ー特別編ー水の中の目
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呼び出し音ひとつで、柏の仕事用の声が聞こえた。緊急対策の会議でもしているんだろう。
『はい、小鳥遊です』
「ごぶさた、おれだ。悠だ。」
階級不明刑事の声は気が抜けて、急に不機嫌になる。
『チッ、テメェか。お前も知ってるだろうけど、こっちは短銃強盗事件でキリキリ舞いなんだ。ろくな用じゃねーんだろ。かけてくんな』
おれはちょっと、間をおいていってやった。
「その強奪事件の犯人を渡してやろうと思って電話したのに、傷つくな。電話するの新聞社にしようかな」
おれは笑った。スマホのむこう側で、柏が何か叫んでいる。また、仕事用の声に戻った。
『ほんとうだろうな。ガセだったら……』
「ぶちこむか?」
『殺してやる』
このまま罵詈雑言のいい合いへと移行した方が時間がないので我慢する。
「ああ、おれがお前に嘘をついたことがあるかよ」
『悉くな。なんだっらガキの頃からの嘘をいいあげていってやろうか』
さすが偏差値九十以上のキャリア組。これだから、もの覚えのよすぎるねちっこいやつとは話ずらい。
「わーったよ。ホシは成瀬彰二十歳」
意味不明な声をあげて、鬼才があわてだした。がさがさとメモを用意する音がする。
『なんだと、お前、なにいってんだ』
「やつは三年まえの千早女子高生監禁事件の主犯で、ひと月ちょっとまえに少年院から戻ったばかりだ。」
『あっー?それで』
「アキラは……たぶん、おれを狙ってる」
『悠、おまえ自分がなにをいってるかわかってんのか!』
「ああ、ぶん殴られたが中身はまともだ。柏、いや、小鳥遊柏、おれを餌にしてやつを釣り上げないか。西口公園を、やつ専用のでっかい釣り堀にするんだ」
さらさらと鉛筆が紙のうえを走る音が聞こえるようだった。池袋の警察官はすでに、ショックから立ち直りつつある。冷静さを取り戻して、柏はいった。
『悠、お前今、どこにいる?』
「もうすぐ西池袋だ。」
『一丁目についたら一歩も動くなよ。覆面をそっちにまわす。家のガキと女どもには、今夜おそくなるといっとけ』
まだ、話しのポイントをつかんでいないようだった。いきなりでは無理もない。かわいそうな従兄。
「わかった。だけど、おれだって今夜うちにも店の方にも帰るつもりはない。いつ襲われるか分かんないんだから。柏、悪いけど、ホテル・メトロポリタン予約してくれ。なるべく高い階で、公園が見渡せる部屋がいいな。スイートじゃなくていいからさ」
『悠、てめぇ……』
柏は声を荒げてなにかいいかけた。それほど重要な内容ではないのだろうと思い、おれは通話を切った。今は西池袋一丁目で、池袋署は二丁目だ。直線距離なら五百メートルもない。覆面パトカーが来るまであとは壁を背に待つだけだ。
十分後には池袋警察署の車寄せの階段を、両側から私服の捜査員にはさまれてのぼっていた。おれが犯人みたいだ。駐車場の横に立つポールでは、日の丸が力なくたれさがっていた。池袋署一階の受付付近はマスコミ関係で、ラッシュアワーのように混雑。エレベーターで七階まで上がる。捜査員は折りたたみ式のテーブルとパイプ椅子が並ぶ、がらんとした会議室までおれを連れていくと、開いたままのドアの脇をノックした。
「情報提供者をお連れしました」
蛍光灯の光で寒々しい部屋の奥から、従兄の声がした。
「小鳥遊悠くんだったな。入りなさい」
柏の声がピリリとしていた。二枚並んだホワイトボードを屏風に柏を中央にして、左右に三人ずつ男たちが座っている。右側はおれの知らない顔で、本庁の捜査一係だと、紹介された。左側は所轄の池袋署の少年課と刑事課の捜査員だった。顔は見かけたことがある。みんな、どこから拾ってきたんだ、このガキって顔をしている。冗談は通じないと目で圧力をかけてから、従兄がいった。
「すべて話してもらおうか」
