ー特別編ー水の中の目
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下品な話で失礼。よい子は飛ばして読んでくれ。
「大人のパーティ」はきっちり本番まである裏風俗だ。もちろん違法だが、警察署や衛生局への届け出は出していない。東京中に散らばっているが、何といってもメッカは巣鴨、大塚、池袋を擁する豊島区の一帯。正確には何件あるのか分からないが、夕刊紙をざっと眺めただけでも、この地域で二十件以上は店を開けているのではないだろうか。
システムは簡単(なんで風俗関係者はこの言葉が好きなんだろう)。レジャー棚にぼうふらのように湧いている三行広告を見て、アンタは電話する。たぶんそこには「池袋大人のパーティ、新規開店!女の子はすべて二十代!!」なんて書いてあるはずだ。
店の受け付けは最寄りの駅からの道順を録音テープのように繰り返すだろう。駅から歩いて五分でアンタは新しくも古くもない、高級そうでも最低でもない中層マンションの前に立つ。部屋番号は分かっているから、下心を構えたまま平静を装い、エレベーターでまっすぐパーティの開かれている部屋に向かう。
チャイムを鳴らすと先ほどの受付の男か女が、覗き穴からアンタが私服の刑事かどうか確かめて、ドアを開けてくれる。金の受け渡しは玄関先だ。値段は可能な回数や時間によってまちまち。金を払うとすぐにシャワーに追いやられ、 ラヴホテルに置いてある寝巻みたいな間の抜けた格好に着替える。
腋のしたを湿らせたまま、アンタはリビングルームへ移動するだろう。「大人のパーティ」へようこそ。テーブルというよりちゃぶ台には、乾きものや簡単な仕出しなどつまみが並び、その周りを何人かの何人かの男と女が囲んでいる。混浴サウナの待合室みたいだ。ざっと見たところ女は二十代も居れば三十代もいそうだ(もちろん熟女が売りの店なら六十代も、ことによると七十代もいる。)
アンタは水割りだかウーロン茶だかを一口すすると、男好きのする二十代後半のスウェットシャツを着た女(グラマーというよりちょっと太った鈍そうな女)に目配せする。女はうなずいて立ち上がる。アンタは女といっしょに寝室に続くドアの前に立つだろう。安普請のマンションの薄い扉を通して、中から男と女のうめき声が聞こえてくる。アダルトビデオではなく生の音。寝室の中はカゲロウの羽根のようなカーテンで仕切られ、布団が何組かしかれているはずだ。
寝室で何をするかは、そっちで想像してくれ。
「大人のパーティ」は完全に非合法なので、組の直営店でなければ、どこかの組織に必ずみかじめ料は払っている。客とのトラブルや騒動が起きても、裏風俗では警察を呼べないからだ。
男たちは比較的リーズナブルに本番が出来る。女たちは見知らずの客と二人きりで密室に行かなくても良い金になる。経営者は当然儲かるし、そんなところで騒ぎを起こす客なんてめったにいないから、暴力団も楽な商売が出来る。考えてみればうまく出来たシステム!なのだが、そこの盲点を突く奴が、この夏池袋にあらわれた。
禁じられた商売の、あるはずの無い上がりをさらっていく、四人組の強盗団。パーティ潰しだ。
七月二十一日、あすから夏休みに入るという金曜日の夕方、店番をしているおれのスマートフォンが鳴った。軍パンの尻ポケットから取り出し、耳に当てる。
『悠か、俺ぁだ、拳二。今なにしてる?』
名前を名乗らなくてもドスの利いたオッサン声で誰だかわかる。おれの(一応)中学の先輩で、今は一ノ瀬組渉外部長だ。
「街を見てる」
おれは茶屋の奥につっ立ち、街を通り過ぎる通行人を眺めていた。人通りの少ないこの時間、店はいつも暇なのだ。
『そうか。今夜、時間をつくってくんねぇか』
声の様子が真剣だった。ゴリラにしては珍しい。
「いいけど。」
『もうどんくらいになるか、うちのオヤジと会った店を憶えてるか』
覚えているといった。南池袋本立寺の脇に建つ高級クラブばかり入ったビルだ。もちろんあれから一度も足を運んではいない。
『あの店による十時に来てくれ。お前のダチの崇も、うちのおやじも待ってるはずだから、時間は正確にな』
