ー特別編ー水の中の目
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アツシはミナガワとは目をあわせずに、病院の廊下で小さくなっていた。おれは優しく聞いてみる。
「なあ、おまえはアキラたちの居場所を知らないのか」
アツシは大急ぎに首を横に振った。整った顔から、色が引いていく。
「わからないよ、ほんとだよ」
ミナガワが皮肉な調子でおれに言う。
「知っていたとしても、ぶるっちまって教えられないだろうな。とんだ根性無しだ。悠、こいつをおれに三十分預けて、どこかに用をたしにいかねえか、すぐに話がバラけてくるぜ」
そういいながら、首と肩の凝りをほぐすように、ミナガワは薄い頭をゆっくりと回し始めた。アツシはさらに小さくなり、目に見えて震えだす。
「よせよ、ミナガワさん。こいつを脅してもしょうがない。それより、アツシ、おれたちは人に会う用事があるから、マドカについてやってくれ。彼女は東京に友達がいないんだ。それから、お前のところにあの四人の写真は無いか」
「うちに戻って探せばあるよ」
「じゃあ、あとで用意しといてくれ。ひとをやるから」
アツシは顔をあげずにうなずくと、背を丸め病室にはいっていった。ミナガワは残念そうだった。
「たたきゃあ、なにかしらでると思うんだがな。」
おれはスマホを取り出して、S・ウルフの王様虎狗琥崇に電話した。
「西口公園に戻ろう。今度はおれ達が攻める」
二十分後には、紅と宮塚を従えたタカシと円形広場で作戦会議を開いていた。午前中の雨でぬぐわれて、池袋の空も磨いたばかりの窓のように澄んでいる。公園のケヤキもどこか嬉しそうだ。雲の切れ間から梯子のように日差しが注ぐと、ビル街の谷間はサウナみたいに蒸し暑くなった。おれがパーティ潰しのアジトの条件を説明すると、タカシはミラーグラスをかけたまま、涼しそうだった。
「なるほどな、都電の線路沿いで、歩いて数分のところにローソンがあるワンルームマンションか。だけど、部屋を移ってる可能性はないか」
「たぶん大丈夫だろう。新しく部屋を借りるのは、金があっても二十歳のガキには大変だからな。やつらは一日に何度もコンビニで買い物をしている。沿線のローソンを調べ上げ、すべてのみせにS・ウルフの見張りをつけてくれ。人海戦術なら、お手のものだろ」
タカシのサングラスに池袋の空と雲が、実物より眩しく光っていた。
「ああ、そうだな。クルマで十分から二十分なら、目白や巣鴨は圏外だろうが、念のために部隊をおいておこう。やつらの写真はいつ手に入るんだ。」
「今日の夕方には複写を済ませて、全員の手に渡す。」
タカシは今回の事件で初めて歯を見せて笑った。ちらりと隣のベンチに座るミナガワに目をやる。声を潜めていった。
「危なそうなのを連れてるな。仮にパーティ潰しの部屋が見つかったら、アイツはどうするんだ。ひとりで突っ込ませるか」
「いいや、そっちはS・ウルフでやろう。ヤー公にまかせて、無駄な死者を出したくない。それでいいだろ」
タカシはゆっくりとミラーグラスを外す。おれをまっすぐに見る目は笑っていた。
「それでいい。悠やおれがケダモノの位置まで、落ちる必要はない。」
おれ達はさらに手はずを細かく決めて、その場で別れた。おれはその日の深夜までミナガワをあちこち引きまわすつもりだった。本来なら組織に流す情報を手元に抑えておけるのは、せいぜい半日くらいだろう。すでにパーティ潰しの身元は割れている。
おれたちは優しすぎたのかもしれない。獣だってやすやすと狩られるままでいるはずがなかったのだ。
「なあ、おまえはアキラたちの居場所を知らないのか」
アツシは大急ぎに首を横に振った。整った顔から、色が引いていく。
「わからないよ、ほんとだよ」
ミナガワが皮肉な調子でおれに言う。
「知っていたとしても、ぶるっちまって教えられないだろうな。とんだ根性無しだ。悠、こいつをおれに三十分預けて、どこかに用をたしにいかねえか、すぐに話がバラけてくるぜ」
そういいながら、首と肩の凝りをほぐすように、ミナガワは薄い頭をゆっくりと回し始めた。アツシはさらに小さくなり、目に見えて震えだす。
「よせよ、ミナガワさん。こいつを脅してもしょうがない。それより、アツシ、おれたちは人に会う用事があるから、マドカについてやってくれ。彼女は東京に友達がいないんだ。それから、お前のところにあの四人の写真は無いか」
「うちに戻って探せばあるよ」
「じゃあ、あとで用意しといてくれ。ひとをやるから」
アツシは顔をあげずにうなずくと、背を丸め病室にはいっていった。ミナガワは残念そうだった。
「たたきゃあ、なにかしらでると思うんだがな。」
おれはスマホを取り出して、S・ウルフの王様虎狗琥崇に電話した。
「西口公園に戻ろう。今度はおれ達が攻める」
二十分後には、紅と宮塚を従えたタカシと円形広場で作戦会議を開いていた。午前中の雨でぬぐわれて、池袋の空も磨いたばかりの窓のように澄んでいる。公園のケヤキもどこか嬉しそうだ。雲の切れ間から梯子のように日差しが注ぐと、ビル街の谷間はサウナみたいに蒸し暑くなった。おれがパーティ潰しのアジトの条件を説明すると、タカシはミラーグラスをかけたまま、涼しそうだった。
「なるほどな、都電の線路沿いで、歩いて数分のところにローソンがあるワンルームマンションか。だけど、部屋を移ってる可能性はないか」
「たぶん大丈夫だろう。新しく部屋を借りるのは、金があっても二十歳のガキには大変だからな。やつらは一日に何度もコンビニで買い物をしている。沿線のローソンを調べ上げ、すべてのみせにS・ウルフの見張りをつけてくれ。人海戦術なら、お手のものだろ」
タカシのサングラスに池袋の空と雲が、実物より眩しく光っていた。
「ああ、そうだな。クルマで十分から二十分なら、目白や巣鴨は圏外だろうが、念のために部隊をおいておこう。やつらの写真はいつ手に入るんだ。」
「今日の夕方には複写を済ませて、全員の手に渡す。」
タカシは今回の事件で初めて歯を見せて笑った。ちらりと隣のベンチに座るミナガワに目をやる。声を潜めていった。
「危なそうなのを連れてるな。仮にパーティ潰しの部屋が見つかったら、アイツはどうするんだ。ひとりで突っ込ませるか」
「いいや、そっちはS・ウルフでやろう。ヤー公にまかせて、無駄な死者を出したくない。それでいいだろ」
タカシはゆっくりとミラーグラスを外す。おれをまっすぐに見る目は笑っていた。
「それでいい。悠やおれがケダモノの位置まで、落ちる必要はない。」
おれ達はさらに手はずを細かく決めて、その場で別れた。おれはその日の深夜までミナガワをあちこち引きまわすつもりだった。本来なら組織に流す情報を手元に抑えておけるのは、せいぜい半日くらいだろう。すでにパーティ潰しの身元は割れている。
おれたちは優しすぎたのかもしれない。獣だってやすやすと狩られるままでいるはずがなかったのだ。