おれはパイプ椅子に座り、覆面パトのなかで何度も考えたストーリーを話し始めた。それにしても警察のパイプ椅子って、特別な仕掛けでもあるんだろうか。いつだって座り心地は最悪。
『はい、小鳥遊です』
「ごぶさた、おれだ。悠だ。」
階級不明刑事の声は気が抜けて、急に不機嫌になる。
『チッ、テメェか。お前も知ってるだろうけど、こっちは短銃強盗事件でキリキリ舞いなんだ。ろくな用じゃねーんだろ。かけてくんな』
おれはちょっと、間をおいていってやった。
「その強奪事件の犯人を渡してやろうと思って電話したのに、傷つくな。電話するの新聞社にしようかな」
おれは笑った。スマホのむこう側で、柏が何か叫んでいる。また、仕事用の声に戻った。
『ほんとうだろうな。ガセだったら……』
「ぶちこむか?」
『殺してやる』
このまま罵詈雑言のいい合いへと移行した方が時間がないので我慢する。
「ああ、おれがお前に嘘をついたことがあるかよ」
『悉くな。なんだっらガキの頃からの嘘をいいあげていってやろうか』
さすが偏差値九十以上のキャリア組。これだから、もの覚えのよすぎるねちっこいやつとは話ずらい。
「わーったよ。ホシは成瀬彰二十歳」
意味不明な声をあげて、鬼才があわてだした。がさがさとメモを用意する音がする。
『なんだと、お前、なにいってんだ』
「やつは三年まえの千早女子高生監禁事件の主犯で、ひと月ちょっとまえに少年院から戻ったばかりだ。」
『あっー?それで』
「アキラは……たぶん、おれを狙ってる」
『悠、おまえ自分がなにをいってるかわかってんのか!』
「ああ、ぶん殴られたが中身はまともだ。柏、いや、小鳥遊柏、おれを餌にしてやつを釣り上げないか。西口公園を、やつ専用のでっかい釣り堀にするんだ」
さらさらと鉛筆が紙のうえを走る音が聞こえるようだった。池袋の警察官はすでに、ショックから立ち直りつつある。冷静さを取り戻して、柏はいった。
『悠、お前今、どこにいる?』
「もうすぐ西池袋だ。」
『一丁目についたら一歩も動くなよ。覆面をそっちにまわす。家のガキと女どもには、今夜おそくなるといっとけ』
まだ、話しのポイントをつかんでいないようだった。いきなりでは無理もない。かわいそうな従兄。
「わかった。だけど、おれだって今夜うちにも店の方にも帰るつもりはない。いつ襲われるか分かんないんだから。柏、悪いけど、ホテル・メトロポリタン予約してくれ。なるべく高い階で、公園が見渡せる部屋がいいな。スイートじゃなくていいからさ」
『悠、てめぇ……』
柏は声を荒げてなにかいいかけた。それほど重要な内容ではないのだろうと思い、おれは通話を切った。今は西池袋一丁目で、池袋署は二丁目だ。直線距離なら五百メートルもない。覆面パトカーが来るまであとは壁を背に待つだけだ。
十分後には池袋警察署の車寄せの階段を、両側から私服の捜査員にはさまれてのぼっていた。おれが犯人みたいだ。駐車場の横に立つポールでは、日の丸が力なくたれさがっていた。池袋署一階の受付付近はマスコミ関係で、ラッシュアワーのように混雑。エレベーターで七階まで上がる。捜査員は折りたたみ式のテーブルとパイプ椅子が並ぶ、がらんとした会議室までおれを連れていくと、開いたままのドアの脇をノックした。
「情報提供者をお連れしました」
蛍光灯の光で寒々しい部屋の奥から、従兄の声がした。
「小鳥遊悠くんだったな。入りなさい」
柏の声がピリリとしていた。二枚並んだホワイトボードを屏風に柏を中央にして、左右に三人ずつ男たちが座っている。右側はおれの知らない顔で、本庁の捜査一係だと、紹介された。左側は所轄の池袋署の少年課と刑事課の捜査員だった。顔は見かけたことがある。みんな、どこから拾ってきたんだ、このガキって顔をしている。冗談は通じないと目で圧力をかけてから、従兄がいった。
「すべて話してもらおうか」
おれはパイプ椅子に座り、覆面パトのなかで何度も考えたストーリーを話し始めた。それにしても警察のパイプ椅子って、特別な仕掛けでもあるんだろうか。いつだって座り心地は最悪。