ー特別編ー水の中の目
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アツシの話しがおろおろとはじまった。あの、あのとか、それから、それからなんて間の抜けた言葉はカットしてあるから、適当に挟んで読んでくれ。
「アキラくんとは、同じ町内で育ったから、気がついたらいっしょに遊んでた。小さなころからガキ大将で乱暴は凄かった。八つの時に砂場でおもちゃの取り合いになって、年上の男の子の頭を後ろから金属バットで殴りつけたことがある。ぴゅーって噴水みたいに血がでて、その子は救急車に乗せられてった。砂場は真っ黒になったよ。」
おれは要点だけで簡単なメモを取り、あいづちをいれる。真夏の日差しが石畳に落ちて、広場の向こう側にそびえるビルが熱気で揺らいでいた。
「子供の頃ってさ、ゲームとかマンガ何かで、人が死ぬとカッコいいなって思ってたよね。僕たちの仲間のあいだでも、悪いことや残酷なことが、カッコいいことになっていた。」
そういうとアツシは遠い目をする。どこか遥かな、この世界とは別な世界でも見ているような目。まつ毛にマッチ棒が十本はのりそうなくらいだった。
「銃で人が撃たれるとカッコいい。その銃だって、できるだけおおきいやつがいい。ナイフで人が刺されたり、爆弾で手足が吹き飛んだりすると、ドキドキする。普通そういうのって、小学生の高学年になると、子供っぽいって忘れちゃうんだけど、あきらくんたちは違ってた。」
おれもガキの気持ちは良くわかる。悪くて、クールで、タフでいたいのだ。世界中でデカイ面をするアメリカ映画を見るといい。銃と爆薬を禁止したら、あれほど外貨を稼げるだろうか。
「アキラくんはよく話していた。おれたちは悪いことをすべてやろう。ドラッグをやり、盗みをやり、人を痛めつけて、男も女も子供も殺してやろう。悪いことを全部やり、有名になって、誰よりもカッコ良くなるんだ。」
あの悲惨な監禁事件は、仲良しの幼馴染のあこがれからはじまったのだろうか。救われない話し。十七歳の女子高生に二週間、食べ物も与えず、輪姦と殴打を繰り返していた。ただそれがカッコいいからなのか。
亜季が交通事故死したのは、ガキどもには幸運だった。片をつけてくれたのがタクシーだったせいで、主犯の成瀬彰さえ未成年者略奪と監禁致傷の罪だけで、少年院送致も三年で済んでいる。おれはメモから目をあげていった。
「アキラたちが亜季さんに、その暴行を加えていたあいだ、何をしていたのかな」
アツシは初めて伏せていた目をあげて、おれの目をまっすぐに見た。怒ったように、低い声で言う。
「隣の部屋に居たよ。隅っこで耳をおさえ、目をつぶり、アーアーってずーっと声を出してた。僕は勇気がなくて、止めることが出来なかった。みんなの目を盗んでコップ一杯の水をあげるのが精いっぱいだった。」
だが、犯されているのは実の姉だ。それでもなにも出来なかったというのだろうか。アツシはまた眼を伏せる。たっぷりと厚い赤い唇が震えるように動いた。
「アキラくんは中学にはいると僕の口を使うようになった。僕は小学五年生のとき、初めて精液を飲まされた。あの二週間のあいだにも、ヤリコンとかいって僕と姉さんを交代で犯すことがあった。姉さんは見ないでと泣いていた。僕はねえさんから抜いたばかりのあきら君のを口できれいにさせられたことがある。アキラくんはくすぐったいってわらってたよ。」
アツシは顔をあげた。バラ色の頬、涙でぬれたまつ毛、目の奥に揺れる絶望。
「ああいうのなんて言うか知ってる?」
黙っておれは首を振った。無理に話す必要なんて無いんだ。そういってやりたかった。おれはただの通りすがりのライターに過ぎない。自分の心臓をぶっ刺して、血の言葉を漏らす理由なんてない。
「おそうじフェラっていうんだ……僕は姉さんより男のを舐めるのがうまいんだってさ。」
アツシはうつむく肩を震わせて泣きだした。チノパンの太ももが、点々と深緑に染まる。
おれはそれから十五分なにもいわずに、アツシの隣に座っていた。七月の終わりの昼休み、ケヤキの木陰でもとうに気温は三十度を超えている。汗はまったくかかなかった。アツシの話しがおれの身体の芯まで冷ましていたからだ。
また話しを聞かせてもらう約束をして、アツシと西口公園で別れた。しばらく泣いた後で顔をあげると、やつは眩しいものでも見るようにおれを見る。晴れやかな表情。なぜか胸の鼓動が大きくなった。おれは立ち上がり、隣のベンチでなにもせずにいるミナガワに声をかけた。
広場を出て、JR池袋駅に向かう。ビルの隙間の空に、入道雲のスライスが浮いていた。行先は池袋二丁目のラヴホテル外にあるマンション。そこは数ある大人のパーティでも、一風変わった趣向の店だという。
身障害者専門。
