながら相手に取り入り、甘い蜜を与え、内側から腐らせていく。
「よく調べたね……さすがに、悠さんは違うな……アキラ君とは、比べ物にならないや……でも、残念だな」
「どうして」
アツシの声が震えていた。
「一度くらいは、悠さんと肌を合わせてみたかった……でも、ぼくのことがわかったら、絶対そんな気にならないでしょ」
俺だけじゃない。誰だって毒をもった食虫花など、近づかないだろう。自分自身が殺し屋だと、アキラのように錯覚を起こしていなければ。
「なあ、アツシ。パーティ潰しの頭脳は、おまえだったんだろう。やつらは荒っぽいが、あんな緻密な計画を立てられるようなタイプじゃなかった。俺に間野英二をさしむけたのも、多分お前だろう」
アツシはちょっと楽しそうにいった。
「うん。エイジくんは背は高いけど、四人のなかじゃ一番喧嘩は弱かった。だから、悠さん用にしたんだよ。」
「俺がやられてたら、どうするつもりだったんだ」
アツシが首を横に振るのが気配で分かった。
「そんなに弱かったら、悠さんにはアキラ君の代わりは務まらないよ」
俺は自然に微笑んでいた。
「そうか、俺はアキラの代わりか」
「そうだよ。アキラくんたちは少年院から戻って壊れてしまった。ただ荒っぽいことがやりたい。誰かを壊したい。暴れたい。ぼくは抑えるのが大変だった。それで、大人のパーティ強盗を思いついた。怖いのは頭の悪いヤクザじゃなくて、警察だからね。でも、ヤクザのほうにも、悠さんみたいな人がからんできてしまった」
俺のなかでちいさな怒りの火が灯った。アツシは酔ったようにいう。
「それで、途中でのりかえることにした。いつまでもアキラくんたちといっしょだと、ぼくまで沈んでしまう」
「そうか。そのためにおまえは、俺を利用した。お前に疑いをもったミナガワは、あの三人に殺させた。俺はおまえは秘密を守ったうえで、アキラを片付けるために、おとりにまでなった。お前はあの日、自分の計画がすべて順調にいくか確かめたかったんだろう。それで、西口公園にやってきた。」
アツシは悪びれずにいう。
「ごめんね。ミナガワさんは、悪いときに悪いところに居たんだ。」
「なあ、アツシ。最後にひとつだけ聞いてもいいか」
「うん」
「お前の姉さんの亜季さんのことだ。亜季さんを欲しがったのは、実はアキラたちじゃなかったんじゃないか。実の姉さんをやつらの餌に与えたのは、本当はお前だったんだろう。やつらの歓心を買うためか、なにかで」
それはこの数日俺が考えていたことだった。アツシはもう隠さずに笑っていた。真夜中過ぎの風は、八月でも鳥肌が立つほど冷たい。プールサイドからかすかに水音がした。
「そうだよ。自分がちょっと美人で、しかも女だからっていい気になって、亜季姉はほんとにやな女だった。だから、アキラくんたちに食べさせちゃったんだ。交通事故は偶然だけど、あんな女は死んだってしょうがない。みんな、ぼくのほうが良いっていってたよ」
俺は黙り込んで、夜中を映す水面を見ていた。アツシは心の底からねじれているが、ねじれそのものがアツシなのかもしれない。また、戸惑うような甘い声をだした。
「悠さん、あの……あの、ぼくを……どうするの」
どうにもできないといおうとしたら、耳もとで夜の鳥のような叫び声が響いた。アツシが俺の後ろで笑っていた。一瞬目のまえに金属のきらめきを見せて、俺の首に鎖が巻きついた。アツシは俺の背中にひざを押し当て、力を込めて鎖を引いている。振りほどけそうになかった。俺は息も出来ず、アツシを背中に背負ったまま、前方に広がる水のおもてに頭から落ちていった。
奴を連れて、ミナガワのところにいくのだと思いながら。