ー特別編ー水の中の目
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階段の踊り場でコロンビア人の娼婦から話を聞いた。マドカの英語はカタコトだったが、相手も同じようなので、特に不自由はないようだった。それになぜか、娼婦たちはマドカも自分と同じ職種と敏感に感じるらしく、聞き込みはスムーズに進んだ。まあ、おれも入国管理官や警察官にはとても見えないしね。
追加情報のひとつは、髪が伸びて根元だけブルーネットになっている、でたらめにグラマーな女から得られた。黒のタンクトップにボクサーショーツのようなサテンの短パン。息をするだけで揺れる胸を見たのは久々だ。
おれが五角形の火傷痕のことを聞くと、女は答える。シー、シー。
「襲われたまえの日にきた若い男の左腕にも、その印が残っていた。どうしたのと聞いたら、遊び遊びといってきた。」
「その男の歳格好と背の高さは?」
「日本人の歳はよくわからないけど、歳はたぶん若い。頭はスキンヘッドだった。背の高さはアンタくらい」
頭を金髪に染めた女は、おれではなくミナガワを指さした。百七十センチ台後半というところか。一軒目の岡野とは、また別なガキのようだった。やはり店を襲う前に、偵察を送りこんでいる。ただ無謀で命知らずのガキではないようだった。計画はしっかりと立てているに違いない。
この池袋のジャングルで、まぐれが四回も続くはずがない。
池袋駅に戻るタクシーのフロントウインドーに、夕日が沈んでいく。眩しくて日の出通りの先を見ていられなかった。前方を走る車はみな道のどこかでオレンジ色の光の中に消滅していった。おれ達三人は少し疲れて、口数が少なかった。尻にぶら下げているジョジョスマホケースのスマホが鳴った。
「はい?」
『悠か、崇だ。そっちの調子はどうだ』
ガキの王様の冷たい声だった。心なしか、いつもよりさらに温度が低いようだ。おれは後部座席ドアのビニールにもたれスマホを支えた。今回はタクシー移動が多い。報酬はなくても経費は組織が清算してくれるので使い放題だ。こんなことなら、ハイヤーを一日貸し切ろうかな。
「手がかりが一つ見つかった。」
『話せ』
おれは左前腕の内側に五角形の形に根性焼きを入れたガキの話しをした。パーティ潰しは鮮やかな手口で、周到に計画した犯行であること。事前にメンバーの一人が店に偵察に音連れていること。襲撃に要する時間が二分ほどであること。あいづちをいれるだけの崇の声が、冷たく冴えていく。最後におれはいった。
「そっちには、何か変わったことはないのか」
『こっちにも一件ある。ラスタ・ラブが焼け落ちた。誰もいない昼間に、どこかのバカがドアの隙間からガソリンをゆっくりと流し込んで、火をつけたらしい。放火だ。』
「ラスタが……」
『ああ、しばらくは集合場所が別の場所になる。以上だ。』
「ああ。わかった、またな。」
ラスタはS・ウルフが取り仕切っているクラブで、おれの憩いの場でもある。キラーズー襲撃のつぎは、火か。そのバカは池袋のガキども全体に宣戦布告をしているらしい。そいつらが、パーティ潰しと同一犯なら、やつらは黒だけでなく池袋の灰色ゾーンでも、生きる余地はなくなるはずだ。どういうつもりなのだろう。ものすごいスピードで動きまわり、煮えたぎる暴力の欠片を蹴り飛ばしていく。大気圏に突っ込む彗星のように、地面につく前に燃え尽きようとでもいうのだろうか。
おれには、四人組のでたらめな無謀さと用意周到さが、まるでちぐはぐに思えた。
グリーン通りの駅にむかう人並みのなか、解散しようとするとマドカがいった。
「私、お腹すいちゃった。ねえ、悠君、聞き込みに協力したんだから、何かおいしいものでもごちそうしてよ」
マドカの半分ケツを出していたホットパンツは、路上のサラリーマンの注目の的だった。急流をさく岩のように、人の流れが分かれていく。
「店に戻らなくていいの」
「うん、いいや。今日はもうやる気無くしちゃった。ねえ、ミナガワさんもお腹すいたでしょう」
