ー特別編ー水の中の目
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「通れ」
とがったあごをひとふりすると、ヤツはおれに関心を無くし、サメ同士のガンの飛ばしあいに戻っていった。中央部だけ鈍く光る真鍮の取っ手を引いて、店内に入った。こちらも前と変わらない。沈んだ赤のカーペットに、孤島のように離れて赤い円形のソファーがぽつぽつと浮かんでいる。店の入り口近くに三つの集団が固まっていた。左手のカウンターの両端と右手のボックス席。四、五人のグループが、距離をおいて相手を牽制し合っている。少しだけ成長したサメの兄貴分たちだった。軟らかなカーペットを踏んでフロアを進んでいくと、店の奥は急に人口密度が下がった。
円形ソファーをふたつつなげて、一方に崇と氷室さんが背を伸ばし、もう一方にはお偉いさんが顔を揃えていた。天井に埋め込まれたダウンライトがまっすぐに注ぎ、誰の顔にも彫りつけたような深い影が落ちている。お偉いさんは三人。関東賛和会一ノ瀬組組長の鷲の顔、豊島開発社長多田三樹雄の小造りのきざな顔、それにおれの知らないもうひとりのでかい丸花とぎょろ目の男。多分関西系の誰かなんだろう。
光の輪の中にすすみでると、一ノ瀬辰樹が唇を五度ほどつりあげ、おれにいった。
「いつも好調のようだな」
うなずく。負けずに多田三樹雄がいった。
「うちの息子の話しも聞いた。あんたには借りが出来た。」
ぎょろ目の男はさらに目玉を剥いておれを見上げた。何もんだ、このガキ。ほとんど真円に近い目になった。西川きよしか、コイツ。一ノ瀬辰樹が枯れた声を出す。
「小鳥遊悠さんは、池袋じゃ有名人だ。こちらが聖玉社の里見祐造さんだ」
ぎょろ目は黙っておれにうなずいた。タカシの隣に腰を降ろす。多田三樹雄が咳払いをすると口を開いた。
「みなさん忙しいだろうからさっそく本題に入ろう。パーティ潰しの一件は、ここにいる人間なら、皆分かっているはずだ。私たちは、やつらをなんとかして抑えたい。償いはさせなきゃならん。」
お偉いさん三人の顔から表情が消えた。あたりの空気がシベリア寒気団のように冷え込む。コイツらの財布に手をつっこむヤツって、いったいどんな面をしているんだろう。
パーティクラッシャー確かに伝説になっているだけはある。
「こいつは警察任せにできない。被害届を出せるような筋じゃないからな。そこで、小鳥遊さんと虎狗琥さんのチームにも応援を頼みたい」
進行役は多田のようだった。一ノ瀬と里美は黙ったまま、ときどきうなずいている。おれは言った。
「別にかまわないけど、どうしておれたちなんですか」
「パーティの受付が潰し屋の顔を見ている。まだ、ひどく若い男らしい。ガキといっても良いくらいだ。そつちはアンタたちの専門だろう」
非合法の風俗はガキの客でも千客万来という訳か。タカシはおれを見ると口を開いた。多田に負けない冷たい声だ。
「S・ウルフへの報酬は?」
お偉いさんは視線を交わしあった。
「三百でどうだ」
タカシはうなずいた。もともと金には淡白なやつなのだ。三百万円の報酬に加え、池袋の裏を仕切る三つの組に貸しを作れるなら、まったく悪い話では無かった。だが、どんなにお得でも、おれには関係のない話。
「待ってくれ。おれはS・ウルフのメンバーでもないし、その金とも絡んでない。そいつを確認しておいてもらいたい」
多田が不思議そうな顔をした。
「アンタも別口の報酬が欲しいのか」
「いいや。おれは金は要らない。だから、自由に動かしてほしい。そちらの組織もS・ウルフにもくっつかずに、おれはおれなりに自由に動きたい。」
背中がぞくぞくするような視線がおれに集まる。たいした貫録だった。三匹ボスザメのいるプールに肉を抱いて飛び込んだみたいだ。タカシがフォローしてくれた。
「悠はこういうひねくれものだが、S・ウルフの頭脳だ。こいつが降りるというのなら、俺たちもこの話しは無かったことにしてもらう。そちらでも、ストリートを嗅ぎまわるコイツの特殊な感は、よくわかっているだろう」
