ー特別編ー水の中の目
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縛り上げたエイジとスミオを尋問したが、無駄だった。ほかのことはなんでもぺらぺら話すのだが、アキラの行方については知らないと繰り返すばかり。目のまえでスタンガンや特殊警棒を振り回すS・ウルフより、アキラのほうがよほど恐ろしいのだろう。あるいはほんとうに知らないのかもしれない。
タカシはおれにいった。
「さて、このあとどうする」
おれはパーティ潰しから目をそらしていった。
「マドカの件で警察も動いている。いつでも、こいつらを引き渡すことは出来る。今度は二十歳以上だから、成人用の刑務所だ。再販で罪も重い。二日間絶食させて、キンタマを潰してからでもな……。」
「組織の方はいいのか。あっさりとやつらにまかせたほうが、税金の節約になる気がするな。そうするとどうなる、紅」
紅がパーティ潰しの二人を見るように、硬そうな親指で喉を掻っ切るポーズをする。タカシは愉快そうにいった。
「お前たちに自分の未来を選ばせてやる。アキラの行く先を話せば、刑務所。話さなければ、事務所。ソッチならどこかの山に埋まることになる。俺はここにいる悠と違って、正直どっちでもいい。選べ。」
さるぐつわを取られたエイジとスミオの口から、壊れた便器のように見苦しい言葉が溢れだした。
ふたりによるとアキラはミナガワ襲撃が済んだ昨晩遅く、ちょっと出てくるといったまま戻らないそうだ。アキラは気まぐれで、ときどきそんなことがある。誰も行先は知らない。お願いだから、組の奴らには渡さないでくれ。涙と鼻水。見ていられない。
タカシはちらりとおれに目をあげるといった。
「いいだろう。もう、黙れ。今日一日この部屋でアキラを張ろう。夜になって奴が現れなければ、この部屋に暴行犯がいると池袋署に通報する。それでいいな、悠」
おれはうなずいた。今度の事件ではすでに人が死に過ぎている。おれはもうたくさんだった。もっと死人が見たければ、ハリウッドのアクション映画でも見るといいのだ。あれならさらさらと砂のような血を流す、痛みを知らない死者を十分間にひとりずつ楽しめる。ポップコーンの死だ。タカシにいった。
「おれはもう帰る。なにか事態に変化があったら、連絡してくれ。」
こんなパーティはもううんざりだった。そろそろまともな仕事に戻る時間だ。商売はまっちゃくれない。ミナガワが死に、パーティ潰しが潰されても、夕方までには店を開ける。
そうやって世界はまわってるし、正直なところ、団子をこねて串に刺すのが少々懐かしかった。
二時間仮眠をとって、いつものように店をあけた。おれはその日一日静かに店番をしていた。病院のマドカのところには、刑事がきて調書をつくる予定だそうだ。岡野との短いアクションで、おれの心は節々が痛み、がたがたになっていた。おれはターミネーターじゃない。ちゃんと心のある人間だ。
五十キロ分の団子を売って、はなちゃんの機嫌が戻ってきたころには、とうに日が暮れていた。タカシからの電話が鳴ったのは、夜八時過ぎだ。
『アキラは戻らなかった。S・ウルフの女に頼んで、池袋署に通報をいれた。俺たちも、これからアジトを離れる。』
通りにでて、小声で話しているおれを、由真が汚いものでも見るように見た。案外正解かもしれない。街のごみのおれはいった。
「なんていわせたんだ」
『千早女子高生監禁事件の犯人に、レイプされた。他にも、被害者がいる。お兄ちゃんに頼んで、ボコボコにしてやった。あとは住所だ。』
タカシが鼻で笑い、おれも笑った。
「そうか、崇たちがお兄ちゃんか」
『ああ、悠もな。お前は気が優しいお兄ちゃんだ。』
スマホを切って、店に戻った。涼しい風が吹く夜だった。おれはその時点でほぼ事件は片がついたと思っていた。四人組のうち三人はもう池袋の街にはいない、取り逃がした残り一人が主犯のAなのが悔しかったが、まともな頭をしていれば、今ごろはどこかに高跳びしているはずだった。今度の事件は熱風のように激しかったが、燃焼期間は短い。八月になる前に終楽章のコーダにむかっていると思った。