そういうとマドカはミナガワの傷だらけの腕にしがみついた。ごつい上腕二頭筋で、マドカの胸がへこむ。さっきのコロンビア人の後なので、つつましく清楚なおっぱいに見えた。ミナガワがマドカを無視して、おれにいった。
「ひとりで喰うのもつまらん。アンタも、いっしょに晩飯しないか。」
謎のボディガードは久々に口を開く。
追加情報のひとつは、髪が伸びて根元だけブルーネットになっている、でたらめにグラマーな女から得られた。黒のタンクトップにボクサーショーツのようなサテンの短パン。息をするだけで揺れる胸を見たのは久々だ。
おれが五角形の火傷痕のことを聞くと、女は答える。シー、シー。
「襲われたまえの日にきた若い男の左腕にも、その印が残っていた。どうしたのと聞いたら、遊び遊びといってきた。」
「その男の歳格好と背の高さは?」
「日本人の歳はよくわからないけど、歳はたぶん若い。頭はスキンヘッドだった。背の高さはアンタくらい」
頭を金髪に染めた女は、おれではなくミナガワを指さした。百七十センチ台後半というところか。一軒目の岡野とは、また別なガキのようだった。やはり店を襲う前に、偵察を送りこんでいる。ただ無謀で命知らずのガキではないようだった。計画はしっかりと立てているに違いない。
この池袋のジャングルで、まぐれが四回も続くはずがない。
池袋駅に戻るタクシーのフロントウインドーに、夕日が沈んでいく。眩しくて日の出通りの先を見ていられなかった。前方を走る車はみな道のどこかでオレンジ色の光の中に消滅していった。おれ達三人は少し疲れて、口数が少なかった。尻にぶら下げているジョジョスマホケースのスマホが鳴った。
「はい?」
『悠か、崇だ。そっちの調子はどうだ』
ガキの王様の冷たい声だった。心なしか、いつもよりさらに温度が低いようだ。おれは後部座席ドアのビニールにもたれスマホを支えた。今回はタクシー移動が多い。報酬はなくても経費は組織が清算してくれるので使い放題だ。こんなことなら、ハイヤーを一日貸し切ろうかな。
「手がかりが一つ見つかった。」
『話せ』
おれは左前腕の内側に五角形の形に根性焼きを入れたガキの話しをした。パーティ潰しは鮮やかな手口で、周到に計画した犯行であること。事前にメンバーの一人が店に偵察に音連れていること。襲撃に要する時間が二分ほどであること。あいづちをいれるだけの崇の声が、冷たく冴えていく。最後におれはいった。
「そっちには、何か変わったことはないのか」
『こっちにも一件ある。ラスタ・ラブが焼け落ちた。誰もいない昼間に、どこかのバカがドアの隙間からガソリンをゆっくりと流し込んで、火をつけたらしい。放火だ。』
「ラスタが……」
『ああ、しばらくは集合場所が別の場所になる。以上だ。』
「ああ。わかった、またな。」
ラスタはS・ウルフが取り仕切っているクラブで、おれの憩いの場でもある。キラーズー襲撃のつぎは、火か。そのバカは池袋のガキども全体に宣戦布告をしているらしい。そいつらが、パーティ潰しと同一犯なら、やつらは黒だけでなく池袋の灰色ゾーンでも、生きる余地はなくなるはずだ。どういうつもりなのだろう。ものすごいスピードで動きまわり、煮えたぎる暴力の欠片を蹴り飛ばしていく。大気圏に突っ込む彗星のように、地面につく前に燃え尽きようとでもいうのだろうか。
おれには、四人組のでたらめな無謀さと用意周到さが、まるでちぐはぐに思えた。
グリーン通りの駅にむかう人並みのなか、解散しようとするとマドカがいった。
「私、お腹すいちゃった。ねえ、悠君、聞き込みに協力したんだから、何かおいしいものでもごちそうしてよ」
マドカの半分ケツを出していたホットパンツは、路上のサラリーマンの注目の的だった。急流をさく岩のように、人の流れが分かれていく。
「店に戻らなくていいの」
「うん、いいや。今日はもうやる気無くしちゃった。ねえ、ミナガワさんもお腹すいたでしょう」
そういうとマドカはミナガワの傷だらけの腕にしがみついた。ごつい上腕二頭筋で、マドカの胸がへこむ。さっきのコロンビア人の後なので、つつましく清楚なおっぱいに見えた。ミナガワがマドカを無視して、おれにいった。
「ひとりで喰うのもつまらん。アンタも、いっしょに晩飯しないか。」
謎のボディガードは久々に口を開く。