ー特別編ーカウントアップ
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オフィスビルなのに入り口はオートロックになっていた。曇りガラスの自動ドアは防弾仕様なのだろうか。おれは運転手のあとを黙ってついていった。エレベーターは最上階でとまる。ドアが開くと、明かりを抑えた廊下が続いていた。踏み心地のやわらかなカーペット。社長室とプレートの張られた木目の扉は、運転手が叩くと金属の音がする。
「失礼します。お客人をお連れしました」
さっと一挙動でドアを引くと、室内を見ないように視線を落とし、頭をさげたままドアを押さえている。
「どうぞ」
おれにむかってそういった。躾のいい猟犬。おれは室内にはいった。奥の窓際にタブルベッドくらいはありそうな大型デスク、手前にはソファセットがおかれている。八人掛けのソファに座った五人の視線がおれに集中した。知っている顔がシャロン吉村だけだった。残り四人はとてもかたぎとは思えない。視線の痛さが違う。
センターテーブルを見ると、中央に一台の携帯電話が放り出してあった。コードが二本延びている。一瞬おれに集まった視線は、再び携帯に戻された。
「うちの主人で、豊島開発社長の多田三樹男です」
シャロン吉村はおれに会釈してそういった。上座のひとり掛けソファに座る多田は小柄な中年男だった。上着を脱ぎ、白いシャツを袖まくりしている。ちいさな頭に、こづくりの造作。靴も腕時計もベルトもちいさく見える。だが、全体の雰囲気は割れたばかりのガラス片のような鋭利な冷たさを感じさせた。この男の指示をミスしたくない、手下たちが必死に走り回るのがよくわかった。王狐文と同じで、なぜ、あっちの業界の人間は、普通なら抑えているはずの本性を、ああむきだしにできるのだろうか。多田は街のしらみでも見るような目でおれを見る。
「掛けなさい。君がヒロキのただひとりの友達だそうだな。あの子はときどきおかしなことをいう。君と話がしたいそうだ。私からの願いは、なるべく話を引き延ばし、むこうの情報を集めることだ。よろしく頼む。」
多田は父親としてひとり息子の心配をしている素振りなど、かけらも見せなかった。それだけいうと、もうおれを無視した。ぼそぼそと小声で隣の年寄りとなにか話している。シャロン吉村はおれと目があうと、あやまるようにゆっくりと視線をさげた。
壁の時計は三時五分まえを指している。おれも黙って携帯電話の鑑賞会に参加した。
三時ちょうど、暖房で汗ばむほど暑い室内に携帯電話の電子音が鳴り響いた。テーブルを囲む一番若い男がテープレコーダーのスイッチを飛び上がるように押し、年寄りが耳にイヤホンを差し込んだ。二人とも多田にむかってうなずく。多田はゆっくりと四度目の呼び出し音で携帯をとった。
「失礼します。お客人をお連れしました」
さっと一挙動でドアを引くと、室内を見ないように視線を落とし、頭をさげたままドアを押さえている。
「どうぞ」
おれにむかってそういった。躾のいい猟犬。おれは室内にはいった。奥の窓際にタブルベッドくらいはありそうな大型デスク、手前にはソファセットがおかれている。八人掛けのソファに座った五人の視線がおれに集中した。知っている顔がシャロン吉村だけだった。残り四人はとてもかたぎとは思えない。視線の痛さが違う。
センターテーブルを見ると、中央に一台の携帯電話が放り出してあった。コードが二本延びている。一瞬おれに集まった視線は、再び携帯に戻された。
「うちの主人で、豊島開発社長の多田三樹男です」
シャロン吉村はおれに会釈してそういった。上座のひとり掛けソファに座る多田は小柄な中年男だった。上着を脱ぎ、白いシャツを袖まくりしている。ちいさな頭に、こづくりの造作。靴も腕時計もベルトもちいさく見える。だが、全体の雰囲気は割れたばかりのガラス片のような鋭利な冷たさを感じさせた。この男の指示をミスしたくない、手下たちが必死に走り回るのがよくわかった。王狐文と同じで、なぜ、あっちの業界の人間は、普通なら抑えているはずの本性を、ああむきだしにできるのだろうか。多田は街のしらみでも見るような目でおれを見る。
「掛けなさい。君がヒロキのただひとりの友達だそうだな。あの子はときどきおかしなことをいう。君と話がしたいそうだ。私からの願いは、なるべく話を引き延ばし、むこうの情報を集めることだ。よろしく頼む。」
多田は父親としてひとり息子の心配をしている素振りなど、かけらも見せなかった。それだけいうと、もうおれを無視した。ぼそぼそと小声で隣の年寄りとなにか話している。シャロン吉村はおれと目があうと、あやまるようにゆっくりと視線をさげた。
壁の時計は三時五分まえを指している。おれも黙って携帯電話の鑑賞会に参加した。
三時ちょうど、暖房で汗ばむほど暑い室内に携帯電話の電子音が鳴り響いた。テーブルを囲む一番若い男がテープレコーダーのスイッチを飛び上がるように押し、年寄りが耳にイヤホンを差し込んだ。二人とも多田にむかってうなずく。多田はゆっくりと四度目の呼び出し音で携帯をとった。