ー特別編ー水の中の目
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ホテルをチェックアウトしたのは、午後五時すぎだった。柏はどうせなら、もう一泊していけといったが、やはりおれには贅沢なシティホテルより、ごちゃごちゃした部屋のほうがお似合いだ。
なつかしの我が家にもどったのは、その数十分後。うちの家は玄関が閉まっていて、中にはいる住まいには誰も居なかった。広間のテーブルに真桜の置き手紙が残っている。いい機会だから、全員で温泉に行って本場の宝塚を観てきます。三日後には戻るので、よろしく。あきれた。家主が命を張って、短銃強奪犯と闘っているのに。全員で温泉旅行宝塚ツアーだなんて……。まあ、細かい話しは全然してないんだから、無理もないが。
自分の部屋に戻り、ベッドのうえにダイブした。おれの携帯が鳴りだす。
「はい、こちら、ロンリー悠」
鼻笑いで、タカシはいう。
『命拾いしたな。街じゃおまえの噂でもちきりだ。これで、すこしは女にもてるようになるかもな』
余計なお世話だった。タカシは続ける。
『そんなことより、テレビつけてみろ。』
寝そべったまま、リモコンを使う。おれの部屋にあるのは十四インチのテレビだった。画面にはのっぺりと明るい西口公園が映っている。
『今どのチャンネルでも、アキラが短銃自殺を図ったシーンを繰り返し放送してる。どこかのおのぼりさんが、偶然撮影したそうだ。』
確かにぐらぐらとよく揺れ動く、フレーミングの悪い映像だった。デジカメだろうか円形広場の中央近くに立つアキラをズームアップしていった。あのときは気づかなかったが、アキラのはだけた胸は、水をかぶったように汗でぬれていた。右手の銃をあげる。銃口をこめかみにあたる。間違いない。また、やつの唇が音もなく動いた。タオルを首に巻いたランニングシャツ姿の捜査員が飛びつく。銃身はしたにぶれて、アキラのがっしりとしたあごを指す。ホームデジカメのマイクがくぐもった銃声を拾うのとあごの反対側から血の塊のようなものが吹き出るのは、ほぼ同時だった。タカシはいう。
『まあ、現場にいた悠にとっちゃなんでもないだろうがな』
とんでもない。おれはあわててチャンネルをまわす。三つ目の局で、同じ映像が流れていて録画のボタンを押しておれはいった。
「なあ、あのメルセデスのRVには、ビデオとモニター積んでたよな」
タカシが不思議そうにいった。
『それが、どうかしたか』
「いいから、ちょっと貸してくれ。禅も連れてだ」
『いつだ』
「今すぐ、うちのまえまでとどけてくれ」
タカシはまた鼻で笑った。
『よくわからないが、お前がいうんだから、なにか大事なことなんだろう。十分で届ける』
「ありがとう」
おれは録画した映像を再生してみた。アキラの上半身はしっかりと映っている。いいだろう。おれはハードディスクの中身をDVDに焼いて、戸締りをし、家の外に飛び出た。
このまえのオレンジつなぎが運転手だった。やつはおれに軽くうなずいて、新しいメルセデスの鍵を手のひらに落としていく。おれはシートに乗り込み、DVDを禅に向かって投げた。
「これ……は?」
互いに挨拶無しで用件だけいった。
「スローで再生できるようにしといてくれ」
「了……解」
シートベルトをする前に、スマホを取り出し、古いメモの番号を押した。マドカが居た身障者専門の大人のパーティだ。呼び出し音ひとつで、いつかの商売人の声がする。おれはいった。
「悪いけど客じゃないんだ。一ノ瀬組から頼まれて、パーティ潰しを調べてる。以前そっちに顔を出したことがあるんだが」
うんざりしたように中年男はいった。
『ああ、覚えている。だが、パーティ潰しはつかまったんだろう』
「そう。でも同じ件で今日はちょっと、そっちの女の子の手を借りたい」
『マドカちゃんなら、まだ病院のはずだ』
「いいや、違うんだ。今日はルカさん、店に出てるかな」
『ああ』
