ー特別編ー水の中の目
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すぐに崇にTEL。いつもとは別の取次がでて、おれの声を聞くと何もいわずまわしてくれる。
「崇のとこ、取次が何人いるんだ?」
池袋のギャングボーイズの王様・虎狗琥崇は、鼻で笑って答える。
『お前のつきあった女の数よりは多いだろうな』
おれがどんなにモテるか知らないのだ。あさはかな王。
「ところで、今夜一ノ瀬組の用件は何なんだ」
崇の短い笑い声が聞こえた。
『俺にもお前にもあまり関係は無い。パーティ潰しの噂は聞いてるだろう』
「ああ」
池袋のストリートで毎日闊歩していれば、嫌でも街の噂にはくわしくなる。ヤクザさえ恐れないパーティ潰しの話しは、ガキどものあいだで現在進行形の伝説になっていた。笑いを含んだ声で、崇は話す。
『昨日の夜、四件目が襲われて。北大塚のパーティだそうだ。そこは関西系の息がかかった店なんだが、これで一ノ瀬組と豊島開発と関西系の池袋三大勢力の店が襲撃され、金を奪われた。奴らにすれば面目丸つぶれだな。』
崇の声は愉快そうだった。
「S・ウルフはかかわってないんだろう」
『ああ。そんなことに手を出すヤツがいるなら、ヤバい匂いくらいはする。うちはどのチームもクリーンなものだ。俺たちと奴らの組織じゃ同じ街で生きていても、テリトリーが違う』
実際そうなのだ。池袋の灰色ゾーンは、真っ黒ゾーンと同じくらい広大だ。互いに相手と目を合わせることもなく、たくさんの組織が共存しているし、その気になれば隠れる場所だっていくらもある。
「わかった。やつらもパーティ潰しを必死に追っている。それでも足りなくて、ガキどもの世界にも網を掛けたいということか」
『ああ、S・ウルフにしてみれば、ただのビジネス話だ。十五分前にクルマをやる。使ってくれ。』
「サンキュ。じゃあ今夜」
夜九時四十五分、おれは一日の店番でひざの抜けた軍パンと汗まみれのTシャツの上からナイロンパーカーを被り、Sウルフの車に乗り込んだ。真新しいベージュのマツダMPVだ。なぜ、ガキのくせにいつもこんなに金があるんだろうか。おれの財布はいつも軽いのに。
ミニヴァンが東口のグリーン通りを右折するとき、牧野亜季がアルバイトをしていたガラス張りの喫茶店が一瞬見えた。なぜか、客は女ばかりだった。本立寺のつきあたりで車は止まり、おれは礼をいってドアを開けた。真夏なのにラスタカラーのニットキャップをかぶったS・ウルフの運転手は、バックミラーでおれの視線を捉えると、にこりともせずただうなずく。
おれは路上に降りるとコンクリート打ちっぱなしのビルを見上げた。尻のポケットからスマホではない方の携帯を抜いてフラップを開いた。十時五分前。いいだろう。鏡張りのエレベーターに乗り込んだ。天井の四隅にはちいさなシャンデリアが、前と同じように揺れていた。薄くほこりをかぶったガラスの涙が百滴ずつ。
扉が開くと、狭いエレベーターホールはヤクザものでごった返していた。誰もが暴力衝動をむき出しにして、互いをねめまわしている。餌やりを忘れたサメの檻みたいだ。おれがドアの前に立つと、中の一匹が声を掛けて来た。
「おまえ、何者だ」
「小鳥遊悠。一ノ瀬辰樹さんと約束があってきた。」
おれはサメ男の目は見なかった。頭の悪いのが移りそうだったので。
「崇のとこ、取次が何人いるんだ?」
池袋のギャングボーイズの王様・虎狗琥崇は、鼻で笑って答える。
『お前のつきあった女の数よりは多いだろうな』
おれがどんなにモテるか知らないのだ。あさはかな王。
「ところで、今夜一ノ瀬組の用件は何なんだ」
崇の短い笑い声が聞こえた。
『俺にもお前にもあまり関係は無い。パーティ潰しの噂は聞いてるだろう』
「ああ」
池袋のストリートで毎日闊歩していれば、嫌でも街の噂にはくわしくなる。ヤクザさえ恐れないパーティ潰しの話しは、ガキどものあいだで現在進行形の伝説になっていた。笑いを含んだ声で、崇は話す。
『昨日の夜、四件目が襲われて。北大塚のパーティだそうだ。そこは関西系の息がかかった店なんだが、これで一ノ瀬組と豊島開発と関西系の池袋三大勢力の店が襲撃され、金を奪われた。奴らにすれば面目丸つぶれだな。』
崇の声は愉快そうだった。
「S・ウルフはかかわってないんだろう」
『ああ。そんなことに手を出すヤツがいるなら、ヤバい匂いくらいはする。うちはどのチームもクリーンなものだ。俺たちと奴らの組織じゃ同じ街で生きていても、テリトリーが違う』
実際そうなのだ。池袋の灰色ゾーンは、真っ黒ゾーンと同じくらい広大だ。互いに相手と目を合わせることもなく、たくさんの組織が共存しているし、その気になれば隠れる場所だっていくらもある。
「わかった。やつらもパーティ潰しを必死に追っている。それでも足りなくて、ガキどもの世界にも網を掛けたいということか」
『ああ、S・ウルフにしてみれば、ただのビジネス話だ。十五分前にクルマをやる。使ってくれ。』
「サンキュ。じゃあ今夜」
夜九時四十五分、おれは一日の店番でひざの抜けた軍パンと汗まみれのTシャツの上からナイロンパーカーを被り、Sウルフの車に乗り込んだ。真新しいベージュのマツダMPVだ。なぜ、ガキのくせにいつもこんなに金があるんだろうか。おれの財布はいつも軽いのに。
ミニヴァンが東口のグリーン通りを右折するとき、牧野亜季がアルバイトをしていたガラス張りの喫茶店が一瞬見えた。なぜか、客は女ばかりだった。本立寺のつきあたりで車は止まり、おれは礼をいってドアを開けた。真夏なのにラスタカラーのニットキャップをかぶったS・ウルフの運転手は、バックミラーでおれの視線を捉えると、にこりともせずただうなずく。
おれは路上に降りるとコンクリート打ちっぱなしのビルを見上げた。尻のポケットからスマホではない方の携帯を抜いてフラップを開いた。十時五分前。いいだろう。鏡張りのエレベーターに乗り込んだ。天井の四隅にはちいさなシャンデリアが、前と同じように揺れていた。薄くほこりをかぶったガラスの涙が百滴ずつ。
扉が開くと、狭いエレベーターホールはヤクザものでごった返していた。誰もが暴力衝動をむき出しにして、互いをねめまわしている。餌やりを忘れたサメの檻みたいだ。おれがドアの前に立つと、中の一匹が声を掛けて来た。
「おまえ、何者だ」
「小鳥遊悠。一ノ瀬辰樹さんと約束があってきた。」
おれはサメ男の目は見なかった。頭の悪いのが移りそうだったので。