そういいながら愉快そうにちらりとおれを見る。
とがったあごをひとふりすると、ヤツはおれに関心を無くし、サメ同士のガンの飛ばしあいに戻っていった。中央部だけ鈍く光る真鍮の取っ手を引いて、店内に入った。こちらも前と変わらない。沈んだ赤のカーペットに、孤島のように離れて赤い円形のソファーがぽつぽつと浮かんでいる。店の入り口近くに三つの集団が固まっていた。左手のカウンターの両端と右手のボックス席。四、五人のグループが、距離をおいて相手を牽制し合っている。少しだけ成長したサメの兄貴分たちだった。軟らかなカーペットを踏んでフロアを進んでいくと、店の奥は急に人口密度が下がった。
円形ソファーをふたつつなげて、一方に崇と氷室さんが背を伸ばし、もう一方にはお偉いさんが顔を揃えていた。天井に埋め込まれたダウンライトがまっすぐに注ぎ、誰の顔にも彫りつけたような深い影が落ちている。お偉いさんは三人。関東賛和会一ノ瀬組組長の鷲の顔、豊島開発社長多田三樹雄の小造りのきざな顔、それにおれの知らないもうひとりのでかい丸花とぎょろ目の男。多分関西系の誰かなんだろう。
光の輪の中にすすみでると、一ノ瀬辰樹が唇を五度ほどつりあげ、おれにいった。
「いつも好調のようだな」
うなずく。負けずに多田三樹雄がいった。
「うちの息子の話しも聞いた。あんたには借りが出来た。」
ぎょろ目の男はさらに目玉を剥いておれを見上げた。何もんだ、このガキ。ほとんど真円に近い目になった。西川きよしか、コイツ。一ノ瀬辰樹が枯れた声を出す。
「小鳥遊悠さんは、池袋じゃ有名人だ。こちらが聖玉社の里見祐造さんだ」
ぎょろ目は黙っておれにうなずいた。タカシの隣に腰を降ろす。多田三樹雄が咳払いをすると口を開いた。
「みなさん忙しいだろうからさっそく本題に入ろう。パーティ潰しの一件は、ここにいる人間なら、皆分かっているはずだ。私たちは、やつらをなんとかして抑えたい。償いはさせなきゃならん。」
お偉いさん三人の顔から表情が消えた。あたりの空気がシベリア寒気団のように冷え込む。コイツらの財布に手をつっこむヤツって、いったいどんな面をしているんだろう。
パーティクラッシャー確かに伝説になっているだけはある。
「こいつは警察任せにできない。被害届を出せるような筋じゃないからな。そこで、小鳥遊さんと虎狗琥さんのチームにも応援を頼みたい」
進行役は多田のようだった。一ノ瀬と里美は黙ったまま、ときどきうなずいている。おれは言った。
「別にかまわないけど、どうしておれたちなんですか」
「パーティの受付が潰し屋の顔を見ている。まだ、ひどく若い男らしい。ガキといっても良いくらいだ。そつちはアンタたちの専門だろう」
非合法の風俗はガキの客でも千客万来という訳か。タカシはおれを見ると口を開いた。多田に負けない冷たい声だ。
「S・ウルフへの報酬は?」
お偉いさんは視線を交わしあった。
「三百でどうだ」
タカシはうなずいた。もともと金には淡白なやつなのだ。三百万円の報酬に加え、池袋の裏を仕切る三つの組に貸しを作れるなら、まったく悪い話では無かった。だが、どんなにお得でも、おれには関係のない話。
「待ってくれ。おれはS・ウルフのメンバーでもないし、その金とも絡んでない。そいつを確認しておいてもらいたい」
多田が不思議そうな顔をした。
「アンタも別口の報酬が欲しいのか」
「いいや。おれは金は要らない。だから、自由に動かしてほしい。そちらの組織もS・ウルフにもくっつかずに、おれはおれなりに自由に動きたい。」
背中がぞくぞくするような視線がおれに集まる。たいした貫録だった。三匹ボスザメのいるプールに肉を抱いて飛び込んだみたいだ。タカシがフォローしてくれた。
「悠はこういうひねくれものだが、S・ウルフの頭脳だ。こいつが降りるというのなら、俺たちもこの話しは無かったことにしてもらう。そちらでも、ストリートを嗅ぎまわるコイツの特殊な感は、よくわかっているだろう」
そういいながら愉快そうにちらりとおれを見る。