崇も顔を見せるという、それならS・ウルフ絡みの話しなのだろうか。何の用だといおうとしたら、切れてしまった。気の短いゴリラ。
「大人のパーティ」はきっちり本番まである裏風俗だ。もちろん違法だが、警察署や衛生局への届け出は出していない。東京中に散らばっているが、何といってもメッカは巣鴨、大塚、池袋を擁する豊島区の一帯。正確には何件あるのか分からないが、夕刊紙をざっと眺めただけでも、この地域で二十件以上は店を開けているのではないだろうか。
システムは簡単(なんで風俗関係者はこの言葉が好きなんだろう)。レジャー棚にぼうふらのように湧いている三行広告を見て、アンタは電話する。たぶんそこには「池袋大人のパーティ、新規開店!女の子はすべて二十代!!」なんて書いてあるはずだ。
店の受け付けは最寄りの駅からの道順を録音テープのように繰り返すだろう。駅から歩いて五分でアンタは新しくも古くもない、高級そうでも最低でもない中層マンションの前に立つ。部屋番号は分かっているから、下心を構えたまま平静を装い、エレベーターでまっすぐパーティの開かれている部屋に向かう。
チャイムを鳴らすと先ほどの受付の男か女が、覗き穴からアンタが私服の刑事かどうか確かめて、ドアを開けてくれる。金の受け渡しは玄関先だ。値段は可能な回数や時間によってまちまち。金を払うとすぐにシャワーに追いやられ、 ラヴホテルに置いてある寝巻みたいな間の抜けた格好に着替える。
腋のしたを湿らせたまま、アンタはリビングルームへ移動するだろう。「大人のパーティ」へようこそ。テーブルというよりちゃぶ台には、乾きものや簡単な仕出しなどつまみが並び、その周りを何人かの何人かの男と女が囲んでいる。混浴サウナの待合室みたいだ。ざっと見たところ女は二十代も居れば三十代もいそうだ(もちろん熟女が売りの店なら六十代も、ことによると七十代もいる。)
アンタは水割りだかウーロン茶だかを一口すすると、男好きのする二十代後半のスウェットシャツを着た女(グラマーというよりちょっと太った鈍そうな女)に目配せする。女はうなずいて立ち上がる。アンタは女といっしょに寝室に続くドアの前に立つだろう。安普請のマンションの薄い扉を通して、中から男と女のうめき声が聞こえてくる。アダルトビデオではなく生の音。寝室の中はカゲロウの羽根のようなカーテンで仕切られ、布団が何組かしかれているはずだ。
寝室で何をするかは、そっちで想像してくれ。
「大人のパーティ」は完全に非合法なので、組の直営店でなければ、どこかの組織に必ずみかじめ料は払っている。客とのトラブルや騒動が起きても、裏風俗では警察を呼べないからだ。
男たちは比較的リーズナブルに本番が出来る。女たちは見知らずの客と二人きりで密室に行かなくても良い金になる。経営者は当然儲かるし、そんなところで騒ぎを起こす客なんてめったにいないから、暴力団も楽な商売が出来る。考えてみればうまく出来たシステム!なのだが、そこの盲点を突く奴が、この夏池袋にあらわれた。
禁じられた商売の、あるはずの無い上がりをさらっていく、四人組の強盗団。パーティ潰しだ。
七月二十一日、あすから夏休みに入るという金曜日の夕方、店番をしているおれのスマートフォンが鳴った。軍パンの尻ポケットから取り出し、耳に当てる。
『悠か、俺ぁだ、拳二。今なにしてる?』
名前を名乗らなくてもドスの利いたオッサン声で誰だかわかる。おれの(一応)中学の先輩で、今は一ノ瀬組渉外部長だ。
「街を見てる」
おれは茶屋の奥につっ立ち、街を通り過ぎる通行人を眺めていた。人通りの少ないこの時間、店はいつも暇なのだ。
『そうか。今夜、時間をつくってくんねぇか』
声の様子が真剣だった。ゴリラにしては珍しい。
「いいけど。」
『もうどんくらいになるか、うちのオヤジと会った店を憶えてるか』
覚えているといった。南池袋本立寺の脇に建つ高級クラブばかり入ったビルだ。もちろんあれから一度も足を運んではいない。
『あの店による十時に来てくれ。お前のダチの崇も、うちのおやじも待ってるはずだから、時間は正確にな』
崇も顔を見せるという、それならS・ウルフ絡みの話しなのだろうか。何の用だといおうとしたら、切れてしまった。気の短いゴリラ。