ー特別編ーカウントアップ
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その日、携帯が鳴ったのは二度。どちらもシャロン吉村からだった。おれは打てる手は打ったといって電話を切った。唯は組織の人間を総動員して池袋駅周辺に網を張ってるそうだ。Sウルフと豊島開発、どっちに先に見つかるかで、ヒロキの兄貴の運命は決まる。どうしようもないバカだそうだから、今ごろは黄金の夢でも見ているのだろう。
その夜は服を着たまま眠った。おれは夢は見なかった。
クリスマスイブ、空は一転して荒れ模様。朝から夕暮れのように暗い日だった。おれは開店直後の銀行にはいり、シャロン吉村の通帳を解約した。六百数十万の金を紙袋にいれて小脇に抱える。帰り道、心配していたほどには誰もおれに注意を払わなかった。着古した虎と龍が背中で睨みあうスタジャンに中古の軍パン。金などもっていそうには見えない若造なんだから、あたりまえ。
自分の部屋に戻り、金を分けていった。懸賞金、Sウルフの取り分、禅への支払い。それでも三分の一はあまる。残りをまた紙袋に戻した。もう眠ってはいられない。身の代金の受け渡し時間まで、七時間をきっている。おれの携帯はなかなか鳴らなかった。
悲鳴をあげそうに焦りながら、おれは待っていた。もう見つからないかもしれない、半分諦めながら午後一時すぎ味のしない昼飯をつついていると、ちゃぶ台のうえの携帯が鳴り出した。すぐに取る。
『西池袋二丁目。自由学園と婦人之友社のあいだの通りを走ってる。上り屋敷の方向だ。すぐに来い。おれたちはクルマ二台で、スペースギアをはさんでる。』
箸を放り投げて、駆け出した。例の紙袋と携帯は離さずにもっていく。ガレージのジープに飛び乗ると、おれはギアをローに叩き込んだ。通りの拡声器からは、シンセサイザーで下品にアレンジした『アヴェ・マリア』が降っている。
自由学園は池袋警察署のどんづまりの道をはいってすぐだ。おれはどこかにいるパトカーや豊島開発のクルマの注意を引かない最大限のスピードで、池袋の街を駆けた。角に自由学園がある交差点に到着する。上り屋敷公園のほうへ右折。五十メートルほど走ると右手に公園の緑が見えてきた。
公園脇の通りには三台のクルマが鼻先をくっつけるようにとまっている。真ん中が昆虫のようなデザインの白いスペースギアだった。窓にはスモークフィルムが張られ、内部は見えない。最後尾のシェビーヴァンのあとにジープをつけた。おれがクルマをとめるのとほとんど同時に、先頭のパジェロから女がひとりおりてくる。だぶだぶの軍用フィールドジャケットに黒革のパンツ。ひっつめにした髪。炎銃だった。彼女はにっこり笑うと、スペースギアのフロントウインドーにスプレー缶をむけた。長い刀のようにペンキの霧がのびて、みるみるウインドーを真っ白に塗り込めていく。
その夜は服を着たまま眠った。おれは夢は見なかった。
クリスマスイブ、空は一転して荒れ模様。朝から夕暮れのように暗い日だった。おれは開店直後の銀行にはいり、シャロン吉村の通帳を解約した。六百数十万の金を紙袋にいれて小脇に抱える。帰り道、心配していたほどには誰もおれに注意を払わなかった。着古した虎と龍が背中で睨みあうスタジャンに中古の軍パン。金などもっていそうには見えない若造なんだから、あたりまえ。
自分の部屋に戻り、金を分けていった。懸賞金、Sウルフの取り分、禅への支払い。それでも三分の一はあまる。残りをまた紙袋に戻した。もう眠ってはいられない。身の代金の受け渡し時間まで、七時間をきっている。おれの携帯はなかなか鳴らなかった。
悲鳴をあげそうに焦りながら、おれは待っていた。もう見つからないかもしれない、半分諦めながら午後一時すぎ味のしない昼飯をつついていると、ちゃぶ台のうえの携帯が鳴り出した。すぐに取る。
『西池袋二丁目。自由学園と婦人之友社のあいだの通りを走ってる。上り屋敷の方向だ。すぐに来い。おれたちはクルマ二台で、スペースギアをはさんでる。』
箸を放り投げて、駆け出した。例の紙袋と携帯は離さずにもっていく。ガレージのジープに飛び乗ると、おれはギアをローに叩き込んだ。通りの拡声器からは、シンセサイザーで下品にアレンジした『アヴェ・マリア』が降っている。
自由学園は池袋警察署のどんづまりの道をはいってすぐだ。おれはどこかにいるパトカーや豊島開発のクルマの注意を引かない最大限のスピードで、池袋の街を駆けた。角に自由学園がある交差点に到着する。上り屋敷公園のほうへ右折。五十メートルほど走ると右手に公園の緑が見えてきた。
公園脇の通りには三台のクルマが鼻先をくっつけるようにとまっている。真ん中が昆虫のようなデザインの白いスペースギアだった。窓にはスモークフィルムが張られ、内部は見えない。最後尾のシェビーヴァンのあとにジープをつけた。おれがクルマをとめるのとほとんど同時に、先頭のパジェロから女がひとりおりてくる。だぶだぶの軍用フィールドジャケットに黒革のパンツ。ひっつめにした髪。炎銃だった。彼女はにっこり笑うと、スペースギアのフロントウインドーにスプレー缶をむけた。長い刀のようにペンキの霧がのびて、みるみるウインドーを真っ白に塗り込めていく。