ー特別編ーカウントアップ
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周囲に人が集まり始めたので、おれたちはすぐにその場を離れた。現場には修理代がかさむデリカ・スペースギアだけが残っている。いつもながらSウルフの鮮やかな手並みに感心した。タカシとはその夜、ラスタ・ラヴで会う約束をした。Sウルフのクルマ二台は交差点をすぎるたびに、一台ずつ消えていった。最後におれのジープだけになる。ヒロキはカチカチと計数機を叩きながら、となりの助手席に座り超然とした笑いを浮かべ、フロントウインドーを見つめている。
クリスマスイブの池袋を、豊島開発めざしてゆっくりと走った。どの通りにもやけになったように「ジングルベル」が鳴り響き、赤いリボンと金箔でつくった鐘がさがっている。池袋本町に着くと、多田の会社の本社ビルの裏手にジープをとめた。ヒロキがぽつりといった。
「ねえ、悠……悠はぼくを好きになっちゃいけないよ。いじめなくちゃだめだよ。ぼくが好きになる人は、みんなぼくにひどいことをする。ぼくはエリト兄ちゃんも、パパも大好きだったんだ。だから、ぼくは人を好きにならないし、人からも好かれちゃいけないんだ」
そういうとヒロキはためらうように力なく計数機を打った。
「悠がぼくを好きになるのをやめなきゃ、ぼくはおかしくなるよ。」
おれから目をそらし、正面に建つ防弾ガラスのはまった建物にむかって、ぼろぼろと涙を落とす。誰にも傷つけさせないというあの遠い笑いを浮かべたまま、ヒロキは声を殺して泣いていた。
おれはシートをずれて、十歳の少年を抱き締めた。。薄いけれど熱い身体。ヒロキの両手から助手席のシートに計数機が転げ落ちた。いっしょにすこしだけ泣いた。それ以外になにができる。ヒロキはあの父親とそいつが支配するジャングルとともに生きていくしかないのだ。おれはいった。
「わかったよ、ヒロキ。おまえのことは好きにも嫌いにもならない。その代わり、ずっといっしょにいてやる。ずっといっしょに遊ぼうな」
ヒロキは泣きながらうなずいた。おれは計数機を拾い、ちいさな手に握らせてやった。ドアを開けるとヒロキは真冬の路上に降りる。ヘルメットのストラップを揺らせたまま、自分のつま先を見つめていった。
「あとで悠に電話してもいいかな」
うなずいて、聞いてみる。
「番号覚えてるか」
ぱっとヒロキの表情が輝いた。でたらめな早口で歌うようにいう。
「ケンタ・スカイラーク・ケンタ・デニーズ・デニーズ・ヨシノヤ・マック・スカイラーク・ミスド・ヨシノヤ・ガスト。ぼくは一度覚えた数は一生忘れないよ。」
おれはゆっくりとクルマをだした。百メートルほど離れてとめる。ヒロキは街路樹の影からまだこっちを見ている。携帯を取りだし、シャロン吉村にかけた。ビルの裏にヒロキをおろした。エリトには金を渡して逃がした。それだけいって、すぐに切る。
シャロン吉村が通用口を駆けおりて、ぽつりと道のうえに立つヒロキを抱き締めるのを確認して、おれはその場を離れた。
クリスマスイブの池袋を、豊島開発めざしてゆっくりと走った。どの通りにもやけになったように「ジングルベル」が鳴り響き、赤いリボンと金箔でつくった鐘がさがっている。池袋本町に着くと、多田の会社の本社ビルの裏手にジープをとめた。ヒロキがぽつりといった。
「ねえ、悠……悠はぼくを好きになっちゃいけないよ。いじめなくちゃだめだよ。ぼくが好きになる人は、みんなぼくにひどいことをする。ぼくはエリト兄ちゃんも、パパも大好きだったんだ。だから、ぼくは人を好きにならないし、人からも好かれちゃいけないんだ」
そういうとヒロキはためらうように力なく計数機を打った。
「悠がぼくを好きになるのをやめなきゃ、ぼくはおかしくなるよ。」
おれから目をそらし、正面に建つ防弾ガラスのはまった建物にむかって、ぼろぼろと涙を落とす。誰にも傷つけさせないというあの遠い笑いを浮かべたまま、ヒロキは声を殺して泣いていた。
おれはシートをずれて、十歳の少年を抱き締めた。。薄いけれど熱い身体。ヒロキの両手から助手席のシートに計数機が転げ落ちた。いっしょにすこしだけ泣いた。それ以外になにができる。ヒロキはあの父親とそいつが支配するジャングルとともに生きていくしかないのだ。おれはいった。
「わかったよ、ヒロキ。おまえのことは好きにも嫌いにもならない。その代わり、ずっといっしょにいてやる。ずっといっしょに遊ぼうな」
ヒロキは泣きながらうなずいた。おれは計数機を拾い、ちいさな手に握らせてやった。ドアを開けるとヒロキは真冬の路上に降りる。ヘルメットのストラップを揺らせたまま、自分のつま先を見つめていった。
「あとで悠に電話してもいいかな」
うなずいて、聞いてみる。
「番号覚えてるか」
ぱっとヒロキの表情が輝いた。でたらめな早口で歌うようにいう。
「ケンタ・スカイラーク・ケンタ・デニーズ・デニーズ・ヨシノヤ・マック・スカイラーク・ミスド・ヨシノヤ・ガスト。ぼくは一度覚えた数は一生忘れないよ。」
おれはゆっくりとクルマをだした。百メートルほど離れてとめる。ヒロキは街路樹の影からまだこっちを見ている。携帯を取りだし、シャロン吉村にかけた。ビルの裏にヒロキをおろした。エリトには金を渡して逃がした。それだけいって、すぐに切る。
シャロン吉村が通用口を駆けおりて、ぽつりと道のうえに立つヒロキを抱き締めるのを確認して、おれはその場を離れた。