だが、おれの甘い予感は、夜九時の臨時ニュースで裏切られた。
タカシはおれにいった。
「さて、このあとどうする」
おれはパーティ潰しから目をそらしていった。
「マドカの件で警察も動いている。いつでも、こいつらを引き渡すことは出来る。今度は二十歳以上だから、成人用の刑務所だ。再販で罪も重い。二日間絶食させて、キンタマを潰してからでもな……。」
「組織の方はいいのか。あっさりとやつらにまかせたほうが、税金の節約になる気がするな。そうするとどうなる、紅」
紅がパーティ潰しの二人を見るように、硬そうな親指で喉を掻っ切るポーズをする。タカシは愉快そうにいった。
「お前たちに自分の未来を選ばせてやる。アキラの行く先を話せば、刑務所。話さなければ、事務所。ソッチならどこかの山に埋まることになる。俺はここにいる悠と違って、正直どっちでもいい。選べ。」
さるぐつわを取られたエイジとスミオの口から、壊れた便器のように見苦しい言葉が溢れだした。
ふたりによるとアキラはミナガワ襲撃が済んだ昨晩遅く、ちょっと出てくるといったまま戻らないそうだ。アキラは気まぐれで、ときどきそんなことがある。誰も行先は知らない。お願いだから、組の奴らには渡さないでくれ。涙と鼻水。見ていられない。
タカシはちらりとおれに目をあげるといった。
「いいだろう。もう、黙れ。今日一日この部屋でアキラを張ろう。夜になって奴が現れなければ、この部屋に暴行犯がいると池袋署に通報する。それでいいな、悠」
おれはうなずいた。今度の事件ではすでに人が死に過ぎている。おれはもうたくさんだった。もっと死人が見たければ、ハリウッドのアクション映画でも見るといいのだ。あれならさらさらと砂のような血を流す、痛みを知らない死者を十分間にひとりずつ楽しめる。ポップコーンの死だ。タカシにいった。
「おれはもう帰る。なにか事態に変化があったら、連絡してくれ。」
こんなパーティはもううんざりだった。そろそろまともな仕事に戻る時間だ。商売はまっちゃくれない。ミナガワが死に、パーティ潰しが潰されても、夕方までには店を開ける。
そうやって世界はまわってるし、正直なところ、団子をこねて串に刺すのが少々懐かしかった。
二時間仮眠をとって、いつものように店をあけた。おれはその日一日静かに店番をしていた。病院のマドカのところには、刑事がきて調書をつくる予定だそうだ。岡野との短いアクションで、おれの心は節々が痛み、がたがたになっていた。おれはターミネーターじゃない。ちゃんと心のある人間だ。
五十キロ分の団子を売って、はなちゃんの機嫌が戻ってきたころには、とうに日が暮れていた。タカシからの電話が鳴ったのは、夜八時過ぎだ。
『アキラは戻らなかった。S・ウルフの女に頼んで、池袋署に通報をいれた。俺たちも、これからアジトを離れる。』
通りにでて、小声で話しているおれを、由真が汚いものでも見るように見た。案外正解かもしれない。街のごみのおれはいった。
「なんていわせたんだ」
『千早女子高生監禁事件の犯人に、レイプされた。他にも、被害者がいる。お兄ちゃんに頼んで、ボコボコにしてやった。あとは住所だ。』
タカシが鼻で笑い、おれも笑った。
「そうか、崇たちがお兄ちゃんか」
『ああ、悠もな。お前は気が優しいお兄ちゃんだ。』
スマホを切って、店に戻った。涼しい風が吹く夜だった。おれはその時点でほぼ事件は片がついたと思っていた。四人組のうち三人はもう池袋の街にはいない、取り逃がした残り一人が主犯のAなのが悔しかったが、まともな頭をしていれば、今ごろはどこかに高跳びしているはずだった。今度の事件は熱風のように激しかったが、燃焼期間は短い。八月になる前に終楽章のコーダにむかっていると思った。
だが、おれの甘い予感は、夜九時の臨時ニュースで裏切られた。