「それじゃ、五分後にそっちのマンションの下に降りてくるように、伝えてくれ。用件はすぐ済む」
『しょうがねえなあ』
おれはイグニションキーをまわし、生まれて初めてメルセデスを、そろそろと転がした。
なつかしの我が家にもどったのは、その数十分後。うちの家は玄関が閉まっていて、中にはいる住まいには誰も居なかった。広間のテーブルに真桜の置き手紙が残っている。いい機会だから、全員で温泉に行って本場の宝塚を観てきます。三日後には戻るので、よろしく。あきれた。家主が命を張って、短銃強奪犯と闘っているのに。全員で温泉旅行宝塚ツアーだなんて……。まあ、細かい話しは全然してないんだから、無理もないが。
自分の部屋に戻り、ベッドのうえにダイブした。おれの携帯が鳴りだす。
「はい、こちら、ロンリー悠」
鼻笑いで、タカシはいう。
『命拾いしたな。街じゃおまえの噂でもちきりだ。これで、すこしは女にもてるようになるかもな』
余計なお世話だった。タカシは続ける。
『そんなことより、テレビつけてみろ。』
寝そべったまま、リモコンを使う。おれの部屋にあるのは十四インチのテレビだった。画面にはのっぺりと明るい西口公園が映っている。
『今どのチャンネルでも、アキラが短銃自殺を図ったシーンを繰り返し放送してる。どこかのおのぼりさんが、偶然撮影したそうだ。』
確かにぐらぐらとよく揺れ動く、フレーミングの悪い映像だった。デジカメだろうか円形広場の中央近くに立つアキラをズームアップしていった。あのときは気づかなかったが、アキラのはだけた胸は、水をかぶったように汗でぬれていた。右手の銃をあげる。銃口をこめかみにあたる。間違いない。また、やつの唇が音もなく動いた。タオルを首に巻いたランニングシャツ姿の捜査員が飛びつく。銃身はしたにぶれて、アキラのがっしりとしたあごを指す。ホームデジカメのマイクがくぐもった銃声を拾うのとあごの反対側から血の塊のようなものが吹き出るのは、ほぼ同時だった。タカシはいう。
『まあ、現場にいた悠にとっちゃなんでもないだろうがな』
とんでもない。おれはあわててチャンネルをまわす。三つ目の局で、同じ映像が流れていて録画のボタンを押しておれはいった。
「なあ、あのメルセデスのRVには、ビデオとモニター積んでたよな」
タカシが不思議そうにいった。
『それが、どうかしたか』
「いいから、ちょっと貸してくれ。禅も連れてだ」
『いつだ』
「今すぐ、うちのまえまでとどけてくれ」
タカシはまた鼻で笑った。
『よくわからないが、お前がいうんだから、なにか大事なことなんだろう。十分で届ける』
「ありがとう」
おれは録画した映像を再生してみた。アキラの上半身はしっかりと映っている。いいだろう。おれはハードディスクの中身をDVDに焼いて、戸締りをし、家の外に飛び出た。
このまえのオレンジつなぎが運転手だった。やつはおれに軽くうなずいて、新しいメルセデスの鍵を手のひらに落としていく。おれはシートに乗り込み、DVDを禅に向かって投げた。
「これ……は?」
互いに挨拶無しで用件だけいった。
「スローで再生できるようにしといてくれ」
「了……解」
シートベルトをする前に、スマホを取り出し、古いメモの番号を押した。マドカが居た身障者専門の大人のパーティだ。呼び出し音ひとつで、いつかの商売人の声がする。おれはいった。
「悪いけど客じゃないんだ。一ノ瀬組から頼まれて、パーティ潰しを調べてる。以前そっちに顔を出したことがあるんだが」
うんざりしたように中年男はいった。
『ああ、覚えている。だが、パーティ潰しはつかまったんだろう』
「そう。でも同じ件で今日はちょっと、そっちの女の子の手を借りたい」
『マドカちゃんなら、まだ病院のはずだ』
「いいや、違うんだ。今日はルカさん、店に出てるかな」
『ああ』
「それじゃ、五分後にそっちのマンションの下に降りてくるように、伝えてくれ。用件はすぐ済む」
『しょうがねえなあ』
おれはイグニションキーをまわし、生まれて初めてメルセデスを、そろそろと転がした。