障害があるのは客の方ではなく、店の女の方だそうだ。拳二によると一ノ瀬組系列でも、常に売り上げはトップを競っているらしい。
十人億色。そういうことに関しちゃ、人の趣味は色々ってこと。
「アキラくんとは、同じ町内で育ったから、気がついたらいっしょに遊んでた。小さなころからガキ大将で乱暴は凄かった。八つの時に砂場でおもちゃの取り合いになって、年上の男の子の頭を後ろから金属バットで殴りつけたことがある。ぴゅーって噴水みたいに血がでて、その子は救急車に乗せられてった。砂場は真っ黒になったよ。」
おれは要点だけで簡単なメモを取り、あいづちをいれる。真夏の日差しが石畳に落ちて、広場の向こう側にそびえるビルが熱気で揺らいでいた。
「子供の頃ってさ、ゲームとかマンガ何かで、人が死ぬとカッコいいなって思ってたよね。僕たちの仲間のあいだでも、悪いことや残酷なことが、カッコいいことになっていた。」
そういうとアツシは遠い目をする。どこか遥かな、この世界とは別な世界でも見ているような目。まつ毛にマッチ棒が十本はのりそうなくらいだった。
「銃で人が撃たれるとカッコいい。その銃だって、できるだけおおきいやつがいい。ナイフで人が刺されたり、爆弾で手足が吹き飛んだりすると、ドキドキする。普通そういうのって、小学生の高学年になると、子供っぽいって忘れちゃうんだけど、あきらくんたちは違ってた。」
おれもガキの気持ちは良くわかる。悪くて、クールで、タフでいたいのだ。世界中でデカイ面をするアメリカ映画を見るといい。銃と爆薬を禁止したら、あれほど外貨を稼げるだろうか。
「アキラくんはよく話していた。おれたちは悪いことをすべてやろう。ドラッグをやり、盗みをやり、人を痛めつけて、男も女も子供も殺してやろう。悪いことを全部やり、有名になって、誰よりもカッコ良くなるんだ。」
あの悲惨な監禁事件は、仲良しの幼馴染のあこがれからはじまったのだろうか。救われない話し。十七歳の女子高生に二週間、食べ物も与えず、輪姦と殴打を繰り返していた。ただそれがカッコいいからなのか。
亜季が交通事故死したのは、ガキどもには幸運だった。片をつけてくれたのがタクシーだったせいで、主犯の成瀬彰さえ未成年者略奪と監禁致傷の罪だけで、少年院送致も三年で済んでいる。おれはメモから目をあげていった。
「アキラたちが亜季さんに、その暴行を加えていたあいだ、何をしていたのかな」
アツシは初めて伏せていた目をあげて、おれの目をまっすぐに見た。怒ったように、低い声で言う。
「隣の部屋に居たよ。隅っこで耳をおさえ、目をつぶり、アーアーってずーっと声を出してた。僕は勇気がなくて、止めることが出来なかった。みんなの目を盗んでコップ一杯の水をあげるのが精いっぱいだった。」
だが、犯されているのは実の姉だ。それでもなにも出来なかったというのだろうか。アツシはまた眼を伏せる。たっぷりと厚い赤い唇が震えるように動いた。
「アキラくんは中学にはいると僕の口を使うようになった。僕は小学五年生のとき、初めて精液を飲まされた。あの二週間のあいだにも、ヤリコンとかいって僕と姉さんを交代で犯すことがあった。姉さんは見ないでと泣いていた。僕はねえさんから抜いたばかりのあきら君のを口できれいにさせられたことがある。アキラくんはくすぐったいってわらってたよ。」
アツシは顔をあげた。バラ色の頬、涙でぬれたまつ毛、目の奥に揺れる絶望。
「ああいうのなんて言うか知ってる?」
黙っておれは首を振った。無理に話す必要なんて無いんだ。そういってやりたかった。おれはただの通りすがりのライターに過ぎない。自分の心臓をぶっ刺して、血の言葉を漏らす理由なんてない。
「おそうじフェラっていうんだ……僕は姉さんより男のを舐めるのがうまいんだってさ。」
アツシはうつむく肩を震わせて泣きだした。チノパンの太ももが、点々と深緑に染まる。
おれはそれから十五分なにもいわずに、アツシの隣に座っていた。七月の終わりの昼休み、ケヤキの木陰でもとうに気温は三十度を超えている。汗はまったくかかなかった。アツシの話しがおれの身体の芯まで冷ましていたからだ。
また話しを聞かせてもらう約束をして、アツシと西口公園で別れた。しばらく泣いた後で顔をあげると、やつは眩しいものでも見るようにおれを見る。晴れやかな表情。なぜか胸の鼓動が大きくなった。おれは立ち上がり、隣のベンチでなにもせずにいるミナガワに声をかけた。
広場を出て、JR池袋駅に向かう。ビルの隙間の空に、入道雲のスライスが浮いていた。行先は池袋二丁目のラヴホテル外にあるマンション。そこは数ある大人のパーティでも、一風変わった趣向の店だという。
身障害者専門。
障害があるのは客の方ではなく、店の女の方だそうだ。拳二によると一ノ瀬組系列でも、常に売り上げはトップを競っているらしい。
十人億色。そういうことに関しちゃ、人の趣味は色々ってこと。