ー特別編ーカウントアップ
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「もしもし、私だ」
シャロン吉村は心配そうに多田を見つめている。おれたちには電話相手の声は聞こえなかった。商談でもすすめるように多田は冷静に受け答えしている。金額は、場所は、ブツの状態は?ひどく長い時間がたったようだが、三、四分ではないだろうか。多田がおれを見ていった。
「ああ、そのガキならここにいる。そっちもヒロキと代わってくれ。」
おれに携帯がまわされた。多田は年寄りからイヤホンを奪うと、すぐに右耳にはめこんだ。おれは携帯のしたに開いたシャープペンシルの刺し傷みたいな穴にむかっていった。
「ヒロキか。おれ、悠だ。元気でやってるか」
『うん、だいじょうぶ』
雑音混じりのヒロキの声が聞こえた。バックにはカチカチという計数機の音がする。わずかな間をおいてヒロキは突然叫びだした。
『ワー、ワー、ワー。なんか薬が切れちゃって、ちょっとおかしいんだ』
「どうした?」
おれはあわてて叫んだ。
『ワー、ワー。なんかお腹すいちゃった。ねえ、悠、これが済んだら食べにいこう。』
興奮したヒロキはわけがわからないことを、ひどい早口で喋りだした。
『やっぱさ、河童寿司でハマチ食べて、ピザーラでイタリアンバジル食べて、マクドナルドでフィレオフィッシュ食べて、ミスタードーナツでポンデリングがいいな』
ひどい早口はそのまま、ヒロキは必死にしゃべっている。やつの言葉の途中でおれは稲妻に打たれたように思い出した。いつかヒロキが話していた数字の記憶法!やつはおかしな振りをして、なにかの数字をおれに伝えようとしている。おれにだけわかる数のメッセージだ。多田に気づかれないように、おれは目の色を隠す。焦った振りをしていった。
「おまえ、ほんとうにだいじょうぶか!飯だな、いっしょに食べよう。お前が行きたいところで好きなだけ」
『ワー・カッパ・ピザーラ・マック・ミスド。ワー・カッパ・ピザーラ・マック……』
会話の途中で、いきなりぷつりと携帯が切れてしまう。多田がイヤホンをはずすとあきれた顔でおれにいった。
「いったい、ありゃあなんなんだ」
おどおどとヒロキの父親から目をそらせ、おれはわけがわからないといった。ヒロキは薬が切れると、ときどきあんなふうにおかしくなると。シャロン吉村はソファに座ったまま手の甲が真っ白になるほどこぶしを握りしめている。
昨日の夜聞いた話を思い出した。ヒロキはお手伝いがつくる家庭料理が嫌いで、母親のでなければ、毎晩でも外へファストフードを食べに出ていたという。その悲しい晩飯が、ヒロキオリジナルの記録法の元になったのだ。なにが幸運でなにが不幸なのか、おれたちにはほとんど判断などできない。
シャロン吉村は心配そうに多田を見つめている。おれたちには電話相手の声は聞こえなかった。商談でもすすめるように多田は冷静に受け答えしている。金額は、場所は、ブツの状態は?ひどく長い時間がたったようだが、三、四分ではないだろうか。多田がおれを見ていった。
「ああ、そのガキならここにいる。そっちもヒロキと代わってくれ。」
おれに携帯がまわされた。多田は年寄りからイヤホンを奪うと、すぐに右耳にはめこんだ。おれは携帯のしたに開いたシャープペンシルの刺し傷みたいな穴にむかっていった。
「ヒロキか。おれ、悠だ。元気でやってるか」
『うん、だいじょうぶ』
雑音混じりのヒロキの声が聞こえた。バックにはカチカチという計数機の音がする。わずかな間をおいてヒロキは突然叫びだした。
『ワー、ワー、ワー。なんか薬が切れちゃって、ちょっとおかしいんだ』
「どうした?」
おれはあわてて叫んだ。
『ワー、ワー。なんかお腹すいちゃった。ねえ、悠、これが済んだら食べにいこう。』
興奮したヒロキはわけがわからないことを、ひどい早口で喋りだした。
『やっぱさ、河童寿司でハマチ食べて、ピザーラでイタリアンバジル食べて、マクドナルドでフィレオフィッシュ食べて、ミスタードーナツでポンデリングがいいな』
ひどい早口はそのまま、ヒロキは必死にしゃべっている。やつの言葉の途中でおれは稲妻に打たれたように思い出した。いつかヒロキが話していた数字の記憶法!やつはおかしな振りをして、なにかの数字をおれに伝えようとしている。おれにだけわかる数のメッセージだ。多田に気づかれないように、おれは目の色を隠す。焦った振りをしていった。
「おまえ、ほんとうにだいじょうぶか!飯だな、いっしょに食べよう。お前が行きたいところで好きなだけ」
『ワー・カッパ・ピザーラ・マック・ミスド。ワー・カッパ・ピザーラ・マック……』
会話の途中で、いきなりぷつりと携帯が切れてしまう。多田がイヤホンをはずすとあきれた顔でおれにいった。
「いったい、ありゃあなんなんだ」
おどおどとヒロキの父親から目をそらせ、おれはわけがわからないといった。ヒロキは薬が切れると、ときどきあんなふうにおかしくなると。シャロン吉村はソファに座ったまま手の甲が真っ白になるほどこぶしを握りしめている。
昨日の夜聞いた話を思い出した。ヒロキはお手伝いがつくる家庭料理が嫌いで、母親のでなければ、毎晩でも外へファストフードを食べに出ていたという。その悲しい晩飯が、ヒロキオリジナルの記録法の元になったのだ。なにが幸運でなにが不幸なのか、おれたちにはほとんど判断などできない。