ー特別編ーカウントアップ
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おれはエントランスのまえでなかから住人が出てくるのを待った。しばらくすると、髪を淡い紫に染めた品のいい婆さんが、エレベーターホールを歩いてくる。おれはエントランスに飛び込んだ。
「こんにちは」
明るく挨拶して、オートロックのドアをすれ違う。むこうも笑っていた。おれの爽やかな笑顔の勝利。エレベーターで四階にあがった。406号室。焦茶色のドアのまえに立つ。なかには誰もいない。同じようなドアが並ぶマンションでも、なかに人のいるドアとそうでないドアはなぜかわかるものだ。
おれはさっとドアの周囲を見回した。ドアのしたの右端には髪の毛が一本、細く裂いたメンディングで張り付けてあった。誰かが開ければ髪が切れて、帰宅したことがわかる。エリトのことは豊島開発にはまだ知られていないから、取り立て屋がやったのだろう。
ヒロキの兄がかなり追い込まれているのは間違いないようだった。
新大塚からの帰り、西口公園を通り抜けると懐かしい顔がベンチに並んでいた。猟犬とその粗暴な相棒。クリスマス直前に池袋にはまるで似合わないふたりだった。やつらはおれの顔を見つけると、顔色を変えて早足でむかってくる。逃げようか迷ったが、そんなことをすれば怪しまれるだけ。それで円形広場のまんなかで話し合うはめになった。こんなやつらといっしょのところを、おれのファンが見たらきっと泣くだろう。
「おい、小鳥遊。うちのオヤジがお前を呼んでる。ちょっと顔を貸してくれ」
猟犬の運転手がいった。言葉つきは汚いが、ちょっと遠慮しているように聞こえた。不思議だ。
「それは命令、お願い、どっちなんだ」
相棒がまた泡を吹いた。猟犬が視線だけでやつをとめる。さすがに迫力があった。おれはこの猟犬に親しみを感じ始めていた。これも不思議。運転手はいいにくそうにいう。
「まあ、お願いなんだろうな。坊っちゃんをさらったやつから、昨日の夜電話があった。なぜかわからんが、ヒロキ坊っちゃんはおまえの声を聞きたがっているんだそうだ。今日の三時にまた電話がある。きてくれるか」
もう二時半をすぎていた。さすがにこのふたりも焦るわけだ。ヒロキがそういうならいかないわけにはいかない。
「もちろんだ。案内してくれ。」
運転手はうなずくと、はにかむような笑顔を見せた。笑う猟犬。
またほんの数分だけ、メルセデスにのせられた。池袋本町の簡易裁判所近くにある豊島開発の本社ビル。ひっそりと静かで窓のちいさな中層の建物で、周囲の街並みに無理なく溶け込んでいる。通りすがりが見たら地元の建設会社にでもまちがえるだろう。
「こんにちは」
明るく挨拶して、オートロックのドアをすれ違う。むこうも笑っていた。おれの爽やかな笑顔の勝利。エレベーターで四階にあがった。406号室。焦茶色のドアのまえに立つ。なかには誰もいない。同じようなドアが並ぶマンションでも、なかに人のいるドアとそうでないドアはなぜかわかるものだ。
おれはさっとドアの周囲を見回した。ドアのしたの右端には髪の毛が一本、細く裂いたメンディングで張り付けてあった。誰かが開ければ髪が切れて、帰宅したことがわかる。エリトのことは豊島開発にはまだ知られていないから、取り立て屋がやったのだろう。
ヒロキの兄がかなり追い込まれているのは間違いないようだった。
新大塚からの帰り、西口公園を通り抜けると懐かしい顔がベンチに並んでいた。猟犬とその粗暴な相棒。クリスマス直前に池袋にはまるで似合わないふたりだった。やつらはおれの顔を見つけると、顔色を変えて早足でむかってくる。逃げようか迷ったが、そんなことをすれば怪しまれるだけ。それで円形広場のまんなかで話し合うはめになった。こんなやつらといっしょのところを、おれのファンが見たらきっと泣くだろう。
「おい、小鳥遊。うちのオヤジがお前を呼んでる。ちょっと顔を貸してくれ」
猟犬の運転手がいった。言葉つきは汚いが、ちょっと遠慮しているように聞こえた。不思議だ。
「それは命令、お願い、どっちなんだ」
相棒がまた泡を吹いた。猟犬が視線だけでやつをとめる。さすがに迫力があった。おれはこの猟犬に親しみを感じ始めていた。これも不思議。運転手はいいにくそうにいう。
「まあ、お願いなんだろうな。坊っちゃんをさらったやつから、昨日の夜電話があった。なぜかわからんが、ヒロキ坊っちゃんはおまえの声を聞きたがっているんだそうだ。今日の三時にまた電話がある。きてくれるか」
もう二時半をすぎていた。さすがにこのふたりも焦るわけだ。ヒロキがそういうならいかないわけにはいかない。
「もちろんだ。案内してくれ。」
運転手はうなずくと、はにかむような笑顔を見せた。笑う猟犬。
またほんの数分だけ、メルセデスにのせられた。池袋本町の簡易裁判所近くにある豊島開発の本社ビル。ひっそりと静かで窓のちいさな中層の建物で、周囲の街並みに無理なく溶け込んでいる。通りすがりが見たら地元の建設会社にでもまちがえるだろう。