ー特別編ー水の中の目
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【豊島区東池袋でピストル強奪事件発生。巡回中の警官を襲った犯人は、ジーンズに白いTシャツ姿で、身長は百七十五センチ程度。犯行時は黒い目だし帽を着用】
おれが店の奥のテレビを見ていると、いきなりチャイムの音がしてテレビ画面の上部に白いテロップが二行あらわれた。最初の一行で、犯人は少年A・成瀬アキラだと直感した。身長とパーティ潰し愛用の黒い目だし帽で、直感は確信に変わる。ニュースから一分もしないうちに、おれの携帯が鳴りだした。スマホでなくマイ携帯の方。
『やつが動き出したな。』
予想通りタカシの声だった。面白がるようにいう。
『やつはS・ウルフが関わっていることは知らないだろう。だが、どうしてかわからないが、お前が陰で動いていることは知っている。第一の標的は悠だな』
ひとが嫌がることを、はっきりとクールにいう。タカシはおれとおなじ癖を出した。
「ミナガワがいない今、そうかもしれない」
『どうするんだ。防弾ヴェストを着せたS・ウルフで、盾でも作ってやろうか。』
冗談じゃない。タカシならほんとうにやりかねなかった。
「いいや。そこまで迷惑はかけられない。ちょっと考えさせてくれ。」
おれがそういうと、タカシは怒ったようにいう。
『どっちにしても、俺に遠慮はするな。やつはS・ウルフの獲物でもあるんだ。』
ありがとうといって、電話を切った。おれは店の棚や冷蔵ケースに飾ってある夏のフルーツを使った和菓子に目をやった。スイカゼリー、バナナ餡の饅頭、後は水ようかんとかいつもの品。ひとつひとつが甘い匂いとしっとりした深みのある色を放っている。おれが毎日退屈を殺しながら店番しているこの店や顔なじみの客たち。まともに日銭を稼いで暮らす吉音やはなちゃん。ダチがたくさんいる池袋西一番街。酒とスケベと気安い食い物屋の街。
なにがあっても、ここでアキラを待つわけにはいかない。
おれにはもう迷っている時間はなかった。スマホで久しぶりの相手にかけようとしたら、一足先に呼び出し音が鳴り始めた。震える声が耳もとで、悲鳴のように流れ出す。
『あの、もしもし……あの、悠さん』
死ぬほどおびえたアツシだった。
アツシはおれが返事をするまえに、恐怖に壊れた機械のようにしゃべり出した。やつの息は身元で突風になって吹き荒れる。
『まずいんです……あの、アキラくんは、ぼくが写真を渡したことを知っていて……あの、裏切り者だといって……あの、ぶっ殺してやるって……ぼくはどうしたらいいか、わからなくて』
忘れていた。おれのほかにもうひとり、やつの標的がいたのだ。昔の仲間を裏切り、売り渡した少年Eだ。
「今、どこにいる」
『うちのそばのカラオケボックスで……あの、ぼくひとりで』
「わかった。そこを動くな。手を打ってから、あとで電話する。」
アツシはおどおどといった。
『あの、どうするんですか』
「相手は拳銃をもってるんだ。警察を使うしかないだろ。」
『でも、ぼくは……警察にはかかわりたく、ないです……前科だってあるし……あの、アキラくんたちとは仲間みたい……なものだったし』
おれは公的機関を恐れるガキの気持ちはよくわかった。ちょっとまえまで、おれだって警察の姿を見ると、足が自然に道を曲がっていったものだ。
「わかった。アツシのことは伏せておくよ。それじゃ、あとで」
今度こそ目的の相手と話せる。おれは池袋警察署・小鳥遊柏(階級は不明だが理不尽に偉い)の電話番号を押した。やつとは、夏になってからまだ一度も顔を合わせてなかった。
おれが店の奥のテレビを見ていると、いきなりチャイムの音がしてテレビ画面の上部に白いテロップが二行あらわれた。最初の一行で、犯人は少年A・成瀬アキラだと直感した。身長とパーティ潰し愛用の黒い目だし帽で、直感は確信に変わる。ニュースから一分もしないうちに、おれの携帯が鳴りだした。スマホでなくマイ携帯の方。
『やつが動き出したな。』
予想通りタカシの声だった。面白がるようにいう。
『やつはS・ウルフが関わっていることは知らないだろう。だが、どうしてかわからないが、お前が陰で動いていることは知っている。第一の標的は悠だな』
ひとが嫌がることを、はっきりとクールにいう。タカシはおれとおなじ癖を出した。
「ミナガワがいない今、そうかもしれない」
『どうするんだ。防弾ヴェストを着せたS・ウルフで、盾でも作ってやろうか。』
冗談じゃない。タカシならほんとうにやりかねなかった。
「いいや。そこまで迷惑はかけられない。ちょっと考えさせてくれ。」
おれがそういうと、タカシは怒ったようにいう。
『どっちにしても、俺に遠慮はするな。やつはS・ウルフの獲物でもあるんだ。』
ありがとうといって、電話を切った。おれは店の棚や冷蔵ケースに飾ってある夏のフルーツを使った和菓子に目をやった。スイカゼリー、バナナ餡の饅頭、後は水ようかんとかいつもの品。ひとつひとつが甘い匂いとしっとりした深みのある色を放っている。おれが毎日退屈を殺しながら店番しているこの店や顔なじみの客たち。まともに日銭を稼いで暮らす吉音やはなちゃん。ダチがたくさんいる池袋西一番街。酒とスケベと気安い食い物屋の街。
なにがあっても、ここでアキラを待つわけにはいかない。
おれにはもう迷っている時間はなかった。スマホで久しぶりの相手にかけようとしたら、一足先に呼び出し音が鳴り始めた。震える声が耳もとで、悲鳴のように流れ出す。
『あの、もしもし……あの、悠さん』
死ぬほどおびえたアツシだった。
アツシはおれが返事をするまえに、恐怖に壊れた機械のようにしゃべり出した。やつの息は身元で突風になって吹き荒れる。
『まずいんです……あの、アキラくんは、ぼくが写真を渡したことを知っていて……あの、裏切り者だといって……あの、ぶっ殺してやるって……ぼくはどうしたらいいか、わからなくて』
忘れていた。おれのほかにもうひとり、やつの標的がいたのだ。昔の仲間を裏切り、売り渡した少年Eだ。
「今、どこにいる」
『うちのそばのカラオケボックスで……あの、ぼくひとりで』
「わかった。そこを動くな。手を打ってから、あとで電話する。」
アツシはおどおどといった。
『あの、どうするんですか』
「相手は拳銃をもってるんだ。警察を使うしかないだろ。」
『でも、ぼくは……警察にはかかわりたく、ないです……前科だってあるし……あの、アキラくんたちとは仲間みたい……なものだったし』
おれは公的機関を恐れるガキの気持ちはよくわかった。ちょっとまえまで、おれだって警察の姿を見ると、足が自然に道を曲がっていったものだ。
「わかった。アツシのことは伏せておくよ。それじゃ、あとで」
今度こそ目的の相手と話せる。おれは池袋警察署・小鳥遊柏(階級は不明だが理不尽に偉い)の電話番号を押した。やつとは、夏になってからまだ一度も顔を合わせてなかった。